第52話 ブレックファースとろろ
魔女の都市調査三日目。シスタークルミとの約束があるから、イノリがここに滞在できる最後の日でもある。
「隊長、非常にまずい状況です!
もう三日目だというのに、“切り貼り”の魔術使いは見当たらず。イノリさん達の協力により一日かからぬ理外の速度で中皇に戻れるとはいえ、魔女の都市に入れるのは今日限り!
このままでは我々は纏めて解雇されてしまうのであります!!!」
時間がないのはダン達もらしい……。
「朝から騒ぐなバカタレ。朝飯ぐれェゆっくり食わせろ」
それなのに彼らのまとめ役であるダンはすごく落ち着いている。
何か策があるのか……?
「それとサムラ、そんな遠いところから俺らが飯食ってるとこ撮ってんじゃねェよ」
とろろごはんのお茶碗と箸を置いて、サムラに顔を向けるダン。一方のサムラが向けているカメラは、ダンとの距離が三十センチ程と誰が見ても距離が近い。
「てめェら二人揃って俺の朝飯を邪魔してんのか?」
「あ、いや、こうしないと上手くアンタだけを撮れなくてだな……」
サムラはダンの睨みつけにワタワタとしながらもカメラで撮り続ける。
ダンの鋭い目つきは次に俺に向かった。
なんだ? 俺がお前の食事を邪魔するとでも思っているのか?
心配すんな、そんなことをする気はさらさら無い。
俺は今、初めて食べる“とろろごはん”というものを全力で味わいたいんだ。
お前達に見られ続けようと、かまっている暇はない!
そんな意味を込めて頷くと、ダンは納得してまたとろろごはんのお茶碗と箸をとる。
俺も食べよう、“とろろごはん”を……!
炊き立ての温かいご飯の上に、白くつぶつぶとした芋から作られたネバネバこと“とろろ”を乗せて、味付けに醤油をかける。
それだけなのに美味しい。スプーンで掬う手が止まらない。
クルゾウの調理魔術で作られたから過程は不明だが、あの硬そうな芋がここまでとろりとして柔らかくなるなんて不思議でたまらん。
いや、それにしてもほんと美味いな。
ふと顔を上げると、ダンがお茶碗を持ち上げてとろろごはんをかきこんでいる。
真似してみると、口の中がご飯で埋め尽くされて、すごい満足感だ。
────が、かきこみ過ぎて咽せてしまった。
「アル、普段そんな食べ方してないんだから変に真似ようとしないでください。ほら、これで口の周りを拭いて」
「あぁ……、悪い」
エリゼから渡されたハンカチで口を拭いていると、俺をじっと見つめているイノリと目が合った。
朝食も済まし、いよいよ生存確認訪問の三日目が始まる。
「てめェも時間がねェんだろ? だったら手がかり見落とすんじゃねェぞ」
そう言い残してダン達第四騎士隊組は行ってしまった。……と思いきや、オノコが走り戻ってきて俺の前で止まる。
「ご武運を!!!」
綺麗な敬礼と共にハリのある声で応援を送り、またダンの元へ走って行った。
きっと、彼らも口に出さないだけで気合十分なのだろう。だったら俺らも負けてられない。
というわけで、本日のチーム分けだが……。
「あ、あの……ガリアスさん! 今日は、私と一緒に……! その……、行きませんか?」
俺の手を両手で握っていの一番に提案するイノリ。彼女の顔は少し紅潮している。
「いいぞ。俺もちょうどイノリと回りたいと思ってたところだった」
「────! ほんとですか?! ありがとうございます。では、すぐに行きましょう!」
彼女の緊張した表情がパッと明るくなって、握っていた俺の手を強く引っ張る。
グシャッ!
またなんか潰れる音がしたな。
あと、隣のメイドエルフから圧を感じる。
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