第51話 ノリ捨て共の歓声
鏡のように磨き上げられた木の床の上を運動靴が擦れる音と、ボールを叩く音が響く体育館。
重い扉がゆっくりと開き、フードを被り赤黒い水晶をはめた杖を持った老婆が入ってくる。老婆に気付いたバレー民はピタリとプレーを止め、打ち手がいなくなったボールが力無く床に転がる音が響く。
バレー民が一様に老婆を見る中、老婆は持っていた杖で床を、ドン、と叩くとその姿が消えて、バレー民が立っているバレーコートの中心に現れた。
驚きながらコートの中心に振り向くバレー民を老婆はしばらく眺めて、やがて口を開いた。
「皆、新しい体には慣れたようだな」
クックックッ、と笑いながらしゃがれた声をバレー民に向ける老婆。その声にバレー民は頷く。
その中から毛むくじゃらな男が両手を広げて軽やかに回りながら、前に出てくる。
「どれだけ走っても、どれだけ動いても疲れない。か弱い乙女だったあの頃とは大違いだわ」
「そうでやんす。出っ歯がないだけでこんなに喋りやすいなんて……。やっぱりネズミの獣人の体なんてクソでやんす!」
バレー民は口々に新しい体の感想を述べ、やがて————。
「さすがです、魔術師様!」
言葉は老婆への賛辞に変わり、拍手と共に送られる。
「いよっ! スーパーマジシャン・トツノリ!」
「これは魔女の都市始まって以来の天才!」
「魔術師の鏡にして人間の屑!」
「会う時毎回顔変わってんねぇ!」
「ネカマをリアルでやる男!」
老婆改め魔女、ではなく魔術使いトツノリは右手をあげて賛辞を抑える。そして、ドンと杖で床を一突き。
今度は毛むくじゃらな男の頭の上に瞬間移動した。
「ネズミが紛れ込んでおる……!」
体育館内は一瞬でしん……、と静まり返る。
「中皇から来た三名の軍人。フードを深く被った桃色の瞳の女。帽子を被った碧い瞳の女。そして赤みがかった黒髪の男。そいつらはこの私を探しているらしい。
他のお客様によると、そいつらはクルゾウの家にいるとのことだ」
「では今すぐにでも奇襲を……」
今度は杖で毛むくじゃらな男の頭をつくと、意見を出したバレー民の頭の上にトツリノは移動して足元のバレー民を黙らせる。
「まぁ待て。今の情報は兄者にも教えていてな、兄者の返答が来るまでは動かない方がいい
…………そう心配するな、既に一人乗っ取っておる」
おおっ、と声を漏らすバレー民。足元のバレー民の頭を杖で突くと、今度はバレーコートを仕切るネットの上に移動し、軽い足取りでその上を渡りながら喋る。
「そいつにも言ったが、お前達はくれぐれも乗っ取っていることはバレるなよ」
そしてネットを半分渡り切ったところで足を止め、持っていた杖を掲げる。
「サーブ練習、始めッ!」
するとバレー民は一斉にネットに向かって強烈なジャンプサーブを放つ。ボールはネットを貫通し、網部分全てを消し飛ばした。
「うむ、合格だ……!」
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