第50話—②
噛んだ。その上に声が裏返った。
けれども、噛んで裏返ったということはセンが普段では出さない声量で喋ったということ。
「どうって……それは難しいな。イノリを魔術使いとして見るか、一人の人族として見るかで俺の中では大きく変わるな」
「かかか、変わるの……?! じゃあ————魔術使いとして……は?」
俺から見た魔術使いとしてのイノリ。それはズバリ————。
「対局の存在だ。それでいて尊敬する存在、と思っている」
予想外の答えだったのか、首を傾げたまま固まるセン。
「俺は魔術なんか殆ど使えなくて何の能力もないに等しい。ただちょっと力が強いくらいなだけなんだ」
「そ、そうなの……?! 本当に、本当に魔術が使えないの……?」
急にグイグイくるセン。さっきまで合わせてこなかった目がずっと俺を見ている。
「あ、あぁ……。それに比べて、イノリはこの世界全てに影響を与えかねないほどの
「イノリお姉ちゃん……そんなにすごいんだ……」
「でも、その力を使って世界を思いの儘にすることはしないで、俺を助ける為だけに使っている。そこがイノリの尊敬できるところだし、そこに頼り切りな俺が情けなく思えてくる」
「そっ、そうなんだ……。アッ……エト……そそそ、それじゃー、ひ、人として、は?」
どもり方的に質問の本命はこっちか。
規格外の魔力量、中皇のシスター。そんな肩書を取っ払ってイノリを見た時に最初に浮かぶ言葉。
「彼女は────」
「おぉ、お前たち!」
センの質問への回答は、やって来たクルゾウの声に中断された。
「おじいちゃん……」
「イノリが心配しておったぞ。早く戻ってあげなさい」
クルゾウに言われてイノリ達のところへ小走りで向かうセン。
「さて、儂らもイノリ達に合流するとしようかのぉ」
しばらく経ってからクルゾウがそう言って歩き出すので、俺も彼に続いて歩き出した。
普通に合流するならセンと一緒に行けばいい。それなのにセンを先に行かせたということは、クルゾウは他の誰かを交えない俺との話をしたいということだ。
「アル君、今から君に三つの質問をさせて貰おうと思っておる。
まずは一つ目の質問じゃ。君にとって“魔術が上手い”とは何を指すかの?」
「ありとあらゆる物を創造できて、あらゆるものを操れる。それも平然に。そんなことができるなら“魔術が上手い”と言えるな」
「それはイノリのように底なしの魔力を持つ者でなければ実現出来ぬ神技の域の話じゃな」
そう言いながら薄く笑うクルゾウ。
神技か。確かにそんなことができるからこそ親父は魔王であれたんだろう。
「“魔術が上手い”者は分けて二つ。余りある魔力を無駄遣いできる者。限りある魔力を効率よく使える者。その二つじゃと儂は考えておる」
「なるほど。
魔力が限られているから、使用する魔術を限定し、魔力を多く消費する無からの生成ではなく元からある既製品を加工する形式に留める。そうすることで初めて効率のいい魔術が成り立つのだ。
「まぁそうなるの。では二つ目の質問じゃ、センの魔術を見て君はどう思った?」
そう言われて、俺はセンの姿を思い返す。
湖の水で龍を型作り俺たちの前に現れた時。そして今さっき噴水に腰がけてプラズマボールを作っていた時。
そしてそのプラズマボールが暴発した際に俺の右手を軽く焼いたこと。
つまりセンが使う“雷の魔術”について。
「魔力量としてはここにいる者達と比べても頭一つ以上抜けている。だが、雷の魔術の出力が強すぎる。雷の操り方を掴めていない」
「…………大当たりじゃ」
手を後ろに組み空を見上げながら歩くクルゾウは、センとの出会いを語り出した。
「儂は魔女の都市の長として後進の育成の為に簡素ながら学校を開いておってな、センはそこの生徒だったんじゃ。
魔術の使い方を掴んでいく他の子と自分を比べ、家に引き籠もっておっての。あの子の
電気を通す糸を使ってみたりしたがなかなか上手くいかなくて、そうしてる間にも引きこもりは酷くなっちまったのじゃ」
なるほど、だからさっき俺が魔術を使えないって言ったのに食いついてきたのか。
「雷を操るための何かこう……、要となるものを掴めるといいのじゃが」
「要か……」
「そこで、あのイノリに魔力制御の術を授けたアル君に三つ目の質問じゃ。要は何かのぅ?」
————結局、答えは出ないままイノリ達と合流した。
センからはエリゼとイノリが言い合いをしていたと聞いたが、実際に二人の様子を見るとそうは感じられない。
それとな〜く二人に生存確認訪問中に話でもしたのかと聞くと、
「特には何も。ただ…………ちょっと情報交換をしただけ」
とエリゼは答え。
「あの……、ガリアスさんは金と銀どちらが好きですか?」
と質問に質問で返された。
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