第50話─① クエスチョン・ロード

 体育館をあとにして街を散歩しながら奇形の家々を眺めていると、その道中で見覚えのある子供の人影を目にした。


(あれは……セン?)


 クルゾウと暮らしている中性的な少年。

 今日はイノリとエリゼと一緒に都市を回っていくハズだったが……。


 俺が遭遇した彼は、水が出ず蔦が張った噴水に腰がけ、手のひらから出る電撃に集中してプラズマボールを作っている。

 が、プラズマボールは彼の手のひらの大きさを超えた辺りで球体を崩しだした。


「危ない!」


 俺が大声を出すと、センは振り向き、崩れたプラズマボールのエネルギーが俺に向かう。

 俺は咄嗟に右手を出してエネルギーを受け止めた。


「アッ……エッ……。だだだ大丈夫……じゃなくて……ごごごごごめんなさい」


 エネルギーを受け止めた俺の右手は皮が多少焼けたが、ブラッドサンの血によって瞬く間に治癒していく。


「えっ? エッ? えーーー?  ガ、ガリアスさ? じゃなくて、えとアル……さん?

 ままま、魔族……だったの?」


 慌て止まらないセンに、俺はシーッ、とやって平気なことを示す。


「アルで大丈夫だ。君は今日はエリゼとイノリの二人と一緒に回るはずだったんじゃ?」


 そう聞くとセンはゆっくり頷く。


「そ、そうだったんだけど……。そのイノリお姉ちゃんと……エリゼさんが言い合いしてて……」


「言い合い?! 本当か?」


「え、あ……、えと……。言い合いだったかな……? 確か……、アルさんのこと何か言っていた……かも」


「…………そうか」


 センの証言によれば、起こったであろうエリゼとイノリによる俺に関する言い合い。それが本当かどうかはわからないが、センが逃げ出すようなものであったのは間違いない。

 後で合流した時に二人から聞くか。二人が答えてくれるかはわからないが。


「それよりも、君は俺の正体を知ってしまったようだな……」


 そう言うと、センはまた声を詰まらせてオロオロと焦りだす。

 中性的な見た目も相まって慌てる仕草が見てて楽しいな。


「見逃して欲しければ〜、俺にこの都市を案内してくれ」


「へ……?」


 というわけで俺はセンと一緒に街を見て回ることにした。


「うおっ。なんだこの岩?!」


「そ、それは……、石化魔術の研究をしている人の家……だったはず」


「じゃあ、あそこにある棒付き飴が突き刺さった家は?」


「えと……、お菓子の家。中で、お菓子いっぱい作る研究……してる、らしいです……」


「それじゃあそれじゃあ……! 向こうにある箒で組まれた家は、空飛ぶ箒の研究とかか?」


「あれは……ホームセンター……」


 俺がひたすらにセンを振り回す魔女の都市観光。流石にセンが疲れてきたので、噴水のところに戻って休憩することにした。


「なんか俺ばっかり質問してしまって悪いな。逆に何か俺に聞きたいこととかあったら言ってくれ。

 とは言っても、この都市については君の方が詳しいとは思うが」


「い、いえ……そんな大丈夫……」


 質問もないです、と言いかけてセンは黙り込む。そして立ち上がって俺の前に出る。

 彼は長い前髪が薄く隠している目を俺に向けていた。

 といっても、その目は一瞬だけですぐに泳ぎ出したのだが。


「えと……、その……。ア、アルさんは、イノリお姉ちゃんのこと、どどどどう思ってまひゅかぁ↑?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る