第49話─②
女性に許可を貰い、研究魔術を見せてもらうため“猫の家”に入れてもらえることとなった。
彼女は落ち着いた足取りで奥の部屋へ案内してくるが、その足元を歩く猫は二足歩行しながら音楽に合わせて腕を交差したり開いたりしている。
なるほど、この猫たちは女性の内心を表してるのか。どこぞの毒ビーム蟲姫みたいだな。
リビングも当然猫まみれだった。
腰ぐらいの大きさの猫達が、テーブルになるぜ椅子になるぜ、と背中を見せてくる。他に座れそうな場所ないしこの猫たちに座るしかないのか。
俺は縞模様の猫の背中にゆっくりと腰をかけた。うわ、めっちゃふわふか。
「そういえば家に入れてもらってはいるが、君の名前をまだ聞いていなかったな」
すると女横を見る女性。俺の彼女に合わせて視線の先を見る。そこには謎の機械を操作している猫がいた。
文字が刻まれたボタンを押すと、機械から紙がせりあがってくる。
『わたしのなまえはこねこです。あくせんとはさいしょのこをつよめに』
紙にはそう記されていた。
「コネコ。それが君の名前か」
猫が一度鳴く。コ↑ネコで合ってたようだ。
続け様に猫達が魔術研究の産物なのかと聞くと、コネコは頷き猫がまた機械を打ち出す。
『わたしのまじゅつはせいぶつにつうじょうとはことなるせいちょうをうながさせるもの。わたしはまじゅつのたいしょうをねこにげんていすることで、ここまでさまざまなしゅるいのこたちをうみだせたの」
生物の成長改造(猫限定)、それがコネコの魔術。
猫に代筆させるのは新しいが、長文で出されると読むのに時間かかるな。
確かに周りを見渡すと、猫の行動は多種多様だ。
代弁、代筆、テーブルと椅子。部屋に流れているBGMも、部屋の隅にいる額の模様が八の字に分かれた黄色い猫が奏でているギターだ。
猫が奏でるBGMに耳を傾けながら、コネコは椅子の猫とテーブルの猫にクッキーを食べさせている。
「まさにネコハウスだな」
それぞれの家具を見回そうとした際、俺の手が椅子ネコの腰に当たってしまった。途端に飛び跳ねる椅子ネコ。
それを皮切りに部屋の中の猫が一斉に暴れ出した。
俺は部屋の中を暴れ回りメチャクチャにする猫たちを眺めるしかない。
「みんニャ、落ち着いて……!」
ようやく喋ったコネコが猫達に語りかけるが、彼らは一向に治る気配を見せない。諦めたような笑顔を俺に向けるコネコ。
「ニャんか……みんな興奮しちゃってるみたいで……」
申し訳ないので、俺は猫ハウスから御暇することとした。
次にクルゾウに指定されたのは大きめの市民体育館。近づくと何かを叩きような音が聞こえてきた。
少し重めのドアを開けると、体育館の中では複数人の体格のいい男女が赤と白の二チームに分かれてバレーをしていた。
「ボール受けるわよ〜」
「いいわ! ナイスカバーよ!」
「上げるわよー」
「ブロックー」
「受けるわ受けるわ受けるわー」
試合に集中しているからか、バレーをしている人々は見ている俺には気づかない。
ネットで仕切られたボールのラリーは続いていく。だがそれもいつかは終わりが来るもの。
赤チームがアタックしたボールを、白チームの体毛が濃くてガタイのいい男が腕でなく顔面で受け止めてしまった。
ボールは力無く宙を舞って床に落ち、男性もペタンと座り込み泣き出した。周りの仲間は男に向かって、頑張りなさい! などと言って励ましている。
「わかってるわ、頑張らないと。でも、涙が出ちゃう……。だってあたい女の子だもん!!!」
俺は体育館の扉をそっと閉めた。
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