第49話─① チピチャパハウス
魔女の都市調査二日目。
本日の生存確認訪問は俺とクルゾウ、エリゼとイノリとセンに別れて行うことになった。
「アルくんを貸してもらってもらって申し訳ないのぉ」
「いえ、構いません。アルをよろしくお願いします。新しいとか言って動かなくなった尻を蹴っても大丈夫なので」
やっぱりだけど、エリゼは魔王城から出ると俺の扱いが雑になる時あるよな。
というわけで始まった俺とクルゾウの生存確認訪問。
「では儂は向こうの家を訪問してくるから、アルくんは向こうの家と更に向こうの体育館を頼むぞ」
「え?」
「なんじゃ? こっちの家の方が良かったか?」
「いや、二人で回るものかと」
「それだと時間がかかるじゃろ。元々、儂一人でやって一ヶ月弱かかってたんじゃ。それにアルくん達だって早く見つけたいじゃろ。
だったら手分けしてやった方が良い」
「だが、もし何かあったら……」
「大丈夫じゃ。だって君は強いじゃろ?
それじゃあ頼んだぞ〜」
クルゾウは手をヒラヒラ振りながら行ってしまった。
最後の一言、俺はどう返せば良いんだ?
クルゾウは俺が勇者だってことも、あまつさえ魔王だってことも知らないだろ。
じゃあ何が強いってんだよ。心とかか?
────考えたって埒があかない。あとでクルゾウと合流した時に聞くことにして、彼に指定された場所を回って行こう。
「まずは向こうの家────だよなあれ?」
人族の家ってのは普通、石や木で出来てて、一枚の扉と数枚の窓がついてる四角い建物だよな。
だが、クルゾウが家と言い切ったそれはどう見ても、────黒猫だった。
バカでかい黒猫が“おすわり”していた。
十メートルはある巨大猫。これを家というにはあまりにも無理がある。
これどうすりゃいいんだ? ノックしようにも扉はない。仮に家だったとして住めるのか?
「おーい」
とりあえず黒猫の頭に向かって声をかけてみた。頭が地面まで降りてきて、巨大な目で俺を舐めるように見てくる。
見られ続けること十数秒。ネコはニャゴンと鳴きながら口を大きく開けた。
「えぇ〜〜。これ……」
玄関じゃん。
外履きとサンダルだけ置かれた肉球靴箱と床に敷かれた土落としの肉球カーペット。奥の部屋に続く長い廊下。
紛うことなき玄関。外は黒猫、中は玄関。
マジで家なのか、この黒猫……。
チャビチャビチャバチャバチャドゥリュドゥリュダリャダリャチャピトテトゥリトゥリビュービュービュービュー
玄関の奥から音楽が聞こえてくる。何言ってるのか分からない歌詞を延々と繰り返した音楽が。
陽気な音でひたすら繰り返すから、耳に残りそうだ。
そしてその音楽と共に、猫耳のフードを被る短髪紫髪の女性が尻尾を引きずりながらやって来た。
彼女の周りには、大量の猫が寄り添うように歩いている。
「君が、ここの家主……てことで良いんだよな?」
目の前で立ち止まった彼女に尋ねるが、何も答えない。
「にゃーん」
代わりに彼女の肩に居座っている猫が一声鳴いた。
「その鳴き声は、あってるってことか?」
「にゃーん」
あ、合ってるっぽい。
今度は肩の猫を含め周りの猫が俺に向かって鳴きだした。
今度は何を伝えようとしてるんだ?
「何の用?」
女性がポツリと呟いた。
いや、喋るのかよ。だったら初めから喋ってほしい。
「クルゾウの訪問仕事の手伝いで来たんだ。魔術研究についても少し確認してもいいだろうか?」
どうだ、猫はどう鳴く?
答えは鳴かなかった。周りの猫が二本足で立ち始め、一斉に踊り出したのだ。
「大丈夫ってことか?」
「にゃーん」
「……意思疎通は基本的に猫が代わりにするのか?」
「にゃーん」
「猫が好きなのか……?」
「「「「「「「にゃーん」」」」」」」
猫の大合唱による肯定。
うん、猫が好きなのはよくわかった。だからって家まで猫にすることはねぇだろ。
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