第14話 走魔灯
人間領域と魔族領域の境界となる平原を大外回りに突っ切る影が一つ。
そう、
(足を止めるな。前に送ってる間は気を保てる)
だが、目の前の景色が歪んだことで足が絡まり、激しく転倒した。
「うぅ……」
仰向けになると、暗い空に星々が煌めいている。
————綺麗だな……。
特に、あの連なっている七つの群星と、そのすぐ横に寄り添っている一つ星が煌いて見える。
こうやって眺めてると、だんだん気が遠くなって…………。
グワァァァン!!!!
「あぁぁぁっっっ!!!!!」
耳鳴りを起こすほど強烈な鈍い反響音と共に意識が覚醒した。
聖剣の側面で頭の鎧を殴ったのだ。
聖剣を杖に立ち上がる。
「何やってんだよ俺、こんなところでロマンチック感じるな。ほら行くぞ」
そして俺はまた走り出す。
殴ったおかげか頭が冴えて、視界のボヤけが抑えられている。
この機を逃すわけにはいかない! 一気に平原を突っ切た。
「ハァ……、ハァ……。ようやく、最後の障害物の山脈だ……」
大河に流されかけ、林で道に迷い、ようやくここまで辿り着いた。
全長約2万5千mにも広がる、竜族が住まう山脈地帯。
ここを横切るように二つの山を飛び越えれば、
そこまで行けば、エリゼの魔術テレパシーの射程範囲に入り助けを呼べる。
あと一歩だ。
「ハァ……、行くぞぉ……! おりぁぁぁ↑……ぁぁぁあああ↓!」
記録、一山目の8合目。
嘘だろ?! 聖剣で身体能力が強化されているはずなのに山一つ越えられない。
「ハァ、ハァ……。マズイな……、思ってる以上に弱っている……。……ぐあっ!」
また視界の歪みが強くなった。思わず膝をつく。
「空気が薄いのか……!」
さらに状況は悪くなる。吹き荒れる風の音の中に混じる竜族の声が聞こえてきた。
「やばい……。急がねば」
最終的に5回のジャンプでようやく二つの山を越えることができた。
想定外の体力消費。もう走れないし歩くにも足がフラつき真っ直ぐ進めない。
(……テム。……ルテム! アルテム!)
来た! 脳への直接の語りかけ。
「エリゼ、俺だ! すまないが迎えにきてくれ。毒だ! まともに動けない」
(毒って。ローラの攻撃を受けたのですか?)
「いや、自分で注入した」
(なにやってるのですか!?)
「しょうがないだろ、不可抗力だ。とにかく、俺は精霊木の森の前にいるから迎えに……」
その時、後方から竜族の羽ばたく音が聞こえてきた。
「マズイ、竜族の追手が来ている。前言撤回だ。精霊木の森に入って隠れるから頑張って探してくれ」
(頑張って探してって、そんな無茶振らないでください)
「目印になりそうなもの逐一教えるから」
かくして俺は、よろめく足取りで精霊木の森に入っていった。
「聞こえるかエリゼ。今俺の側に真ん中から左寄りに捻じ曲がった木がある」
(えぇ私の側にもありますよ、5本くらい! もうちょっとマトモな目印はないんですか?)
「しょうがないだろ、周りどこ見渡しても木なんだから。うおわぁぁぁ!」
(アルテム様! どうしました!?)
「デカい洞穴みたいなものに落ちた……。
(とにかく、早くそこから……)
そこで通信が遮断された。おそらくこの洞穴全体に結界が張られているせいだ。
それだけじゃない。結界に入ってしまったという事は、精霊族に俺の侵入が知られてしまった。
もし仮に俺が変身を解いて彼らに助けを求めたとしよう。
助ける代わりに何を要求されるか分からない。精霊という名前なのにやってる事が悪魔だ。
つまり、逃げられるなら逃げるしかない。
————だが。
「ハァ……、クソッ……。足が進まない……。追いつかれる……」
すでに洞穴の至る所から物音が聞こえ、前方曲がり角の奥から来る光が見える。目測からして、出くわすまであと5秒。
後ろに下がれば、……だめだ、一本道で隠れる場所がない。
4秒……、3秒……。
かくなる上は……!
2秒……、1秒……。精霊は角を曲がった。
0……! 「ありゃ? 何もないじゃにぃ」
精霊族の己が羽から放たれる光は、洞穴のみを照らしている。
「おかちいわねぇ。
その穴の向こう側。
残る力を使い、天井を突き破った俺は、地上の地面に転がった。
(繋がった! アルテム様、聞こえてます?)
「聞こえてる……。もうダメだ、一歩も動けない……。意識も薄れてきた……」
聖剣を握る力もなく、変身が解けてしまった。
(諦めないで周囲状況を伝えてください! あと少しで着きますから)
「状況……。真っ暗だ……」
(アルテム様! アルテム! アル……)
そして俺の意識は遠のいて、
————脳は昔の記憶を映し出した。
魔王城近くの草原、笑いながらかけっこをしている子供達。俺が先頭を走り、その後についてくるエリゼ。
岩石の子供が俺の走り方を真似しようとして、狼少女が遠吠えをあげ、足のジェットで飛ぶロボットの少年にずるいと言う全身マグマの子供。
最後尾の幼きローラは息を切らし、そんな俺たちを少し離れたところから木の影から見ているヴァンパイアの少年。
なんだ? この記憶は……。こんなの、俺は知らないぞ。誰なんだ、この子供達は?
かけっこの最中、俺は崖から落ちそうになった。
手で崖に捕まり落ちなかったものの、崖下にゴブリン族が集まり、崖を登り始めた。
周りには誰の声も聞こえなくて、崖も崩れそうで、ゴブリン族に捕まりそうで、心細かった。
あの時、どうやって助かったんだっけ? 何かを言ったんだよな……。
————あぁ、そうだ。確か……。
「助けて、……エリー」
その瞬間、俺の目の前にある大量の精霊木がオレンジ色に煌めく焔に焼き払われた。
大火焔の中心には銀髪ポニーテールメイドエルフがの立っている。
(綺麗だ、なぁ……)
暗闇の夜空と煌めく焔のコントラストに照らされたエリゼに俺はそんなことを思い、一方のエリゼは俺を見つけるなり駆け寄る。
「アル、大丈夫!? 目を開けて、アル! 返事をして、アル! ねぇアル! アル!」
抱きかかえて必死に声をかけるエリザの腕の中で、俺は気を失った。
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