第12話 タワー・オブ・ギアラシアー

 鎧で身を防いだお陰で俺もローラも土砂に潰されることはなかった。


 そんなこんなで深い穴の底に落ちてから三時間、ローラは気絶したきり目を覚まさない。


「おーい、そろそろ起きろー」


 頬を軽く叩いたり、マッサージしてみても瞼は一ミリも動かない。


「暴走中にビーム撃ちまくったせいでエネルギー切れってところか」


 穴から空の様子を見上げる。

 ここに落ちるまでは青かった空が、白と赤と黒のグラデーションに変わっていた。


 穴の深さは約300m、出ようと思えば容易く飛び越えられる高さ。だが穴の中にローラを置いていくわけにはいかない。

 体力を消耗しているローラが300mを登るのは時間がかからだろうし、暴走機械チューンギアを持ってきたセールスマンとやらがまだ近くにいるかもしれない。

 だからこそ俺は穴に留まり護衛をする、ローラが目を覚ますまで……。


「暇だ」


 ————本心が出た。


 護衛とは言ったものの、ここまでの三時間はほとんど何も起こらなかった。

 穴を覗きにくる人間もローラを助けようとする蟲人族も、降りてくる黒スーツも。瓦礫の一部が降ってくるぐらい。


 つまり俺は三時間ほど、寝ている少女の横でちょこんと座っていただけになる。

 そうともなれば暇にも感じても仕方ない。


「流石にもう誰も来そうにないし、ローラが目を覚ますまで自由に過ごしても問題ないよな」


 ぐぃ〜っと背中を伸ばして、壁面に目をやる。壁面には全長1mほどの歯車が刺さっていた。


 俺たちが落ちた穴の位置はちょうど第三区画と第四区画の境界に当たる場所。

 区画の立地を支える外壁が破壊されたことによって、内部に隠していた区画の隆起や兵器の操作を行う歯車機構の一部が剥き出しになったのだ。


 そしてそれが俺にはちょうど良い。


 ギアラシアの柱防衛システム、初めて見た時から構造を知りたいと思っていた。


「それじゃ失礼して、調べさせてもらいまーす」


 左手ね歯車の凹凸部分を持ち、力を込めて押しまわす。

 鎧の変身が解けないように右手に聖剣を握ったままの関係で、左手一本で回すにはなかなか固い。


 やがてギコンギコンと奥の方からも複数の歯車が回る音が鳴り、細長い筒が木製の窓を突き破る音が響くと同時に歯車が止まった。


「あれが第三区画の柱から出てくる兵器か」


 暗視を凝らして長筒に繋がる歯車を辿ると、ちょうど真横にあった歯車に到達した。

 今度はその歯車をギコンギコンと回すと、長筒から炎が噴き出た。


「第三区画は火炎放射器か……。まぁローラの毒液ビームには負けただろうな」


 その後、俺は周りの歯車を手当たり次第に回し始めた。

 兵器の出し入れと攻撃の仕組みはなんとなくわかったから、次は柱の隆起を行う歯車が気にる。

 ————すると。ピシッ! ビキッ! メキッ!と音が鳴り始めた。


「やっべ!」


 歯車を動かしすぎたせいで、外壁にヒビが入り一気に広がりだした。


「おいおいおい、待て待て待て!」


 慌てて地面の石や岩をヒビが入ったところに力任せに詰め込んでいくと、ヒビの広がりが止まった。


「……セーフッ! とはいえこれ以上横の壁は動かせそうにないか。となると残るは地下……」


 俺は自分が今立っている地面と、右手に持つ聖剣を見比べる。


「掘るか」


 かくして、俺は聖剣をスコップがわりに第四区画側の外壁を掘り出した。

 しばらくすると聖剣が硬い何かにぶつかり、ガキンと音を立てる。


「……ん?」


 現れたるは、先ほどの1mの歯車より何回りも大きいであろう歯車の一部。

 この大きさ、期待しかない……!


 俺は壁にもたれかかり踵で歯車を押しまわすと、ゴゴゴと地響きが鳴り、勢いよく俺ごと地面がせり上がりだした。


 あっという間に300m+俺が掘った50mを上がりギアラシアの地上に到着。

 逆回転させると下に沈んでいく。


「……なるほど」


 目が輝き、口角が上がる。俺は遊びだした。


 上げて、下げて、また上げて。下がると見せかけて上げて、勢いよく落とす。

 1m上げて3m下げる。上げると2m、下げると1m。

 

 ————楽しい!

 

 特に高いところまであげてから一気に落とすと体が浮遊感を感じてより楽しい!

 これには魔王の俺も思わず拍手。


 そんな感じに上下運動を楽しんでいたら、ローラが目を覚ました。

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