第9話 サソリ少女vsびっくり柱

 4日後、ギアラシア遠征当日。


「それで、例の人間の少女には魔術援護を頼まなかったと」


 ローラ達蟲人魔族軍に後方からついていく馬車の中で、俺はエリゼに今回の作戦変更の理由を明かした。


「ではどうするのですか? ギアラシア住民の保護がかなり難しくなりますが」


「そこはもう、……俺が頑張るしかない! 体張って」


 エリゼは大きくため息を吐いた。


「縫合糸持ってきてないから真っ二つにされないでくださいね」


「りょーかい」


 そんな事を話している間に、蟲人軍はギアラシアの目の前に到着し、待機状態となった。


 機械と歯車の街、ギアラシア。

 偵察部隊であるカメレオン型蟲人によると、最大の特徴は歯車で稼働する建築物を碁盤の目に沿って区画整理した街の外観。


「ローラはどう攻略する気でしょうか」


「ちょっと聞いてくるか」


 俺は馬車を降りて、ローラのいる陣頭に向かった。


「ローラ」


「……何よ?」


 ローラは俺を見ずに不機嫌そうな声で答える。

 今日のローラはこの間の会議の時と違い、赤毛を右サイドのみの縦ロールに纏めている。

 紫のドレスも動きやすいようにフリルが少なく、スカートには二箇所もスリットが入っていた。


「別に、アルテムがアタシのこと忘れてた事についてなんてもう怒ってないわよ。今は戦略を確認して戦いに集中したいだけ」


「そうか、それなら良かった。……ちなみにだが、その戦略をきいていいか?」


 後で勇者として飛び入る為に。とは言えないな。


「いいわよ。アタシの作戦はね」


 と、その時。

 ズゴゴゴ…………。と轟音が地面を伝い響いた。

 ギアラシア区画の前一列目が迫り上がる。俺たち魔王軍の前に数本の巨大な柱が出現した。


 そして柱の側面に設置された歯車が回転すると、柱から大砲が迫り出した。


「スゲェな。新しいな。もうちょっと近くで見たいから、攻撃待ってくれないか?」


「待つわけないでしょ! お互い臨戦態勢なのよ」


 すると、俺とローラめがけて大砲が発射された。


 ローラはで砲弾を真っ二つにした。

 相変わらず凄い威力だ。


「これがアタシの作戦、飛んでくる火の粉は全てぶった斬る。ねぇアルテム、あの時言ったわよね。アタシが何者か脳裏に刻み込むって」


 ローラはようやく俺を見る。その顔は敵を威嚇するような鋭い笑顔だ。


「覚えときなさい。アタシはローラ・ラフレジア。魔王軍幹部にして、最強の蟲人よ」


 そう言うと、ローラはギアラシアへの突撃を開始する。蟲人軍もローラに続きギアラシアに向かっていく。

 ギアラシア側も軍めがけて大砲を次々と発射していく。


「始まりましたね」


「……ああ。エリゼ、一応聖剣の用意しておこう」


 エリザは頷くと、馬車の中に素早く引っ込んでいく。俺も急いで馬車に入り上着を脱ぐ。

 今日は観戦のみなので鎧を着てこなかったのが幸いだ。



 砲弾一つ、二つ、三つ……。ローラは作戦の降りかかる火の粉砲弾を全てぶった斬っていく。


「進軍の邪魔よ!」


 そう言うとビームで柱の根元をぶった斬り、柱が煙を上げて沈んでいく。


 すかさず迫り上がる二列目。次は柱から生えたガトリングがローラを狙う。

 弾丸は降り注ぎ、大きな煙を上げた。


弾丸たまが遅すぎるわ」


 煙が晴れ、そこに立つローラはかすり傷ひとつ負っていない。

 慌ててガトリング群は攻撃予備動作に入る。

 しかし……。


「数打てば当たるっていうのは間違った考えね。連射っていうのは跡形もなく消す為にやるものよ」


 ローラはガトリングや柱に向かって、両腕の針からビームを連射する。


「こんな風にね」


 ローラの宣言通り、ビームの当たったガトリングや柱の一部は跡形もなく消え去り、二列目が沈んでいった。


 次に迫り上がるのは三列目を飛ばして四列目。

 側面の歯車が勢いよく回り、柱から4メートルほどの大きさのロボットが射出された。

 ……が、その全てが最も容易くローラのビームによって真っ二つにされた。


「アンタ達人間じゃアタシのには敵わないってこれでわかったでしょ? さっさとその柱を下げなさい。早くしないとまた斬り倒すわよ」


 四列目の柱に向けられたローラの手針から、キュイィィィンと音がする。


 ————その時。

 ローラと柱の中間地点に空から何かが落下し、大きな土煙を上げた。


「今度は何よ!?」


 段々と土煙が晴れていく。そこに立っているのは銀と金の鎧を纏い、巨大な剣を持った者。

 

 勇者ガリアス、ここに顕現だ!

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