第6話 密会△

 幹部会議が終わり、幹部達が各々の領地に帰った頃。

 アルテムの部屋で、エリザと2人で密会をするのが恒例になっているが。


「あの、アルテム様。これは一体……?」


 エリゼは困惑した。

 部屋の明かりは消され、目の前には布でできた巨大な三角錐。内部からの光で1人の影が映し出されている。


「どうだエリゼ。これがザンパ村で貰った“新しいもの”、その名もテントだ」


 俺がテントから顔だけ出すと、エリゼはビクッと反応した。


「テント……、ですか」


「あぁ! ザンパ村の村長によると移動に適した即席住居なんだとよ」


即席住居そんなものを屋内で広げたんですか……。かなりお暇だったようで」


 エリゼは短いため息を漏らした。


「しょうがないだろ、お前がなかなか来ないんだから。何やってたんだ?」


「…………、業務上の守秘義務です」


 なぜ目線を逸らす、それになんだ今の間は。


「まぁいい。今日の密会はテントの中でやるぞ」


「え? 私もその中に入らないといけないのですか……?」


「当たり前だろ。中も結構楽しいぞ」


 エリゼは目を細めてテントを見つめる。

 まぁ俺が“新しいもの”を初めて見せる時に怪訝な顔をされるのはいつものことだ。だからこそもしてきた。


「茶菓子も用意してあるぞ。ちょっといいやつだ」


 エリゼは少し考えた後、小声で「失礼します」と言いテントに入った。



「あの、アルテム様。……ちょっと窮屈なんですが」


 テント内は2畳程のスペース。そこにティーセットや様々な物品を置くと、俺とエリゼは40cmの距離をとって座ることになる。


「いいだろ。まさに密会って雰囲気だ」


「……そうじゃなくて。…………顔が近いって」


「ん? なんか言ったか?」


「————明かりが気になると言っただけです」


「あぁそれはな、これを使ってる」


 天井から下げた緑色のランタンを取る。ガラス張りになった中身では緑色の球体が燃えている。


アンデッドゾンビニックス達が、自分達の不死生を研究した時の副産物、特殊球体蝋燭とくしゅきゅうたいろうそくだ。長持ちして便利だぜ」


前回先々週に見せた“新しいもの”ですね」


 正解の証として、指を鳴らしエリゼを指差す。


人族の品テント魔族の品特殊蝋燭の合わせ技。良いもんだろ?」


「えぇ、良いものですね。とても輝いておられます」


 エリゼは俺の目を真っ直ぐ見つめ、微笑みながらそう言った。


「お、おう」


 俺は顔が熱くなるのを感じた。ランプの熱のせいだよな、きっと。


 それよりもだ、本題に移ろう。

 今日の密会はエリゼにテントを見せる為に開いたのではない。それも目的の一つだが。


「来週の遠征の話は聞いたか?」


「ローラからきiコホン、ローラ様が出陣すると伺いました」


「…………、そうか。なら話は早い。これを見てくれ」


 俺は脇に置いておいた“あるもの”を取る。

 その“あるもの”とは、ローラによって真っ二つにされた玉座の一部だ。


「親父の代から250年近く使って、ヒビひとつ入ること無かった。だがローラのビームて一瞬でこの有様だ」


 俺はエリゼが見やすいように、断面を寄せてやると、エリゼはまじまじと見る。


「他魔族からの24時間の波状攻撃を無傷で耐えきる特殊魔石で作られた、厚さ30cmの板が一瞬で。かなり脅威的な代物ですね」


「あぁ。これが次回の遠征先、ギアラシアの街でぶっ放されてみろ。確実に死人が出るぞ」


「それは“ゆうえんち計画”からすると都合が悪いですね」


 俺は指を鳴らしエリゼを指差す。

 その通りだ。魔族と人族の共存ゆうえんち計画では、各々の文化を伝える人材が必要不可欠。

 だからこそ、俺は人的被害は抑えるのを基本方針にしている


「ローラのビームが人間に当たらないように、俺は勇者として立ち回なきゃならん」


 ————が、問題が一つ。


「ビームの原理や弱点が一切わからない。引きつけようとして俺が真っ二つ、なんてことが無いとは限らない」


「まぁアルテム様ならなりかねないですね」


「そこでだ、ここで二人で知恵を絞ろう。最悪、ローラに直接聞く手もあるが、確実に怪しまれるしな」


「つまり、いつもの通りということですね」


 俺は深くうなづく。その通りだ。

 コルグ村で着替えるタイミングも、ザンパ村でゴーレム族を撤退させる策も、これまでこうしてエリゼと二人で考えてきた。


「それでエリゼ、何か気づいたことはないか?」


「その9割私任せもいつも通りですね」


 エリゼは改めて切断面をじっと見る。そして何か気付いたようだ。


「よく見ると断面が少々凸凹になっていますね。それに、角についている固まった水滴のようなもの。まるで溶けているようで……」


 溶ける? ならビームの正体は高熱か? いや、避けた時に熱は感じられなかった。


「アルテム様は間近で見たのですよね。何か思い当たる節がありませんか?」


 そう言われて俺は目を閉じて記憶を振り返る。

 何か思い当たる節……。思い当たる節……。

 

 そんな俺の思考をパキパキと蝋燭が燃えながら再生する音が邪魔をする。うるさいなこの音……。


「そうだっ、音だ! ビームを発射する直前、発射口から何かを抽出する音が聞こえた」


「なるほど、抽出ですか。ビームであれば物質の加速なのに抽出。それに溶かすもの。一体何を————」


 その時だった。エリゼは何かに気付いたのか、「あっ!」と声を漏らした。

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