ギアラシア戦

第4話 会議で眠るされど進む

「皆、待たせてすまない」


 大広間の巨大な扉を押し開け、既に着席している幹部達に声を掛ける。

 俺も巨大な長机の上座に配置された黒く立派な椅子に腰掛ける。この城に二つ存在する魔王のみが座れる椅子の一つだ。


 魔王軍幹部。全部で20ある魔族種の内、魔王に対し譜代的に忠誠を誓う10種族、その族長達だ。

 その10種族というのがオーク、ゴーレム、獣人じゅうじん蟲人ちゅうじん、アンデットゾンビ、セイレーン、ヴァンパイア、マグマコング、風精霊ふうせいれい、ヒューマノイド。

 現在の幹部達は父の代から幹部を務めており、俺が魔王の座に着いてからは、魔王としての業務の補佐、というか殆ど代行して貰っているのが現状だ。


 俺は幹部会議に参加している魔族の顔ぶれを確認する。


 大広間に来ているのは10種族のうち6種族。遠隔投影魔法で参加しているのが3種族。

 ちなみに欠けている一種族、獣人族は二ヶ月前に起きた内乱で族長が死亡し、その後の処理の為しばらく欠席扱いとなっている。


「会議は何処まで進んだ?」


「トゥデイのコルグ村、ザンパ村における進攻リザルトのチェック、それをリフレクトしてのリワードのクロージングがコンプリートしたところです」


 俺の質問に対し、光沢のある鋼ボディが特徴なヒューマノイド族の族長ロイキムが答える。

 魔族屈指の知能を持つヒューマノイド族は会議の司会となることが多いが、その独特な言い回しは理解に時間がかかる。


「つまり、メインの議題は終わったってことだよな……?」


 遠隔魔法で会議に参加しているガンス爺をちらっと見る。

 片手で小さく丸を作りウインクしている。正解のようだ。それはそれとして肉の串焼き片手に会議に参加するな。


「欠損したゴーレム族の修復は、通常通いつもどおり我々とセイレーン族が行なっております」


 ゴーレム族の岩で出来た肉体を修復する際、全身に血液代わりのマグマが流れているマグマコング族と水を操るセイレーン族の共同制作による魔工品がよく用いられてる。

 そのため、魔族の中でもマグマコングとセイレーンは交流が深い。


 赤とオレンジの鮮やかなグラデーションの体毛が自慢のマグマコング族族長ボルコスと、水色の長髪が特徴的なセイレーン族族長ネフィアはお互いを「ハニー」「ダーリン」と呼び、ウインクを送り合っている。


 補足すると、二人は同族内に結婚相手がいるし、なんだったら子供もいる。


『オウ! 新品ヲ大至急持ッテ来テクレヨ』


 遠隔魔法で顔のどアップで参加しているガーディン。

 腰痛の痛みを和らげる為に、横になりながら参加した結果あんな感じになったのだろう。大変そうだな。原因作ったの俺だけど。


 こんな風に、俺がいなくても幹部会議は問題なく進んでいく。


「コルグ村のマネージメントは、アンデットゾンビトライヴがオンタイムでしております」


『アルテム様、遠隔魔法越しではありますが、このニックス此度のお力添え改めて感謝申し上げます』


 ニックスは俺に向かって頭を下げる。

 その後ろでは、アンデットゾンビ達が自らの体を切り離し、くっ付けて作った複数体の巨大ゾンビが太鼓のリズムに合わせて踊っている。 


 そのお力添えだって、計画の立案から下準備まですべてガンス爺とニックス達だけで済ましたものだ。

 俺のしたことと言えば、ザンパ村へ向かいやすいように馬車の停車位置を決めた程度だ。


「次のトピックだが……」


 議題が切り替わる。

 この議題だって幹部達が話を進め、幹部達が話を纏める。


「我の感覚でも大気が歪な流れをしているのを感じる。マダムシィーフィ、風精霊の貴方に何か心当たりはないか?」


「あら、マルサンさんはアテクシを疑ってらっしゃるの。 ただのヴァンパイアの知覚過敏でらしては?」


「だが我々ヴァンパイア族の知覚過敏が魔族領域の危機を事前に防いできたのも事実。それに、別に我は貴方達を疑ってるわけではない」


「ではミスターマルサン、他種族アザートライヴによる仕業ワークだと?」


「雷鬼族の仕業か……?」『マサカ、ゴブリン族トカカ?』「人間が行ったという可能性は」


 あぁ、眠くなってきた。瞼が重い。


「コレスポンデンスはどうする」「一度、全魔族を調査してみては如何かしら?」『あぁそういえば、獣人族から報告がありましてな……』


 寝ても大丈夫だろ。次に瞼を開いた時には纏まってるだろうし。

 結果はエリゼかガンス爺に聞けばいい……。


 ………………‥‥‥‥‥‥‥‥・・・・・・・・


 急に服をグイッと引っ張られる感覚。

 なんだ? 会議終わったのか。起こし方が乱暴すぎるぞエリゼ。

 瞼を開き、服が引っ張られる方向を見る。


 ?????


 紫のドレスに身を包んだ蟲人族の赤毛の少女が、巨大なサソリの尻尾で俺の服を引っ張っていた。

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