第22話 物騒なティータイム


「……もしかして私、好かれているのでは?」


 今日もゼイン様から届いた手紙や大量のプレゼントを前に、私は首を傾げていた。


 最初はマリアベルを救ったお礼として、義務感で付き合ってくれているのかと思っていた、けれど。それにしてはなんだか、度を超えている気がしてならない。


「でも、好きって言われたことはないんですよね?」


 すると私の隣に座り、優雅に紅茶を飲んでいたエヴァンもまた、首を傾げてそう言ってのけた。


 元々貴族とは言っていたけれど、確かに言われてみると全ての仕草が綺麗なのだ。一人でお茶を飲むのも寂しいため、よく相手をしてもらっている。


「確かにそうだけど……か、かわいいって言ってもらえるし、その、抱きしめられたし」

「かわいいくらい、男は誰にでも言えますからね。むしろ本気じゃない相手の方が手は出しやすいですし。それだけで油断するのはまだ早いですよ」

「えっ……手……だ……?」

「逆に思っていない方がさらっと言えたりしますから。少なくとも俺はそうですね」


 急に大人の男性の顔をするエヴァンに、たじろいでしまう。そんな私を見て、エヴァンは「でも」と続けた。


「でも、お嬢様はかわいいですから。大丈夫ですよ」

「三十秒前に何を言ったか覚えてる?」


 とは言え、エヴァンの言う通りなのかもしれない。男性経験がない私の、恥ずかしい勘違いの可能性がある。


 ゼイン様はグレースにこっぴどく振られたことで、冷徹公爵と呼ばれるようになるのだ。


 だからこそ今はまだ、そこまで塩対応モードではないことは分かっていたけれど、想像以上に優しすぎて甘すぎて、うっかり勘違いをしてしまった。


 やはりまだまだ油断はせず、アタックしていかなければ。そう心に決めた私は、先程からずっと気になっていたことを尋ねてみることにした。


「それで、誰なの? そちらの美少年は」


 そう、なぜか一緒にテーブルを囲んでいる中に、見知らぬ美少年がいるのだ。黒髪黒目の容姿に、なんだか懐かしさを覚えてしまう。


 そして彼は何故か、椅子に縛り付けられ猿轡さるぐつわを嵌められている。突っ込みのカロリーが高すぎて、なかなか触れられずにいた。


「最近お嬢様の周りをうろうろしてたので、怪しいと思って捕まえたんです。それとティータイムの人数が少ないことを気にされていたので、ここに置いてみました」

「怖いよ」

「少しでも妙な動きをしたら、一秒もかけずに殺すので大丈夫ですよ。それに俺、人を見る目はあるので」

「怖いのはそっちじゃないんだけど」


 間違いなくサイコパスなエヴァンは全く信憑性のないことを言うと、笑顔のまま美少年の猿轡を外した。


「俺がなんでこんな……くっ、殺せ!」


 物騒なことを言っているけれど、声まで良い。年はグレースより少し下くらいだろうか。それにしても、周りをうろついていたなんてさっぱり気が付かなかった。


「お前、どうして俺に気付いた? おかしいだろ」

「俺はすごい風魔法使いなので、風を使って普通の人間には絶対に聞こえない音も聞こえるんです」

「どうして私の周りをうろついていたの?」

「……言うはずがないだろう、さっさと殺せ」

「お嬢様のファンでは? 以前もいたんですよ、ストーカー行為をして見守っていたと言い張る輩が」

「は」


 すると美少年は本気で怒ったように、顔を赤くして眉を吊り上げた。図星で照れているのかもしれない。グレースの美貌なら、厄介ファンがいても仕方ない。


「それに間違いなく殺意はなかったので、大丈夫かと」

「もしかして、お姉さんのことが好きなのかな?」

「お前みたいな頭の悪そうな女は嫌いだ」

「あ、頭が……悪そう……」


 グレースの容姿は凛としているのだ、そう見えるのは中の人の私のせいだろうかとショックを受けていると、エヴァンは珍しく怒ったような様子を見せた。


「お前……! 思っていても口に出して良いことと悪いことがあるだろう!」

「ちょっと」


 一番失礼だ。こんな時、まともな突っ込み役のヤナがいれば……と思うものの、彼女は現在休暇中でいない。


 そして今は、新しいサクラのパティに世話をお願いしている。おどおどしているけれど、とても良い子だ。


「パティ、美少年にもお茶を出してあげて」

「か、かしこまりました」

「何なんだよお前らは! 帰すか殺せ!」


 とりあえず美少年にもお茶を出してみたところ大人しく飲み、負け犬っぽい台詞を言って帰って行った。


 その後も彼は私の周りをうろついてはエヴァンに捕まり、強制的にお茶会に参加させられることになる。

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