三日目・8

 ゲイリーたちがベンの小屋の裏手に回ったとき、そこにはすでに誰もいなかった。残されていたのはいくらかの血痕だけで、それを見たナンシーはゲイリーの服の裾を握った。

 ジェシカとイヴェットの名前を呼ぶと(声の主がどちらかは判別がつかなかった。イヴェットの声に似ていたが、声の張りはジェシカを連想させたからだ)、森の中から草を踏みしめる音がしてイヴェットが姿を現した。彼女は周囲を見回し「ジェシカは」と言った。彼らが首を振ると、イヴェットはその場に膝をついて「サディアスが連れていったんだわ」と呟いた。彼女は脇腹から出血していた。

 ナンシーが救急箱を取りに行っている間にゲイリーは彼女の話を聞いた。ふたりはトイレの前でサディアスの襲撃を受けたらしい。サディアスは持っていた警棒でまずジェシカを攻撃し、イヴェットが大声を出したため彼女も殴り飛ばした。彼女は釘抜きで攻撃を防いだが、ジェシカは守る暇もなく二発くらったため、イヴェットが最後に見たときは動かなくなっていた。ふたりがいなくなっているところを見ると、サディアスはジェシカを連れて逃亡したのだろう、とのことだった。

「あいつはどうしてジェシカを連れていったんだ?」

「彼はジェシカが……ジムを殺したと思ってる。彼女を連れていって、何をする気なのかはわからないけど……」

「ろくなことじゃなさそうだな」ゲイリーは呟いた。

 ナンシーが救急箱を持って戻ってきた。イヴェットを座らせ手当てを始める。それを見ながらゲイリーは「ふたりはここにいろよ」と言った。

 ナンシーが顔をあげ泣きそうな声を出す。

「どこに行くの」

「サディアスを追いかける。ジェシカをこのまま放っておくわけにもいかないだろう」

 ナンシーは酷くショックを受けたような表情を浮かべた。手元の包帯を握りしめ、絞り出すように言う。

「危ないわ……」

「わかってる。だがこっちには銃もある。大丈夫さ。絶対に戻ってくるから」

 彼の言葉にナンシーは目を潤ませて頷いた。軽く銃を振るとゲイリーは森へと入った。

 すぐに立ち止まり耳を澄ます。聞こえるのは風が揺らす葉の音ばかりで、人の声や足音は聞こえない。こんな短時間に遠くまで行けるものかと思ったが、相手はサディアスだ。女ひとり抱えたところで普段と変わらず走れるのだろう。

 なんにせよ、ここで立ち止まっていても始まらない。ゲイリーは銃を構え直すと西の道を歩き始めた。

 森の中は歩きにくい。夜ならばなおさらだ。こちらが銃を持っていることは相手も十分承知のことだし、逃走を図るならまず距離を取ることを優先するのではないだろうか。であるならば道を走るのが効率的だ――木々の間に身を隠すのはその後でいい。

 ゲイリーはひとり納得して歩き続けた。イヴェットの言ったことが本当ならサディアスの目的は十中八九復讐だ。ジェシカをわざわざ連れていったということはつまり、彼女を二発殴っても彼はまだ満足していないのだ。どこかに陣取って目的を遂げるつもりだろう。

 しかし五分も歩くと疑問を持ち始めた。こちらが歩きというのもあるかもしれないが、声も姿も一向に見つからない。

 もしや森を通って東に向かったのだろうか。あっちには洞窟がある。ジムの死体の前でというのも彼が考えそうなことに思える。

 ゲイリーは立ち止まった。

 ちょうどよいタイミングだと思って飛び出してきたが、サディアスをここで無理に追う必要はない。ジェシカへの復讐が終わったら次の標的はゲイリーたちになるだろう。迎え撃つならそのときでもいいのだ。

 ただ無傷で済む自信がなかった。ゲイリーはショットガンを使ったことがない。引き金を引くことにためらいはないが、動く的に正確に当てるのは難しいだろう。銃を握っている以上彼は前線に立つ必要がある。サディアスの使ってくる手段によっては負傷してしまう恐れがあった。

 それよりは今のほうがいい。サディアスの意識がジェシカに向いている今こそ――彼を殺す絶好のチャンスだ。

 濡れ衣を着せられる前に邪魔者を殺す。そして無事に島を出る。

 今、絶対に彼を探し出さねばならないのだ。なんなら島を一周してでも。

 ゲイリーは軽く嘆息すると走り出した。そうしてしばらくすると、視界の端に異変を感じて彼は再度足を止めた。遠く、森の中が妙に明るく見える。ゲイリーは銃の安全装置を外した。夜の森に不釣り合いな音が響く。しばらく動かず耳を澄ます。辺りは静かだった。

 足音を殺して歩みを進める。近づくにつれ、それが光であることが明確になった。森の中がぼんやりと明るんでいる。

 その光は懐中電灯のような一方に照射するものとは違い、満遍なく四方を照らしていた。彼もゲイリーたちと同じくバンガローからランプを持ち出したのかもしれない。それを堂々と使うということは、誰かが追ってくることなど考えてもいないようだ。

 ゲイリーは違和感を覚えた。もし逆の立場なら、サディアスは間違いなくゲイリーを追ってくるはずだ。彼がそこまで思い至らないとは考えられなかった。

 あの光は罠かもしれない。

 ゲイリーは身を屈め、注意深く周囲を窺った。異常のないことを確認し、慎重に光源との距離を縮める。

 緊張の中、もうひとり――ここにいない男の存在が頭をよぎった。妙なことに、昨日から彼の行方は杳として知れない。

 もし彼であったなら。

 そこまで考えてゲイリーは薄く笑った。どちらにせよ、することは同じだ。

 徐々に話し声が聞こえ始めた。男のものだ。声の主はサディアスのようだったが、女の声は聞こえない。話しているのは彼ひとりらしい。その内容が聞き取れる距離まで近づいたころには、すべてが杞憂だったことをゲイリーも察した。

 サディアスは泣いていた。横たわるジェシカの体の上で巨体を丸めて泣きじゃくっている。合間に癇癪を起こしたように自分の下へと拳を打ちつけ、そのたび女のくぐもった声が宙へ抜けていった。

 気づかれることのないまま、ゲイリーは木二本分ほどの距離まで彼らに近づいた。重なる人影に目を凝らす。ランプはジェシカの右側に置かれていて、ここまでくれば明かりの下でふたりの姿がはっきりと見えた。

 ジェシカは服を剥がれ、上半身を夜風に晒していた。顔は赤黒く腫れ上がり、特に口元は真っ赤に歪んでいる。左の眼窩にはナイフのようなものが刺さっていた。体に振動が走るたび、顔から突き出た持ち手の部分がゆらゆらと揺れた。

 ゲイリーは思わず顔をしかめた。彼からはジェシカの右半身が見えていたが、その手には指がなかった。傍らには血塗れの鉈が落ちている。指が失われた手は彼女から人間らしさをそぎ落としていた。それはただの肉塊に見えた。

 サディアスの手には大ぶりのナイフが握られていた。よく見ればジェシカの腹部に肌色の部分はほとんどない。既に何度か刺された後なのだろう。それだけの傷を負ってもまだ彼女は生きていて、噛みしめた歯の隙間から泡混じりのか細い声を出していた。溺れ死ぬ直前の音に似ているとゲイリーは思った。

「お前のせいだ……! お前の……お前の……!」

 サディアスは繰り返し呟く。そのうちに振り下ろしていた手を止め、むき出しになった彼女の左胸をわしづかんだ。ナイフを彼女の下乳に添え、のこぎりのように引き始める。

「ゔぐぐぐぐぐ」

 ジェシカは奇怪な声をあげながらがくがくと震える。最後は引きちぎるようにして胸を切り取ると、サディアスは切断面を彼女の口に押しつけた。

「食え! 食え、オラッ」

 ジェシカが口を開けないことに苛立ち、サディアスは肉塊を持った左手で彼女の鼻を殴りつける。それでも顎が動かないので、彼は怒りに任せてそれを放り投げた――ゲイリーのいる方へ。

 そう離れていないところにジェシカの胸が落ち、ゲイリーは体を固くする。サディアスがこちらに注意を向けるかもしれない。そう思ったが幸い彼はジェシカに夢中で、己が投げた肉塊には目もくれなかった。

「もう終わりだ」消え入りそうな声で呟き、サディアスは血塗れの手で頬を拭った。

「ジムがいなきゃだめだ……俺はやっていけねーよ……ジム……ジム……なんで死んじまったんだ……! それもこれも全部お前のせいだ、このアバズレが! 痛いか!? ああ!? ジムはもっと痛かったんだぞ……!!」

 サディアスは今しがたできた彼女の傷を殴る。粘着質な音がして、離れていく拳が傷口と糸を引いた。ジェシカは声をあげなかった。引き絞られた喉に空気が落ちる音だけが聞こえた。

 ゲイリーは低い草の中に転がるジェシカの左胸に目をやった。地面から生えた片乳はグロテスクというよりも滑稽だった。乳首は鋭く立っており、それに引っ張られ皮膚が縮み、しわになっている。切り口はなめくじの足のように波打っていた。

 サディアスの声はどんどん大きくなる。自分の言葉に興奮が増しているようだ。

「お前だけじゃねえ、全員同罪だ! お前を匿ってやがったあいつら全員殺してやる! どうせ俺を犯人にしようとしてたんだろうが……! 俺もジムもまだ誰も殺しちゃいなかったのによ……! 人殺しは俺たちの秘密だったんだ、だのによう……ジムぅ……お前がいなくて一体どうやって生きてけばいいんだ……お前がいなきゃ何人殺したって楽しくねえよう」

 ジェシカの胸ぐらに顔を埋め、サディアスは再び大きく体を震わせた。ゲイリーは静かに目を細める。彼がここまで発狂しているなら、ジムが死んだのは事実なのだろう。

 ならば、彼だけ残しておくのも可哀相というものだ。

 ゲイリーは木陰から全身を出した。この距離ではまだ自信がない。乳房をまたぎ、足音がするのも構わず歩を進める。サディアスに気づいた様子はない。木の幹をひとつ過ぎ、ふたつ過ぎた。彼らの距離が一メートルを切ったころ、ようやくサディアスは顔をあげた。

 頭がゆっくりとこちらを向く。彼の頬は血と肉とで汚れていた。目の縁が水気を帯びて、瞳孔は虚ろな光を発している。それが敵を認識し、目尻が吊り上がり、視線に相手を刺し殺さんばかりの憎悪が乗った瞬間――ゲイリーは引き金を引いた。

 サディアスの反射神経はさすがで、弾のほとんどはジェシカに当たった。しかし幾つかは彼の足に当たり、サディアスは大きく吼えると転げ回った。

「いや悪いな」ゲイリーは明かりの下に出た。「しっかり狙ったつもりだったんだが」

 サディアスは血塗れの左足を抱えながら歯をむき出した。

「てめえッ! 殺すッ! 殺してやるッ!」

「まあ初めてだしな――こんなもんさ。許してくれよ、親友」

 ゲイリーは笑う。サディアスは近づいてくる彼に向けて血混じりのつばを飛ばす。

「クソがッ! うまくいくと思ってんのか!? どうせテメエも捕まるッ! 何考えてんだか知らんがよ!!」

「捕まる? 俺が?」ゲイリーはジェシカの死体の前で立ち止まると小首を傾げた。「なんでだよ。お前らが犯人なんだろ?」

「俺らはひとりも殺しちゃいねえ!!」

 ゲイリーは足元の死体を見た。指を切断され顎も砕かれ、目にナイフを突き刺された上に片乳を削がれて腹まで裂かれていたジェシカは、散弾がとどめとなったのか既に絶命していた。

「それは警察に判断してもらおうな、ボクちゃん」

 ゲイリーはあやすように言う。サディアスは笑いながら吐き捨てた。

「お前が警察云々言うとはな! サツが噛んだら一番困るのはお前だろうがよ! サマンサを殺せたのはお前しかいねえんだから!」

 ゲイリーは眉をひそめた。「それはベンもできた――同じことを何回言わせるんだ?」

 それを聞いてサディアスは目を丸くした。こいつは何を言ってるんだと言いたげな表情を浮かべる。死体に目をやり、またゲイリーを見る。訝しげなままの彼に気づくと、サディアスは歪な笑みを顔いっぱいに浮かべた。そうして腹を抱えて笑い始める。

「この女、心底タヌキだな……! まさかとは思ったが知らねえのか! それじゃあお前、俺を殺してそれで終わりだとマジで思ってたんだな……!」

「どういう意味だ?」

 ゲイリーの言葉にサディアスは笑うのをやめた。立ち尽くす彼を見あげ、ありったけの悪意を舌に乗せる。

「ベンは初日に死んでるんだぜ」

 体温が数度下がるのを感じた。「嘘だ」発した言葉がやけに遠く聞こえる。期待通りの反応を得られたことに満足したのか、サディアスは得意げに話し出す。

「ペネロピが殺ってたのさ。あの女、ちょっと脅したらぴいぴい吐きやがった。マジでこの島は人殺しの巣窟だよ、どうなってやがんだか。だが、ガキ殺しとモーテル・キラーのどっちが先に死んだかなんて、サツが調べりゃすぐにわかることだ――そうだろ、親友」

 ゲイリーは銃を持つ手に力を込めた。サディアスは続ける。

「どうしてあんなに頭の悪いことをしたのか、無学な俺に教えちゃくれないか? 俺たち以外誰もいない島で――お前以外ほとんど不可能な状況で――どうして人なんて殺そうと思ったんだ? どうしてそれで逃げられると思った? まさか神に愛されてるからだなんて言わねえよな? お前、それなら相当サイコだぜ」

 荒い息が聞こえる。サディアスも肩を上下させていたが、ゲイリーはその音が自分の体から出ているような気がした。

「神ってのはホモ野郎か。それならこんなろくでもねえ世の中なのは納得だ。それとも実は女だったとかか? どっちにしてもたいして変わりゃしねえが……喜べよ。お前のツラはホモにもウケるってことだぜ。媚び売り先が増えてよかった――なあ!」

 ナイフが飛んできた。反応が遅れ刃先が左腕をかすめる。服が裂け、闇に晒された肌から熱が湧き出る。

 ひるんだ隙を突いてサディアスが掴みかかってきた。丸太のような腕がゲイリーの足を捉えたが、体勢の不利は覆せない。サディアスは立ち上がれず、ちょうどいい位置にきたその顔にゲイリーは思いきり膝を入れた。

 しかし腕は離れなかった。爪を立ててしがみついてくる。負傷させることに成功したものの、所詮は下半身だ。膂力は大きな影響を受けておらず、純粋な力くらべだとゲイリーはサディアスに叶わなかった。

「ぐあッ」

 腿に激しい痛みを感じ、ゲイリーは歯を食いしばった。サディアスが大口を開けて噛みついている。相当力を込めているのが額に浮き出た血管でわかる。

 これ以上の怪我はまずい――。

 ゲイリーは大きく舌打ちするとサディアスの背に銃口を押しつけた。それでも彼の口は離れない。

「さっさと離せ、この――」

 サディアスが目を上げた。爛々と輝く瞳は、その気がないことを雄弁に物語っていた。

「――そうかよ、クソ野郎!」

 ゲイリーは大きく膝を曲げると引き金を引いた。二発目の散弾が飛び出て、そのすべてがサディアスにめり込む。巨体に幾つもの穴が開き、肩甲骨から下が真っ赤に染まった。足に新たな痛みがこなかったことにゲイリーは安堵した。

 サディアスの肩が深く上下する。合わせて口から血が溢れ、ゲイリーの腿にかかった。彼がまだ呼吸している事実はゲイリーを驚かせたが――そこまでだった。サディアスの死は時間の問題に思えた。顎に力は入っておらず、歯もほとんど触れているだけだ。腕も徐々にずり落ちていく。すがりついてくる指先はただゲイリーへの殺意のみで動いていた。

 サディアスはもはや脅威ではなかった――明らかに。それでも、彼がまだ生きている――たったそれだけのことが、ゲイリーをたまらなく不快にした。邪魔者が、人生に落ちる目障りな石ころが、いつまでもだらだらと彼の進路に居残っている。落としたはずなのに落ちていない汚れ――靴底にへばりついて取れないガムのように。

 それがいまだここにある。あろうことか、彼の肉体に傷をつけてまで――。

 ゲイリーは大きく息を吸うと銃床でサディアスの頭を殴った。一発目で瞳が裏返り、二発、三発と殴ることで少しずつ体が離れていく。

「弟がッ! 死んだぐらいでッ! べちゃべちゃべちゃべちゃ泣きやがってッ! そのくせッ! 俺の足までッ! クソッ! 離れろッ! ゴミ野郎ッ!」

 その頭がゲイリーの足元に落ちたころには、サディアスはすっかり動かなくなっていた。綺麗に剃られた禿頭は血とあざでまだらになっている。ゲイリーは荒い息のままサディアスの後頭部を踏みつけた。

「ホモ野郎はテメエだろうが! あの世で弟のタマでもしゃぶってろ!」

 死体につばを吐き捨てると、ようやく怒りが収まった。夜風が熱を冷ましていく。それは心地いいものだったが、汗が引いていくにつれて腿の痛みも強くなった。

「……こいつ病気持ってないだろうな」

 爪先でサディアスの頭を小突き、ゲイリーは銃を支えに屈み込んだ。穴だらけの死体に向かって小さく呟く。

「最後のひとりになるのは避けたかったんだが……」

 贅沢は言っていられない。あれを嘘と断じるのはあまりに楽観的すぎる。

「どうしてこんなにこらえ性がないんだろうな」ゲイリーは他人事のように言いながら立ち上がった。「実際それでうまくいくんだから仕方ないのさ。俺はだいたい衝動的なんだ。今回だって途中まではうまくいってたろ。俺はそういう星の下にいるんだよ」

 ポケットを探り散弾を取り出す。ゲイリーは少し考えて、それをまたポケットに戻した。

「鉈にしとくか」

 サディアスを銃で殺した以上、他のふたりも銃で死んでいるとさすがに不自然だ。

鉈を探せば足元に落ちていた。ゲイリーはそれを拾って左手に持つ。残りは彼を盲信している女と負傷した女だ。サディアスを殺してしまったため時間制限はあるが、すぐに片づくだろう。ゲイリーは鉈を大きく振って残っている血を落とした。

「これが答えになるかはわからないが――俺はお前やお前の弟みたいに、小細工して人を殺したことはないんだぜ。殺したいやつを殺したいときに殺してる。だからといってサイコ・キラー扱いされると困るんだが……つまり、俺を不愉快にさせるやつを俺の人生から排除するのにためらう理由があるのかってことだよ、親友。サマンサだってそうさ。俺はああいう女が一番嫌いだ。その醜い脂肪と腐った×××で、他の男と同じく俺を思いどおりに動かせると思ってやがる女がな。地獄で可愛い可愛い弟くんにも教えてやってくれ、お前らがない頭を必死に搾って死体を埋めてたとき、俺は女を殺した後シャワーを浴びてビールを飲んでたって。それなのにお前らはここでくたばって、俺は捕まらず街へ出て行く。世の中本当によくできてるよな」

 ゲイリーの口調は世間話をしているときのようだった。死体を一瞥して薄く笑うと、彼は浜に戻るため踵を返す。

 ヒッ、と息をのむ音がした。

 木々の間にナンシーが立っていた。

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