第20話 次の依頼へ

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 とある地方都市の多相市。


 その街には解決屋が居るのだという噂がある。いわば都市伝説のようなもの。


 そのままズバリなネーミングの解決屋という者が、困りごとを解決してくれるのだという。


 ただし、解決屋の正体は不明。その姿を見た者は居ない。いや、居るには居るが、認識を通り過ぎていく。記憶として留め置くことができない。


 本名、性別、年齢、体格、容姿、声……その全てが不明。


 噂では、警察関係者も解決屋に接触しているのだという。

 また別の噂では、男女関係の痴情のもつれや不倫関係に関連する依頼、オカルト系の依頼などは、他の依頼よりも受けてくれやすいと言われているが……真相は定かではない。



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 ……

 …………

 ………………



「……では、ユラさんのアバターもどきについての情報はまだ要らないと?」

「ええ。今は止めておきます。思うところはありますが、管理者マスターには色々と頼みたいことも出てくるでしょうしね。それに……悪いんですけど、俺はもうユラのアバターもどきに出逢ってるでしょ?」


 いつものバー。

 マスターと鹿島秋良。

 この世界を観測するという、運営側の一人である管理者マスター

 異世界で二十年を過ごし、向こうの術理パラメータを持ち帰った男。


 二人はいつも通りにバーのカウンター越しでやり取りをしている。


「…………何故そのように思うのですか?」

「はは。まず、ユラからはアバターもどきを“彼女”だと聞いていました。つまり女性。その上で向かわせると言っていたから、これまでの鹿島秋良が知っている相手ではないんでしょう。で、こっちに戻ってきてから、俺は解決屋として結構な数の女性と知り合っています。その上で、親類縁者が居ない者を……となれば、ある程度は絞られてきますよ。まぁアバターの作成自体をこの世界の過去に遡り、その家族を含めて運営が準備しているというなら……選択肢はもっと増えるでしょうが……どうです?」


 秋良は異世界で愛する者を得た。もう直接触れ合うことも、話をすることもできない相手。その彼女をベースにした人物がこの世界に居るという。ただ、それは決して秋良の愛したユラではない。別人でしかない。


「……私からは直接的なことは申し上げられません。ですが……いえ、止めておきましょう」

「ええ。止めておきましょう。俺は今の生活が割と気に入っているんです。プラプラと昼間っから酒を呑み、怪しいことこの上ない仕事をたまにするというその日暮らし。暇を持て余すこともそれほどはない。丁度いい塩梅に暇つぶしも出来ていますからね」


 ウイスキーの水割り。いつもの注文。

 酔わない酒を秋良は今日も呑む。

 グラスを傾け、残りを一気に呷る。


「……行きますか?」

「久々にマスター直々の仲介ですからね。さっそく依頼人に会いに行ってきますよ。……どうせ今回も警察や百束一門が絡む案件なんでしょう?」

「ふふ。それは私には分かりかねますね。まずは依頼人のお話を聞いてみてはいかがでしょうか?」

「よく言うよ。まったく白々しい」


 怪しくも妖しい微笑み。胡散臭いマスターの言動。

 秋良には、もはやそれらが心地よい。このくらいの緊張感が性に合っている。


 観察者と実験体。


 鹿島秋良は……異世界帰りの男は、解決屋として街を彷徨う。




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