第136話 法案審議

■中央ゴレムス暦1586年6月5日

 アウレア おっさん


 アウレアス城の中にある議場はコロッセオのように同心円状に広がっており円形の部屋となっている。中心部分に議長が、その周囲に貴族議員たちが座っている。円形の最上部には大公の座する場所があり、ホーネットはそこに座っていた。

 ちなみに一方の民院の議場は長方形の建物の中央前方に議長が、その前に魚鱗のように議員が座る構造になっている。


 その貴族院の中では今、6月に提出された法案の議論が喧々諤々けんけんがくがくと行われていた。


「何故、元帥位を常設にする必要があるのかッ! それに軍権の委譲は大公陛下の統帥権を干犯することになるぞッ!」

「この世は乱世! 元帥をいちいち議決を取り任命するだけでどれだけの日数がかかると思っているのだッ! それに大公陛下が直接戦う訳ではあるまいッ!」


「何だと!? 不敬だぞ貴様ッ!」

「不敬だと? 貴様こそ変なレッテル貼りは止めてもらおう! 我々には言論の自由があるッ!」


「何事にも手順と言うものがあるッ! 何もかも簡略化してしまえば良いと言うものではないッ! 条約の締結時はちゃんと議決で全権大使が任命されて職務は全うされたではないかッ!」

「条約は戦争終了後の話であるッ! 世界を見てみよッ! ガーレ帝國、ヴァルムド帝國、ラグナリオン王国が我が国を侵略せんと企んでいるのだぞッ! それにアルタイナ、ヘルシアの情勢もキナ臭くなってきているッ! これはガーレ帝國の暗躍が原因だ! かような時に即時即応できないと先手を取られてしまうわッ!」


 その様子をホーネットは頭を手で支えてやる気がなさそうな表情で見ていた。

 しかし不機嫌なオーラが漏れているのも確かであった。

 ルガールはそれを察して貴族議員たちに怒鳴り散らしている。


「キルケス、絶対殺すリストを作成しろ」

「はッ! は……? 絶対殺すリストでござりますか……?」

「そうだ。俺に敵対した奴は後で粛清してやる」

「しゅ、粛清……。畏まりました」


 キルケスはホーネットの言葉に震え上がった。


「貴様らの考えは読めているぞッ! サナディア卿を元帥位に据え置き権力を集中させるつもりだとなッ! しかしサナディア卿が元帥位に足る人物と言えようかッ! いや、言えまいッ!」

「今現在、この難局を乗り越えられるのは数々の戦場で武功を上げてきたサナディア卿でなければ不可能だッ! 私は何も誰でも良くて主張している訳ではないッ!」


「サナディア卿が銃火器保有禁止法を破っていることは数々の証言から明らかだッ! そんな人物が信頼に足ると言えるのかッ! いや、言えまいッ!」

「銃火器保有禁止法についても撤廃の案が提出されているッ! 法律と言うものは時代の流れと共に変化していくものだッ! そんな時代遅れの骨董品のような法律など後生大事に守っている必要はないッ! それにサナディア卿がいつ銃火器を使ったと言うのかッ! 証拠を出すのが筋と言うものだろう!」


「証拠だとッ! 証人などいくらでも存在するわッ! 私は実際に銃を使った兵士の証人喚問を提案するッ!」

「証人だと? そんな者がいるのか!? いるなら叩き斬ってくれるわッ!」


 もちろん、この場にいるおっさんは若干引いていた。

 おっさん側の貴族議員の発言が強引すぎる。

 我ながらやり過ぎたかなとも思うが、そうでもしないとこの国は変わらないし、戦争でも勝てなかった。


「(でもなぁ、ちょっと議論になってない箇所がチラホラあるんだが……?)」


 だが、おっさんに止めると言う選択肢はない。

 おっさんはアウレア大公国をまとめ世界に覇を唱えるのに決めたのだ。

 それは固い決意であった。




 一方その頃、民院では――


「アルデ元帥のお陰で今の繁栄がやってきた!」


「これ以上、誇りを投げ捨てて周辺国に頭を下げ続けるのか?」


「列強国に従うことなど国益にかなわない。戦後は終わった!」


 民院議員たちによっておっさんの出した法案を推す声が圧倒的多数を占めていた。

 ぬるま湯のような平穏。列強国によって牙を抜かれた国民たちが今そこにある危機にようやく危機感を覚え始めたのだ。

 それに戦争は人を熱狂させる。

 公国民たちがおっさんの見せた夢に未来を信じたのである。


「非武装中立国になって敵が攻めてきたら降伏すればいいなんて言っていた自分を殴ってやりたい」


 そしてここにおっさんの力になりたいと言う思いを強くした青年たちが現れ始めた。

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