第120話 バルト領、侵攻!
■中央ゴレムス暦1583年9月2日
アラモ砦 おっさん
おっさんがアラモ砦を奪還し、貴族諸侯に大動員令をかけたため各地からそれぞれの軍が終結し、おっさんの軍は一気に膨れ上がった。
今回は傭兵団などは動員しておらず、貴族と軍部の軍だけである。
その数、三七○○○。
もちろん全力出撃ではないが、おっさんがこの世界に来た頃に比べて大兵力を動員できるようになったものである。
これは軍制改革が進んだこともあるが、エレギス連合王国との同盟で飛躍的に進むようになったのだ。とは言えまだまだ貴族諸侯軍が主力である。
アラモ砦は続々と集まって来た軍によって、野営陣地が大地を埋め尽くすほどの数になっていた。
「閣下、ドーガ・バルムンク、着陣致しました。」
「同じくガイナス・キリング、着陣だぜ」
「おう。ご苦労様。調子はどうだ?」
「良い休暇になりました」
「そうだな。柄にもなく休んじまった」
「お前らに領地預けてないもんなぁ……」
その他にもアルタイナで共に戦った貴族諸侯たちが小さな執務室に入ってくる。
遅れてベアトリスとノックスもやってくると、おっさんに挨拶をする。
「皆、アルタイナ戦争の疲れは取れたかな?」
おっさんが労いの言葉を掛けると集まった者たちが一斉に話し出す。
うるさくて何を言っているのか聞こえないが、皆一様に笑顔なので問題ないのだろう。おっさんはひとしきり諸侯を騒がせた後、言葉を掛けて制止した。
執務室は一時、静まり返る。
「これより西進しヘリオン平原を経てバルト王国の首都ベイルトンへ侵攻する。そろそろ因縁に決着をつけるぞッ! 今こそバルト王国を滅ぼす時だッ!」
『おおおおおおおおおおおおおおおお!!』
狭い室内に
―――
■中央ゴレムス暦1583年9月4日
バルト王国 首都ベイルトン
「何をしておるッ! 軍の再編を急がせろッ!」
バルト王国のトゥルン王は焦燥の交じった声で叱咤している。
ブレインのアウレア攻略軍の敗報を聞いてから彼はずっと冷や汗をかきっぱなしであった。
「今、非常招集をかけているところでございますが……中々集まらぬのです」
「傭兵でもなんでも掻き集めろッ!」
「カイラス、デナード、ブレインは何故負けたのだッ!! あのブレインだぞッ!」
「陛下……ブレインは焦ったのです。鬼哭関とアラモ砦で兵を分けたのが間違いだったのです……」
「うぬらが目付をつけておかぬからであろうがッ!」
「はッ……誠に申し訳なく……」
先程から怒鳴り散らすばかりのトゥルン王にカイラス軍務卿とデナード軍務大臣は恐縮しきりであった。そこへ宰相のカルケーヌが諫言をする。
「陛下、まだ負けると決まった訳ではございませぬ。山岳地帯に引き込んで戦えば、如何にアルデと言えどそう簡単には破れませぬ」
その言葉に救われたカイラスとデナードはほっと胸を撫で下ろすと、少し冷静さを取り戻してトゥルン王に物申す。
「戦は数ではございません。我らが得意とする山岳戦で目に物を見せてやります」
「本当に勝てるのだな? 総大将は誰にするのだ」
「ここは守護神テラリス中将に任せるのがよいかと」
「テラリスか……。あのアルデに勝てるのか……」
「陛下、必ず勝てる戦などございません」
「分かっておるわッ!」
トゥルン王は冷静に突っ込んでくるカルケーヌを怒鳴りつける。
「鬼哭関にいる兵を動かせないのは痛いですが、北の貴族領から動員をかけております。しばしのご辛抱でございます」
その後も側近を始め、将校がトゥルン王の御前で策を練り始めるが、彼の耳はそれを聞くことを放棄していた。
「(このままでは国が
トゥルン王は脳と言う狭い闇の中で迫るアウレア大公国軍の足音に怯えるのであった。
―――
■中央ゴレムス暦1583年9月5日
ドルガン辺境伯領 領都ダガン
ちょうど、トルゥン王がおっさんの到来に怯える中、ボンジョヴィはバルト王国北にある辺境伯領を訪れていた。
もちろん、ドルガン辺境伯に会うためである。
ボンジョヴィは領主の館で今まさにドルガンの前にいた。
「お初にかかります。アウレア大公国のボンジョヴィと申しまする」
「そうか。こんな時にわしに用などどういう訳だ?」
頭を下げるボンジョヴィにドルガンはすっとぼけた質問をする。
「野心家たる辺境伯閣下ならばお分かりになるのではございませぬか?」
「ふふッ……言うではないか。しかしわしも最近ボケてきてな。はっきり口にしてもらわねば分からん」
野心家と言われているが、バルト王国建国以来、辺境伯として代々この土地を守ってきた家柄である。
「では申しましょう。現在我がアウレア大公国軍はヘリオン平原からバルト本国へ進軍中です。まもなく国境のヘリアラル砦に到着する頃でしょう。このまま行けば首都ベイルトンに迫るのは明らか。ドルガン閣下、今の内に我が陣営に入りなさいませ」
「(ボケてのくだりはスルーかよ)これはしたり。バルト王国軍とて簡単に負ける訳がなかろう。貴軍はヘリアラル砦で損耗し、山岳兵に手を焼くだろう」
平地の少ないバルト王国で山岳兵によるゲリラ戦を受ければ流石のアウレア大公国軍と言えども簡単には侵攻できまいとドルガンは踏んだのだ。
「砦など我が軍にかかれば1日もあれば落ちましょう。さすればベイルトンは裸も同然。野戦になればそちらに勝ち目はございませぬ。山岳兵など物ともせぬでしょう」
「貴殿は山岳兵を舐めておるようじゃ。バルトは山岳地帯。さすがの烈将アルデと言えども簡単には進めぬよ」
「ではバルト王国にトドメを刺す役は閣下にお任せ致します。ゆるりとベイルトンまで進軍なさいませ」
「!? トドメを刺すはわしだと言うのか?」
ドルガンの顔が驚愕に歪む。
とんでもないことを言い放ったボンジョヴィは涼しい顔のままだ。
「必ずやそうなりましょう。なれば今ここでお約束頂いた方が閣下に及ぶ害は少なくてすみますが……」
「何もせずともわしがバルト王国を裏切るような言い方だが、寝返ってわしに何の得があろう」
「念願の地、カレソン領、ニッテス領を得ることができまする。バルト王国は戦いにつぐ戦いを経験しながらも領土は増やすことができませんでした。北のガーレ帝國との小競り合いで国を守ってきた閣下の働きに見合う領土が与えられぬことにご不満がおありでしょう」
バルト王国の領土は建国以来増えていない。
国力を増すために山を削り平地を増やす試みもされているが、その分災害も起こりやすくなっていた。
「(そこまで分かっておるのか……)よかろう。ではゆるりと参ろうか」
「ご英断、胸がすく思いにございます」
小気味よいと言った感じの笑みを浮かべるドルガンに対して、ボンジョヴィはまたしても涼しい顔のまま頭を下げたのであった。
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