第119話 ラグナリオン、国交樹立

■中央ゴレムス暦1583年8月24日

 アラモ砦 おっさん


 アラモ砦を見事、奪還したおっさんはその戦果をアウレアへ報告していた。

 その結果、大公ホーネットから2つの命令が下された。


 一つ、そのままバルト王国に攻め込み王都ベイルトンを占領せよ。

 一つ、敵総大将、ナリッジ・ブレインを処刑せよ。


 流石のおっさんもその下知には頭を悩ませていた。

 やっとアルタイナ戦争が終結し、帰国したアウレア兵たちをまた呼集しなければならないのだ。兵だけでなく貴族諸侯の不満にも繋がりかねない。


 平時ならば貴族院か民院によって否決されるかも知れないが、現在はバルト王国討伐令が既に出ている状態だ。なにしろおっさんが元帥なのである。


 しかもおっさんはアウレアを掌握するまで元帥位から降りるつもりがないので攻めないと言う選択肢も取れない。まさに痛し痒しである。


 ブレインに関しては一応、捕らえてはいるがそれなりの対応をしている。

 なにしろおっさんと同郷なのだ。

 おっさんとしても甘くなってしまうと言うものである。


 なのでバルト王国への侵攻はともかくブレインの処遇についてはおっさんも頭を悩ませていた。

 ホーネットはサースバード会戦でジィーダバが死んだ時のことを覚えているのかも知れない。あの時のバルト王国総大将もブレインであった。彼がもっとおっさんを追いつめていれば……と言う思いでもあるのかも知れないが流石に知る由もない。


 ホーネットの命令を知らないバッカスとブレインは、おっさんの目の前でぎゃあぎゃあと騒ぎ立てていた。


「だから捕まったんだから潔く軍門にくだればいいんじゃないのか?」

「うっせー三下! 俺は誰かの下になんかつかねーんだよ」

「今、バルト王国に仕えてるじゃねぇか! バカか? バカなのか?」

「うっせうっせ! 俺は先代に借りがあるから仕方ねーんだよ!」

「そこまでのものなのか? 一体どんな借りがあるんだよ」

「この世界に来て路頭に迷ってた俺を拾ってくれたんだよ!」

「(この世界?)なんだそりゃ、お前さんは犬コロかなんかか?」

「んだよ! 恩義を忘れない良いヤツじゃねーか!」

「自分で言うなよこのバカ野郎が……」


 おっさんはなにやってんだコイツらと半ば呆れながらそのやり取りを聞いていた。


「(とにかくバルト王国討伐はホーネット陛下の強い意向であると言うことを全面に押し出していくしかないな。裏からも噂を流すか……。問題はブレインだ。偽の首を用意するか。流石に陛下もヤツがどんな顔か知らんやろ。一応ダメ元で頼んでみるが……)」


 おっさんは後ろ手に縛られて部屋のど真ん中で胡坐をかいているブレインに言った。


「ブレイン、これからバルト討伐が始まる。バルトに勝ち筋はない。俺はお前を死なせたくない」

「……まぁ確かにバルト王国に俺以上のヤツなんて存在しねーんだが……」

「だろ? 別に参戦しろとか言うほど俺は鬼畜じゃないぞ?」

「……」

「近日中にアウレアは国境を越えるぞ」


 バルト討伐は決定事項だ。

 ホーネットの意志もあるが、おっさんの天下統一の意志も変わってはいない。

 バルト王国を滅ぼすのはアウレアの総意であった。


「とにかく覚悟を決めておいてくれ」


 おっさんはブレインにそう申し渡すと、バッカスに言ってブレインを地下牢に連れて行かせた。




 ―――




■中央ゴレムス暦1583年8月26日

 ノーランド ガラハド


「ではそのように」


 プレイヤーを殺して成り代わった現地人、ガラハド・ローレンスの言葉を受けて黒ずくめ姿の者が暗闇に身を躍らせた。


「しかしこうも情勢が動くとはのう……流石は烈将アルデと言ったところだわい」


 ガラハドは腕組みをしながら外の暗闇に目線をやった。

 月は出ておらず居室からは何も見えない。


「お館様、アルデ元帥の件、上手くことが運びましょうや?」

「そこを上手くやるのがわしの仕事よ」

「確かにアウレアはサナディア卿のお陰でここまで力を取り戻しましたからな……」

「そうじゃ、歴史あるアウレア大公国の万世一系もここで終りよ。アウレアはホーネットの代で終りじゃ」

「しかしシルフィーナ皇女殿下が首を縦に振りましょうか? 戦死したジィーダバに操を立てることも考えられるのでは?」

「なぁに……外堀を埋めていけばよい。それに殿下も閣下のことを好いておいでのはずだ」

「流石はお館様、慧眼恐れ入りまする」


 ガラハドはその禿げ上がった頭を撫でると口角を釣り上げたのであった。




 ―――




■中央ゴレムス暦1583年8月26日

 アウレア 


 長い交渉の期間を経てラグナリオン王国との国交が樹立された。


 別に断交関係にあった訳でもなく、民間交易も行われていたのだが、此度正式に国交樹立と相成った訳である。


 交渉はアルタイナから帰ってきた外務卿のテスラ、おっさん幕下のボンジョヴィなどが担当し、ラグナリオン王国使節団との話し合いを取り持った。


 これでアウレア大公国はラグナリオン王国と以下のような関係を築くこととなる。


・国交開設、大使館の設置

・通商条約の締結

・相互不可侵


 ラグナリオン王国としてはいずれは同盟関係を築きたいと言う考えのようであった。今回それに至らなかったのはレーベテインに連なる者としての面子があったからである。自身を正当なレーベテインの後継国家であるとするラグナリオン王国は、同じくレーベテインの正当なる後継国家であると主張するアウレア大公国を認められなかったのだ。この点においてラグナリオン首脳陣の主張は真っ二つに割れた。


 国王であるクロームを始め、外務卿であるシアレティ伯爵は穏健派として軍事を含めた同盟関係の構築を主張したが、軍務卿のネイク侯爵を筆頭に軍関係者が揃ってそれに異を唱えたのである。


 クローム王としては北に備えるために是非ともアウレア大公国との同盟を築きたかったようであるが、その目論みは失敗に終わった訳である。

 面子で国を傾けることになるかも知れないラグナリオン王国の行く末はまだ誰も知らない。


「テスラ卿……同盟関係については今後も話し合っていくと言うことでよろしいでしょうか?」

「シアレティ卿、貴国がそこまでおっしゃるのならば我が国は常に交渉の窓口を開いておきましょう」

「おお、感謝致しますぞ!」


 テスラ卿は王国使節団に軍務卿などの軍関係者を多く入れたことを悔やんでも悔やみきれず同盟のため水面下での交渉を続けようと画策するのであった。

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