第118話 おっさん、捕縛する
■中央ゴレムス暦1583年8月20日
アラモ砦 おっさん
アウレア大公国軍とバルト王国軍の戦いはいよいよ激しさが増していた。
本陣で床几に座っていたおっさんは、ブレインが【
「ブレインのもう1つの【
おっさんはそう言うと立ち上がり残りの全軍に号令を掛けた。
「全軍突撃ッ! バルト王国軍を喰い破れッ!」
おっさん自身もアドに飛び乗り本陣から飛び出す。
遅れまじとアウレア兵たちが次々とおっさんに続いて走り出した。
流石に【
《覇王の進軍》と《車懸りの陣》により強化された兵士たちが真正面からぶつかり合う。屍を乗り越えアウレア兵が騎兵による突撃を敢行する。
「勝機は我らにありッ! 突撃じゃ!」
騎兵部隊の部隊長が大音声を張り上げてアウレア兵を鼓舞している。
ブレインの部隊を左右から挟撃する形で回り込み、突撃を受けたバルト兵は側面を突かれて混乱状態に陥った。
その中でおっさんの率いる騎兵は真正面からブレインの部隊に斬り込んだ。
「ナリッジ・ブレイン! 逃げ場はないぞッ! いざ尋常に勝負しろッ!」
おっさんは飛び掛かってくる兵士を撫で斬りにしながら陣中深く踏み込んで行く。
そしてブレインを探すおっさんの赤備えの甲冑は返り血に塗れ、より一層赤みを深くしている。
アドから降りてアラモ砦前に布陣していたブレインの陣をおっさんが歩いて行く。
その姿はさながら地獄の赤鬼と言った風体であった。
一方、バッカスとブレインは砦の正門前で未だ一騎討ちを演じていた。
「ええいッいい加減降伏しやがれってんだッ!」
「戯言抜かすなッ! テメーを討ち取ってアルデの野郎に見せてやんよ」
2人の戦いはもう既に半刻は過ぎようとしていた。
それほどまでにその実力は伯仲していたのだ。
もちろん【
「おらおらおらおらぁぁぁぁぁ!!」
「(くそったれッこのままじゃジリ貧だぜ。一旦退くか?)」
バッカスの攻撃を何とかいなしながらブレインは状況を見極めようとしていた。
砦前に陣取った部隊は三方向からの攻撃を受けてかなりの打撃を受けている。
もっているのはブレインの【
また、ブレインがバッカスに掛かりきりのため、ブレイン自身で事態を打開できないでいた。
そこへおっさんの大音声がブレインの耳朶を打った。
「(チッ……アルデが来たら負ける……撤退だ)」
「閣下も退屈で遊びに来たようだぜ? 死にたくないなら尻尾を巻いて逃げるんだな」
「クソがッ……退却だッ! 砦の東門から抜けろッ! 殿は俺が受け持つッ!」
「総大将が殿かッ! サースバードの時と同じだなッ!」
ブレインからの伝令により退却の合図が送られる。
それにより東門が開け放たれバルト王国軍は西へ向けて撤退を開始した。
後はブレイン自身が退却しなければならないのだが退路は全てふさがれている。
まさに四面楚歌の状況であった。
逃げ場がないのは、背後の北門は砦の中から閂が掛けられているためである。
ブレインの周囲の兵士たちはじょじょに討ち取られ、その数を減らしている。
このままでは全滅は必至であろう。
そこへとうとうおっさんが姿を現した。
「ブレイン……ここにいたか。もう逃げ場はないぞ? 降伏しろ」
神妙な声で降伏勧告をするおっさん。
「アルデの野郎……来やがったか。勝負してやる。来い」
「おい、俺から逃げんのか?」
「テメーとは次だ。我慢しやがれ」
その言葉にバッカスが嫌そうな表情を見せる。
せっかくの敵総大将との一騎討ちなのだ。
まだまだお楽しみは続くはずだったのである。
「バッカスくん、時間掛け過ぎだからここは俺が行くね」
《万夫不当(伍)》
おっさんは【
これでパッシブの【
「さぁ、
「ふんッ……」
おっさんはそれを合図と取ったか、一気にブレインとの間合いを詰める。
そして両手持ちの大太刀を振りかぶると力任せに振り下ろす。
それを辛うじて受け止めたブレインだったが、あまりにも強烈な一撃に手が痺れてしまっていた。
「(クソがッ正面から受けちまった。マズいッ……)」
そんなことを露とも知らずおっさんは追いうちをかける。
返す刀でブレインを攻撃したのだ。
慌てて大剣でガードするも、キンッという澄んだ音が戦場に響いた。
おっさんの大太刀がブレインの大剣を斬ったのだ。
大剣は半ばで斬られ、その綺麗な断面を晒す。
「ぐッ……」
「勝負ありだな。悪いようにはしないから安心しろ」
おっさんは大太刀の先端をブレインに向け言った。
こうしてブレインはあっさり捕らえられ虜囚の辱めを受けることとなる。
おっさんはバッカスに退却したバルト王国軍を追撃するように命じ、アラモ砦に入った。
こうしてバルト王国軍のアウレア侵攻は頓挫することとなる。
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