第117話 アラモ砦奪還戦

■中央ゴレムス暦1583年8月20日

 アラモ砦 おっさん


 おっさんはバッカスを連れてアラモ砦へと到着した。


 たった数日でアラモ砦が強固になるはずもなく、この小さな砦に入りきらないブレインの軍は前方に布陣している。


 とは言え、兵力は伯仲している。

 おっさんとしてはプレイヤー相手の一戦となるので油断するつもりなどなかった。


「兵の上では互角。いや向こうが多いか」


 カノッサスで見事な退却をやってのけたブレインのお陰でバルト王国軍の被害は軽微であった。


 まだ余力があるバルト王国軍故に、アラモ砦の前面にブレインは陣取っているのだろう。正面からぶつかっている間に砦から火縄銃で銃撃を加える手はずに違いない。


「閣下、あいつら残ってるってこたぁ後詰があるってことなんですかい?」

「分からんな。今、斥候を放ってるけどバルト王国にそこまでの余力があるとも思えん。敵さん、鬼哭関きこくかんでも戦っている訳だし」


 バッカスはそれを聞いて合点がいかない顔をした。

 ホラリフェオの時代は兵力ではバルト王国に負けていた。

 今はアルタイナから帰国した兵を合わせるとバルト王国軍を圧倒するまでにアウレア大公国の兵力は膨れ上がっているからだ。


「取り敢えず、バルト王国軍を国外に叩き出すッ! 励めよバッカス!」

「応!」


 アウレア大公国軍が静かに動き出した。

 率いるはバッカス。

 その数およそ二○○○である。


 バルト王国軍の前には木の杭がアウレア大公国軍に向けられている。

 急ごしらえだが効果はある。


 8月20日昼、バッカスはバルト王国軍に突撃を開始した。


「敵はびびって出てこねぇぞッ! テメェらやっちまえ!」


 バッカスの下知と共にアウレア大公国軍が喊声を上げてバルト王国軍に殺到する。

 対するブレインは冷静であった。


「手堅く守れッ! 数の上では負けてねぇ!」


 ブレインはまだ【戦法タクティクス】を発動しない。

 おっさんが発動したタイミングで《激怒の猛反撃》を喰らわせるつもりなのだ。


 ダダーン!!


 バルト王国軍の火縄銃が火を吹いた。

 

「次ぃ、弾込めぇ!」


 部隊長が矢継ぎ早に指示を出す。


 ダダーン!!


 音が鳴る度にバッカスの率いる兵士たちが大地に倒れ伏す。


「速く取りつけッ!」


 バッカスが先頭を切ってバルト王国軍に乗り込んだ。

 あちこちで剣撃の音が響いている。

 両軍入り乱れての乱戦に持ち込まれたが、砦上から火縄銃が火を吹く。

 バッカス隊の後方に容赦なく銃弾が撃ち込まれていた。


「火縄銃にしては射程が長げぇな。どうなってる!? 怯むなッ! ひたすら前進しろッ!」


 バッカスの指示は正しい。

 前へ前へと出て敵味方の区別が利かなくなるほどバルト王国軍は銃弾を撃ち込めなくなるからだ。


※※※


 その頃、ブレインは焦れていた。

 おっさんが【戦法タクティクス】を中々発動しないからだ。

 ここに至ってブレインはアウレア兵が強くなっていることを実感していた。

 とにかくカウンター【戦法タクティクス】であり、ブレインの奥の手である《激怒の猛反撃》が出せないとなると苦戦は必至だ。


「チッ……何考えていやがる」


 火縄銃の発砲音と敵味方の喊声が入り混じり、アラモ砦南門前は大混戦になっていた。

 床几に座るブレインの近くをバッカス隊が放った銃弾が通り過ぎる。

 だがブレインもここで総大将が退いては士気にかかわると理解していた。


「よし。俺も出るッ! ここが勝負の分かれ目よッ! 敵将討ち取るぞッ!」


《一騎当千(肆)》

《守護神(参)》


 ブレインは【個技ファンタジスタ】を発動すると部下の制止も聞かずに駆け出した。

 取り敢えず近くにいる敵は悉くブレインの手によって地獄に落とされていく。


「ブレイン閣下ッ前に出過ぎですッ! おいお前ら閣下をお守りしろッ!」


 とは言え【個技ファンタジスタ】を使ったブレインの敵になりそうな者はほとんどいないと言ってもよい。


「オラァ! 俺に勝とうなんざ100億年はえぇんだよ!」


 ブレインは大剣を振りかざすとアウレア兵は数人まとめて吹っ飛ばされる。


「お前さん、やるじゃねぇか。俺と踊ろうぜ……」

「ああ!? テメー死んだぞ」

「大した自信だな。名乗れ」

「テメーから名乗れや」

「チッ……しゃあねぇ。俺の名はバッカス死んでも覚えとけ」

面白おもしれぇーナリッジ・ブレイン。推して参る……」

「ブレインだと……敵総大将かッ! 行くぞ!」


 2人の乱舞が始まった。

 とても大柄とは言えないブレインと巨漢のバッカスの一騎討ちである。

 周囲の兵士たちは恐ろしくて近づこうともしない。


「ハッ《豪傑(はち)》かよッ! しかも天然じゃねぇかッ!」

「天然?」

「何でもねーよ! いざ!」

「チッ」


 バッカスの大剣が唸りを上げてブレインに迫る。

 ブレインはそれを正面から受け太刀せずに斜めに反らしてスライドさせる。

 幾らブレインが《一騎当千》で武力が上がっていても元から持っている高レベルの《豪傑》には敵わないと踏んだのだ。


「やるなッ」


 バッカスは好敵手を見つけたりとばかりに自慢の大剣を連打する。

 ブレインもその攻撃を見切りかわし勝負は終わらない。


 その後も2人の戦いは続く。

 お互いの大剣が激しくぶつかり合い甲高い金属音が周囲の兵士の耳朶を打つ。

 双方、互角の戦いを繰り広げているもののバッカスが笑っているのに対し、ブレインには余裕がない。


「(くそったれッアルデの野郎が来たらヤバい)」


 将の焦りは末端の兵士たちにも伝わるものだ。

 今まで圧倒的な勝利しか見せなかったブレインが互角以上にあしらわれていると見られるのである。


「(しゃーねー)」


《覇王の進軍(参)》


 ブレインは仕方なく【戦法タクティクス】を使う。


 それを受けてバルト王国軍の兵士たちの体が光り輝いた。


『加護の力がきたぞーーー!!!』


 しかしそれと同時にアウレア兵からも雄叫びが上がった。


『うりいいいいいいいいいいいいいいいい!!!』


 おっさんが《車懸りの陣(参)》を発動したのだ。

 それを瞬時に理解したブレインが舌打ちをする。


「クソがッテメーら踏みとどまれッ!!」


 ブレインの焦燥の交じった叱咤が戦場に飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る