第114話 聖軍、敗退する
■中央ゴレムス暦1583年8月15日
カノッサス
ラグナロクの父であるブリンガー・ド・レーベは急ぎ戦支度をしていた。
カノッサスの南西に位置するアラモ砦が落ちたのならば、バルト王国が狙うのはここしかない。
「この歳になって血が沸くとはな」
「お館様はまだまだお若いのです。血気にはやりませぬよう」
「ははは……そうだそうだラグナロクに家督を譲ったのをたまに忘れてしまうな」
ジェイガンに釘を刺されブリンガーは苦笑いを隠せない。
そんな中、兵士たちはというと城壁の上にありったけの矢を運んでいた。
カノッサスに銃火器はないが、おっさんが救援に駆けつけるまでならばバルト王国軍五○○○を押さえられるだろう。
アウレア大公国の穀倉地帯の1つであるカノッサスは重厚な城壁に守られた堅固な城塞である。比較的安全な立地にあるため、ここのところ攻められたことはほとんどないが、レーベテインに連なる者としてレーベ侯爵家の面目を保たねばならない。
あちこちで部隊長レベルの兵士が指示を出しており、あたりは喧騒に包まれていた。
「おい、矢をあるだけ持って来い!」
「馬鹿野郎! 南門に集めるんだよ!」
「包囲される可能性があるんだから均等に配れよ」
カノッサスの城門は鉄城門である。
今はまだバルト王国軍が現れていないので、開いているが、城門にも内側から閂がかけられる予定だ。
「敵には破城槌があると思うか?」
「山から切り出して組み立ててくる可能性がございますが、その場合進軍の方は遅そうですな」
「まぁうちの城門はそこらの破城槌では破れんがな」
そう言ってブリンガーは不敵に笑うのであった。
―――
■中央ゴレムス暦1583年8月16日
おっさん
「え? まだ聖戦ってやってたの?」
おっさんの間抜けな声が執務室に響く。
決着がついたということでまさに今おっさんに報告が上がってきたのだ。
聖戦発議から一か月でイルクルス、ガーレ帝國、ヴァルムド帝國、カヴァリム帝國、ラグナリオン王国、バルト王国、ネルアンカルム、ニールバーグ、スパーナの9か国から成る聖軍およそ10万が蛮族の住まう蛮土に攻め込んだ。
今回の聖戦の標的は蛮土と呼ばれているヴェルド、グレイスであった。
ヴェルドの遊牧民族、ヴェルダンと黒魔の大森林の護り手、グレイスのフンヌを滅ぼすという名目で攻め込んだ聖軍であったが、思いの他緒戦から苦戦することとなる。
聖軍と言っても各国が堅く手を握り合って連携を取る訳でもないこの戦は、小勢でも連携が取れているヴェルダンとフンヌの方に圧倒的な分があった。
更に被害を嫌う列強、準列強国はそれ以外の国家を先鋒として進軍し、地の利のない各国は平原で縦横無尽に駆け回るヴェルダンの軽騎兵、弓騎兵に各個撃破され大損害を被ったのである。
事態を楽観視して、小国を馬鹿にしていた列強、準列強国も銃火器などの有利な武器があるのにもかかわらずヴェルダンに翻弄され悪戯に兵を消耗する結果となった。
それでも面子があるイルクルスは聖戦を止めることはなく、その進軍は黒魔の大森林の近くまで及び、日々そこから出現する魔物や魔獣と戦ってきたフンヌと刃を交えることになる。ヴェルダンにより疲弊させられた各国の軍は、強力な魔物を身体強化の魔法と鍛え上げた肉体で葬ってきたフンヌに完膚なきまでに叩きのめされたと言う。
今まで聖戦と称して地方の国家を度々征伐してきたイルクルスであったが、今回ばかりは相手が悪かったようだ。
神に祝福されたと言われる神殿騎士団もかなりの数が蛮土の地に倒れたと言う。
戦略も何もなく進軍した聖軍は正面のフンヌに痛恨の一撃を受けたところをヴェルダンに背後を襲われ、その悉くが敗走した。
とは言え、ヴェルダンとフンヌは簡単に退却すらさせてくれなかった。
ゲリラ戦を展開され、聖戦は泥沼化し長期化した。
聖戦を発議し、大軍勢で攻め込んだにもかかわらず大敗を喫したイルクルスは世界に対する影響力を低下させることとなる。
―――
■中央ゴレムス暦1583年8月16日
アルタイナ
戦後、無事タンシン条約を結んだアウレア大公国軍は新たに得たリョクコウとフケン要塞に合わせて兵一万を置き、アウレア大公国への帰国の途につこうとしていた。
エレギス連合王国のレオーネはまだやることが山積しているらしく、アルタイナにあるエレギス連合王国領とアウレア領を行き来している。
アルタイナにはキングストン伯爵と軍部からアルヴィス・ネルトマー少佐が軍団を率いて駐屯することになった。おっさん配下の将たちは皆帰国する予定だ。
これはもちろん臨時措置である。
アルタイナ情勢は今後も予断を許さない。
よく考えた軍団配置が必要になってくるだろう。
やっと帰国できるとなってドーガはガイナスと帰国準備をしていた。
「しっかしやっと我が国に帰れるな。ガイナスよ」
「ああ、意外と長くいたような気がするぜ。全く戦争ってぇのはめんどくせぇ」
「はッお前がそれを言うのかよ。この戦闘狂が」
「バッカ、お前、この俺を戦うしか能がないみたいに言うんじゃねぇよ」
「ああん? 違ったのか?」
「違うに決まってんだろ。今はまだ領土を預けられてねぇが俺の内政手腕を見とけよ? 古参なのにまだ任せられてねぇ、どっかの誰かさんとは違うんだよ」
「おいそいつはどこのどいつだ」
「言わせんな。恥ずかしい」
どこにいようといつもと変わらないドーガとガイナスであった。
そこへ、ボンジョヴィがすまし顔でやってきた。
「バルムンク殿、キリング殿、早いところ帰国準備を。本国がまたバルト王国にちょっかいを出されているようですよ」
「まーた攻めてきてんのか」
ガイナスが呆れた声を上げる。
それはドーガも同感のようだ。
「よく国が傾かないないな。相手はブレインか?」
「然り。カノッサスに迫っているとのこと。閣下御自らご出陣なさるようです」
「ま、プレイヤーのブレインじゃ閣下がでるしかないわな」
プレイヤーの【
並の武将では太刀打ちできないだろう。
「くそッ俺も戦いたいぜ」
ガイナスが少し苛立ったような声を上げる。
当然ツッコミを入れるのはドーガである。
「やっぱり戦闘狂じゃねぇか」
「俺はサースバードでやられちまったからな。借りを返したいだけだぜ」
ドーガとガイナスの掛け合いを黙って聞いていたボンジョヴィが口を開く。
「……まぁ焦らなくともよろしいでしょう。近い内にお二人には活躍してもらわねばならぬ時がきますからな」
「何?」
「いずれ分かる日が来ます」
ボンジョヴィはそう言って不敵な笑みを浮かべた。
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