第97話 リョクコウの戦い ①
■中央ゴレムス暦1583年6月15日
おっさん
おっさん率いるアウレア大公国軍、二○○○○は半島を出て北西に向かっていた。
目的地はリョクコウの軍事基地である。
「あちらさんは既に布陣を終えているようですな」
一回りして物見をしてきたのか、ドーガがアドに乗って戻って来た。
この辺りは起伏があり完全な平地での戦いではない。
砦のようなものがチラホラ見えるが、決戦に間に合わなかったのか作りかけのようだ。アルタイナもまさか本土決戦になるとは思ってもみなかったのだろう。
おっさんは今、斥候をばら撒いているところだ。
それに加えて現地人も雇っている。彼らにしか知り得ない情報もあるからだ。
現場の把握は指揮の基本である。
と言うか地形を見ておかないとボードに反映されないからと言うのもある。
「どうも川の水量が少ないような気がしますじゃ」
「最近雨降ってないの? 今は小雨がパラついてるけど」
「雨量は例年並じゃ思とったんじゃがのう」
斥候からの情報をまとめた結果、アルタイナ軍は魚鱗の陣のような構えを見せているようである。おっさんはそれを聞いて直ちに陣触れを出す。
戦いはリョクコウ川を挟んでの睨み合いから始まった。
魚鱗の陣に対してこちらも魚鱗の陣。
地形的にはアウレア側が低地になっている。
リョクコウ川はあまり水量がなくアドでも徒歩でも問題なく渡れそうではある。
渡河の際にもたつくこともないだろう。
小雨がパラつく中、おっさんはボードを眺めながらどう攻めるか考えていた。
敵総大将の名前はシュウヨウ。
どうやらプレイヤーではないらしいが油断は禁物である。
【
アルタイナ軍はいつまでたっても動く気配はない。
フケン要塞と連絡を取り合っているのだろうが、おっさんとしてもいつまでもこの地で引き止められている訳にはいかない。
能力がないなら力で押す。
おっさんは下知を下した。
「アチソン男爵を押し出せ」
下知と共にアチソン率いる三○○○が動き出した。
おっさんは更に両翼からも軍勢を投入した。
注意すべきは魔術のみと考えたおっさんは速攻で勝負を決めようと、更にドーガとガイナスも投入する。
それに対してアルタイナ軍もようやく動きを見せる。
おっさんの指示によって出陣した部隊に次々に対抗部隊を繰り出してくる。
兵力的には互角、勝負は時の運か。
今のところ先鋒のアチソンはいつもの単騎駆けではなく火縄銃を上手く使いながら敵をいなしている。火魔術に対して慎重になっているのだろう。
その他の軍勢も互角の戦いを見せているし、ドーガもガイナスもまだ【
おっさんは戦いの趨勢を見極めるべくボードをじっと見つめていた。
※※※
ホーセン・アチソン男爵は一騎当千の荒武者であったが、意外と思慮深いところもある武将である。いつもなら1人ででも突撃をしかねないが、今回はおっさんの言いつけを守って慎重に戦っていた。
「鉄砲隊前へ。撃てッ!」
ダダーン!!と音が反響しアルタイナ兵がバタバタと倒れ伏す。
「魔術がくるぞッ着弾点を見極めろッ」
アルタイナ軍は前衛に剣士を、後衛に魔術師を配置して巧みに攻めてきている。
魔術師だけを狙い撃ちするのは難しいだろう。
「小賢しいアルタイナ兵がッ」
アチソンも鉄砲斉射とアドによる騎兵突撃を間断なく繰り返し敵の
※※※
一方のドーガはアチソン男爵の戦いぶりを見て感心していた。
「おー慎重に戦えるんじゃねぇか。これも閣下の【
聞こえないのをいいことにドーガはアチソン男爵を評価する。
どっちが偉いかと言えばアチソン男爵なのだが、そこら辺は聞こえていないなら良いの精神である。
ちなみに【
「でもなー俺は一気に行くべきだと思うんだよ」
ドーガが槍を突いてきたアルタイナ兵を地獄に落としながら言う。
アチソン男爵が慎重なのは敵に魔術師がいるからだ。
しかし、ドーガの知る限り魔術師を大軍で運用している国は少ない。
魔術師は数自体がそれほどいる訳ではないのだ。
魔法使いとなれば更に稀少な存在だ。
「おらッ一気に勝負を付けるぞ! 全軍突撃ッ!」
ドーガは左翼で戦っている貴族を回り込んで敵右翼の脇腹に突撃をかける。
「野郎共ッとっとと敵を倒すんだよぉぉぉぉぉ!」
身もふたもなく言い放ったドーガの騎兵突撃にアルタイナ軍右翼が怯む。
「俺に続けッ! 突き進めぇ!」
ドーガの大音声にアルタイナ兵たちはまるで化物を見るかのように霧散していった。ドーガを先頭に兵が割れる。
「鬼神だぁぁぁ鬼神が出たぞぉぉぉ!」
「ちくしょう。何だあのでけぇのは!」
「やめッ……殺さないでくれぇえぐえぐ」
そんな様子を右翼で見ていたのはガイナスだ。
左翼の将の声が右翼にまで届くほどの大音声を放つドーガにガイナスは思わず引いていた。
「何だあいつ性格変わったんじゃねぇの……?」
どうしたんだよあいつと思いつつガイナスは得物の
ガイナスもドーガと同じで【
2人とも【
指揮官が豪傑なら配下の兵士たちも力が湧いてくると言うものだ。
※※※
ジリジリとした時間が過ぎていく。
おっさんは状況をじっと見つめていた。
左翼がアルタイナ軍を押しまくっている。
おっさんは念のため【
中央はアチソン男爵の突撃で今や乱戦状態だ。これでは魔術師も使い物にならないだろう。右翼は一進一退の攻防を繰り広げていたが、アルタイナ兵がジリジリと下がっているように見える。
「敵が崩れそうだな。後詰は前へ。片を付けるぞッ!」
おっさんの決断にしたがって後詰として兵士たちが前進する。
そしてリョクコウ川に差し掛かった時、誰とも知れぬ大音声が響いた。
「鉄砲水だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
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