第122話
午後からの握手会が終わり、店の方々と軽いお茶をしながら談笑し、店を後にした。
何度もまたやって下さいね、と言われこれまた当然、悪い気はしないが、
私のおかげで、大成功だ!
とドヤ顔の叔父様が目の前で動くから、何だか癪で、機会がありましたら、とすげなく答えた。
その返答に、やっぱりお前はそう答えるだろう、という得意顔をする叔父様に悔しくなったが、
まあ、またやってもいいかな、
と思った。
本当に素直に楽しかった。
純粋に何かを好きな気持ちは、見ている方も幸せな気分にさせてくれる。
その後、叔父様曰く、お勧め居酒屋という胡散臭い店に連れて行かされ、呆気に取られた。
「ここ?本当に店なの?人がいるの?食べれるの出てくるの?お化けとか出てこないの?」
私の言葉に、叔父様は、待ってました、と目を大きくした。
その顔をされるのは分かってはいたが、不安になる店構えで、聞いてしまった。
だって暖簾はボロボロで、昔は字がかいてあったのだようが、今は日に焼けて何だが薄く見えるだけ。
扉はどうも建付けが悪いのか、建物が斜めになっているのか、隙間が見えるし、ガラスは汚れだらけで、色んな角度から見て、どうにか店の中を見える場所が数箇所あるだけ。
その上、両隣の店は背が高い建物で明らかに日当たりが悪い。
「何だその言い方は!これほどまで可愛く愛おしいと思っている姪っ子の為に、吟味し、吟味した、チョーお勧め店だ!」
「ちよっと!声大きすぎ!」
どうだと言わんばかりに大袈裟に両腕を広げ、店をアピールしてきた。
「先生!ここは、あの、ヒヨコの店、ですね!」
クルリの声に、カレンがハットした。
「本当だ!第2部で出てきた、隠れ基地的な店だわ!」
「そのとぉーり!偶然ビビが助けた浮浪者が、実は闇の暗躍者として名を馳せた男。その男が営んでいる店、ヒヨコの店のイメージとなったのがここだである!この店で、皆が集まり様々な事件を解決する為の集合場所となるのだ!!」
「おお !!私達、集合してるよ!!」カレン
「おお!!集合してますね!!ね、お嬢様!!」
騒ぐのが3人増え、周りからチラチラと見られたから、ため息しか出なかった。
その浮浪者、誰をイメージしているのかすぐわかったわ。
お・じ・さ・ま、なのよ!!
「はぁ・・・もういいわ。分かったわよ。とりあえず入りましょうよ」
これ以上話しをすると、疲れるわ。
「そうですね。早く入りましょうよ。あの子達が待ってるわよ」
くすくすと楽しそうにラギュア様は言うと、軽やかに扉を開けた。
どうもこの様子では何度か来ている見たいね。
でも、あの子達、とは誰だろう。待ち合わせしているのだろうか。
「お父様、お母様、遅かったですね」
中へはいると可愛らしい男の子と女の子がたっていた。
穏やかな声で、男の子の方だ。
「おっそいよ!どうせお父様が無駄に時間かけてたんでしょ!?」
指さしながら女の子が元気に喋った。
お父様?お母様?
誰の事?
その答えは直ぐに分かった。
だって、その子供たちが叔父様とラギュア様の所へ走っていったんだもの。
「ど、どういう事!?」
「そういう事だよ。ほれ、お前たち挨拶しろ」
叔父様とラギュア様、そしてカンタラ殿下が並び、その前にその子供たちがたった。
「えーと、どうしたら良かった?」
「また忘れたの?あんたは男だからお腹の所と背中に腕を持ってくの」
「あ、そうか。初めましてオディール・ヴェールと言います。今年で、10歳です」
ぺこりとその男のは頭を下げた。
はい?ヴェール?
その名前は作家の名前で、叔父様の帝国での偽名だ。
「初めまして。セリーヌ・ヴェールと言います。8歳です」
ぺこりと女の子は頭を下げた。
はい?
「よく出来たなあ、お前達」
「本当?お父様の感想なんていらないわ。お母様とお義兄様が見てどうだった?」
セリーヌと名乗った女の子が、叔父様にあっかんべーしてラギュア様とカンタラ殿下を交互に見ながら不安そうに聞いた。
「どうだった?」
オディールと名乗った男の子も同じ事を、同じように不安そうに聞いた。
まって。
叔父様がお父様?
ラギュア様がお母様?
カンタラ殿下がお義兄様?
どういう事!?
「まだまだだよ。お母様がいつも言っているだろ?最後まで相手の顔を見なさい、と。ほら、2人は挨拶が終わったが、スティング様の挨拶は聞いていないだろ?」
カンタラ殿下の言葉に、
やっぱりカンタラ殿下がお義兄様なの!?
と呆然とした。
「本当だ、お義兄様!」
「本当だ、お義兄様!」
そういうと2人は私の前にあどけない顔で笑いながらやってきた。
「すみません、スティング様。まだ、2人は子供なので礼儀作法は許してあげて下さい」
「あ・・・の・・・」
カンタラ殿下が申し訳なさそうに謝罪するが、頭がついていかない。
「お姉ちゃん、スティーン、なんでしょ?」
オディールと名乗った男のが目をキラキラさせながら、私を見上げた。
「違うよ、ばーか。スティングだよ。スティーンはお父様の本の名前だよ」
同じく目を大きくさせ、セリーヌと名乗った女の子が少しオシャマな感じ見上げた。
「でも、お父様はいっつも、スティーン、と呼んでたよ。じゃあなんで?」
「それは、わかんないけど、でも!この人はスティングだよ。だってお母様とお義兄様が言ってたもん」
あどけない顔で言い争いなる2人を、叔父様とラギュア様、カンタラ殿下の愛おしい顔を見ていた。
「ま、待って!!こ、これはどういう事なの!?説明してよ、叔父様!!」
同然、私は声を張り上げた。
「お前なあ、この状況みて分かるだろ」
見た事もない、恥ずかしそうに顔を赤らめる叔父様が、ラギュア様に優しく微笑みながら、膝をつき腕を広げた。
その腕に当然のように子供達は、走り込み抱きしめられた。
「私達、本当の、夫婦となりましたの」
なんですって!?
ラギュア様が頬を染めながらも、淀みなく言う言葉に絶句した。
説明して、叔父様!
の、
私の剣幕に、とりあえず奥へ、といつ間にか背後にたっていた男性に声をかけられ、奥の部屋へと案内された。
奥の部屋、と言っても一部屋しかないし、カウンター席も2席しかない。
本当に狭くて、汚い店だ。
でも、チラチラと見ると、おかしな節ばかりが気になった。
まるで、わざと古く見せているかのように、灯りは薄暗く、柱などは暗い色を使っている。
だって、カビ臭さもないし、カウンターに置かれた椅子はとても滑らかで、座り心地が良さそうだった。灯り暗いせいで、わざとその様子を見せないようにしているみたいだった。
カウンターの奥が調理場になっているが、調味料が綺麗に並んでいる。
私も、料理に関しては詳しくはないが、お菓子作りをしながら思った。
料理に気持が込めれる人は、汚くしない。
奥の部屋へ案内されると、既に机の上に幾つかの料理が用意してあった。
「私、あそこに座る!」
「じゃあボクそこ!」
2人は無邪気な声を出し、左奥に子供用に準備されている料理の前に行き椅子に座った。
「手伝わなくてもいいからね」
「僕も」
「可愛い」
自分よりも高さのある椅子に、頑張って座る姿に、微笑ましくて自然に口に出た。
「だろ?ラギュアに似て可愛いし、素直なんだ」
はあ!?
今、何と言った?
なんなのそのデレデレの顔は!?
「おやおや、我が可愛い姪っ子は、素直な気持ちにはどこにいったんだ?。あんなにこころ優しい子供だったのに、いつの間にか荒んだ可哀想な女性に育ったんだなあ。いや、まてよ。昔から気が強くていつも殴りかかりそうな勢いがあったな」
「何言ってるのよ!叔父様からそんな普通の言葉が出たら、誰だって驚くわ。ねえ、クルリ!」
「はい、お嬢様。私も、結構びっくりしてます」
棒読みのクルリの言葉に、頷いた。
「けれど、訂正して下さい。お嬢様は昔と変わらず、素直で、気が強いですよ。いいえ、昔よりもより拍車がかかり、迫力も倍増されていますので、より!素直に顔に出るようになり、敵無しですよ」
今度は元気一杯にこやかに言い、どうだ、と言わんばかりに私を見てきた。
「そ・・そ、う?」
素直に褒めている感じに聞こえないのは、何故だろう。
「まあまあ、スティング深く考えないでよ。ともかく今のスティングは素敵だよ。それよりも、座ろうよ。あの子達食べずに待ってるよ」
カレンの言葉に、2人を見ると、ちょこんと座りちゃんと両手は膝の上で、背筋を伸ばしながら、ちらちらとまだぁ、とこっちと食事を交互に見ている。
「そうね。座りましょうか。ごめんね、お腹すいているよね」
「うん!」
「うん!」
「はい、でしょ?」
ラギュア様が優しく訂正する穏やかな姿に、何だか、とても胸が熱くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます