第121話

「どうしてそうなったの!?」

護衛が少し離れながらも、誰も私達の邪魔をしないよう動いた。

「あの後直ぐに何かを服用され、そのまま倒れたとの事です。顔色と様子から見て、毒物です。とりあえず医師の元へ運び所持を確認するよう頼みましが、助かる見込みはありません」

怖い事を平然というザンに、ゾッとした。

淡々とした言葉に感情は無い。

常にそういう状況にあり、それを目の当たりにしているのだ。

王太子と皇女の護衛であれば当然、か。

「コリュは?」

「長い接触を控え、簡単な説明をしました。自国へ直ぐに向かうとの事です」

「初めから殺すつもりだったのね」

「恐らく。公女様と王妃派に対する牽制と、脅しでしょう」

「でしょうね。あの話の感じでは本当に何も知らない様子だった。上手くやられたわ。こちらには何も情報が手に入らないのに、向こうには、2人が生きている事を知られ、もしかしたら他にも何か知りたかったのかもしれない。その上、ロール様は人質として捕まっている」

「良い仕掛けですね。この事が王妃派に知れ渡れば、公爵派に寝返る事は出来ない」

「王妃派、と言いながら本当の黒幕が動いている証拠だわ。王妃様にはそこまでの策はは無いわ。もとより、あの方も操られていた人形。ともかく、ラギュア様とカンタラ殿下は店内に出ていないから漏れていないでしょうが、実際どうなのは分からないわね」

知られれば最悪だ。

「いっそ、今晩帝国を発ちませんか?」

ザンの意志のこもった言葉に違和感を覚えた。

「どうしたの?これまで私のやる事に、感想は述べていたものの提案的等の口の挟みはしなかったのに、私に助言をするの?」

これまで深く口を挟まず、上辺だけの己の思いだけを言い、干渉しなかったザンがわざわざ、言ってきた。

すっと綺麗に背筋を伸ばすと、ビリビリするぐらいの初めて感じる緊迫した熱い瞳だ。

「皇后陛下よりの勅命でございます。ヴェンツェル公爵令嬢スティング様の助けになれ、と」

皇后が?

「皇帝陛下のお考えは?」

「側におられましたがその事については何も仰いませんでした。ただ、皇太子、皇女、と共に生きよ、と言われました」

生きよ。

その言葉が重くのしかかり、人間の奥に隠した真の感情が揺れ動くようだった。

分かっていて言っているのだ。

皇后に私の野望を話した瞬間から、皇帝に繋がっているのは、明白だ。

私の野望と言う渦に2人を投じた時点て、

渦は中央へと、

回っていく。

分かっていた。

何もしなくてもいいわ、と言いながら、

ほくそ笑んでいる己、

を。

罪人。

それは王妃様だけでない。

それは私でさえもある。

誰かを裁くとき、裁きを開く者も、また、罪人なのだ。

人が人を裁く権利等無いことを、人は本能で分かっている。

だが、その恐れの一線を超える程の

憎しみと、

悲しみと、

辛さと、

愛の、

全ての、

その身に背負う何かが起こる時、

人は、

罪人となる。

人の求める先は、

皆違う。

黒幕の誰かの行先は私の理解を超えた、想いがあってこそだ。

その想いは、その人、だけの神聖な、純粋な、願いだ。

「何故、私の護衛を頼まれたのかしら?」

「理由が必要でしょうか。私は両陛下の御心のままに動きます」

ザンにとって、理由など必要ない。命掛けた主君の想いが、己の命の理由だ。


貴方の存在は、貴方の思う程に帝国に、小さくはない


皇后陛下の言葉が鮮明に脳裏を蘇り、反芻する。

私の存在が帝国に、何を影響するのだろう。

フィーが私に好意を持っているから?

帝国に相応わしいか品定めの為の言葉、と言えばそれまでだ。

だが、それだけなら、私の国をも裏切る行動にザンを同行させる必要はない。

セクト王国からの怪しき馬車の積荷を調べてる為の捨て駒として使いたいのか。

まだ、その方が気は楽だ。

利用されるている方が、価値を見いだせる。

けれど、私個人としての品定めなら私は、2人を自国のクーデターに巻き込んだ犯罪者だ。

生きよ。

重たい、言葉だわ。

帝国に来てから落ち着く暇がない。

神殿にしてもそうだ。あの人の言葉。


人の世を混乱させる渦の中にいる。様々なものが貴女の周りで渦巻いている。近き事とすれば、子供に気をつけて下さい


あの人が誰なのかは分からないが、予言、だろう。

神殿の予言は曖昧だ。

だが、その曖昧な言葉が、外れはしない。

子供。

思い当たるのは貧民街のアベル達。

いいや子供は貧民街だけではなく、庶民も、貴族もいる。

私が巻き込んだのか、それとも、私がこれから混乱に巻き込まれるのか、どちらにしても不穏だ。

あ・・・れ・・・?

子供と言えば、レインが孤児院や教会に行くと言っていた。

物売りの籠についていた、リボンの色。

馬車の数。

ゾルディック公爵。

刹那、身体中が寒気と、稲妻のような衝撃とピースが、はまっていく。

「ザン。あなたが今晩経つのが最善だと思った理由を言いなさい」

「恐れながら敵は、先の女性が死亡したのか把握は出来ないものと思われます。たとえ致死量の薬を服薬したとしても、確実に死を確認した事を報告するのが義務となり、また、敵も曖昧な答えのまま先には動きません」

「つまり、死亡の確認をしないまま動くことは無い。もし、生きていれば私が何かしらの証拠をバニラ様から引き出す可能性がある、それを確認してから動くと言う事ね。でも、致死量を渡しているなら確認する必要は無いょう」

「その通りでしょうが、毒薬を服薬した直後にこちら側で保護していますので、より、把握は困難でしょう。それに、明日の試合を公女様が見逃すはずはないと思っている筈です」

「否定、しないわ。凄く、楽しみにしてるもの」

バニラ様のあの様子なら、もともと精神安定剤を飲んでいたのかもしれない。その薬をすり替えるか、もしくは、医師が、黒幕の息がかかっている人かもしれない。

「ザン、誰か怪しい人はいなかった?」

「遠くに何人かいましたが、諦めて離れていきました」

「分かった。あなたの案に乗るわ叔父様達との夕食後、経つわ。私も、確認したい事がある」

「ありがとうございます。では、商人風の馬車を準備致します。護衛には私がつきます。服も準備致します」

「お願い。じゃあ、戻りましょう、ザン」

「はい公女様」

中へ戻ると、楽しそうな声で盛り上がっていて、肩の緊張が抜けた。

「スティーン、このチョコ美味しいよ」

私の顔を見るなりカレンが、お皿に乗っているチョコを指さした。

「じゃあ食べるわ」

席に戻り私はカレンが教えてくれたチョコを食べ、不安で高鳴る気持ちを落ち着かせようとした。

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