第119話

「叔父様!」

「な、なんだ、どうした!?」

私の慌てふためく姿に驚き、叔父様だけでなく皆が私の周りに集まった。

「時間がないから後で説明するけど、このイベント、大きくしよう!私、ビビになりきって頑張るから、と・も・か・く、派手にして注目させて、人混みが出来るぐらいにしたいの!!」

そうじゃないと、コリュとバニラ様を外に出す事が出来ない。

「何だか分からんけど、やる気になってくれたんだな?」

「うん、やるわ!そうだ、フィー、カレン。さっき護衛の2人にバニラ様の護衛とコリュを国に返すように頼んだから、了承してね」

「ちょっとフィー、初めてスティーンから命令来たわよ!」

喜々した顔でフィーをすぐ様見た。

あえてどうしてスティーンと呼んでるのよ、とは聞かなかった。

ソワソワしながら私をチラチラ不安そうに見ながらも、私をその名で呼びたかった様子が可愛かった。

「そう、だな。スティングの言う通りに」

どん、とカレンに肘鉄を食らわされ、うっ、と言いながら何か思い出したようだ。

「スティーン、よ。さっきそう呼ぶ約束したでしょ?2人で呼ばないと、殺されるわ!」

どういう意味よ。

「そ、そうだった。ス、スティーンの言うようにするよ」

少し恥ずかしそうに言うフィーは言った。

「ありがとう。ねえ叔父様、店の外でも宣伝するように頼んで。人混みを出来るだけ増やして」

バニラ様の跡を付けている輩にラギュア様とカンタラ殿下の存在を悟られてはいけない。出来るだけもみくちゃになるくらいの人が集まって邪魔して、バニラ様をこっちに連れて帰らなきゃ行けない。

バニラ様からもう少し色々聞きたいし、たとえ何も知らないと言いながらもまだ何かは拾える筈だ。

些細な事でもいい。

色んな事を考えるのは後だ。

本っ当に、貴族の子供って甘ちゃんに育ってるから考え無しだわ!

こっちの迷惑考えなさいよね!

まあ、テスターの事を教えてくれたのは、褒めてあげるわ。

「よし、では、行こうか」

「行くわ!」

「そうだ言い忘れていたが、11時のサイン会が終わったあと、ここの従業員と和やかに昼食を取り」

はい?

忘れていたわ、と微塵も申し訳なさが感じない困った顔で、叔父様はおかしな事を言い出した。

「2時から4時まで第2弾のサイン会だからな」

はい?

「全部終わったら私御用達の店で、打ち上げた!」

「聞いてないわよ!」

「今言った」

「確かに」フィー

「確かに」カレン

「スティング様には意地悪ですね」

カンタラ殿下、皆、感心しないでよ。

「まあ、いいわ。今回は叔父様の盛り上げ方の方が上手く行きそうだもの。好きにしてよ」

「おお!やっと私のノリが分かってきたか!」

「違うわよ!今回は、だけよ!」

「本当に真面目なヤツだなお前はさあ」

「性格は変わらないわよ。早く行くわよ」

「そうだな。少し遅れているしな。では、行きますか」

バタン、と大袈裟な程に大きく扉を叔父様は開け前にでた。


途端に黄色い声が店内に響き、目を見開いた。

「ビビよ!」

「本当に来た!」

「本当にいたんだ!!」

こ、怖い・・・。

「はいはい、皆、落ち着いてくれ。番号札貰ってるんだろ?その通りに並んでくれよ。ほらあ、警備の人達に迷惑かけんなよ」

慣れた言い方で叔父様がヘラヘラと笑いながら手を振ると、また、黄色い声が上がった。

お客の多さも驚いたが、叔父様のあの本がこんなに人気があるんだ、とそっちの方に驚いた。

確かに本屋では全面に出されてはいたが、私の中では、丁度置く本が無かったからよ、クルリとカレンが好きな本、という程度くらいだった。

「ほら、スティーンお前はそこに立って握手してくれよ」

「う、うん」

指差す方向を見ると、確かに準備が、完璧にしてあった。

何これ・・・。

テーブルと椅子が用意してあり、天井から3枚の垂れ幕がしてあり、少し離してロープが張られていた。

そのロープの前に店が頼んだ警護の人達がいるのだけれど、その周りに物凄い人が集まり声を出しているのだ。

でも、叔父様の言う通り番号札を手に持ちちゃんと並び出した。

「叔父様、これ何」

垂れ幕を指さし、ぎっ、と睨んだ。

「どうだ、わかり易いだろ?誰が見てもスティーンの事だ。これを新聞とあと色んな広告媒体にも載せてもらっんだ。お前を探してるヤツらが探しやすいようにしてやったんだ」

「書きすぎよ!」

1枚目の垂れ幕には、

ビビは、

セクト王国公爵令嬢、スティング・ヴェンツェル様から生まれた!

いや、勝手に作っただけでしょ。性格は全く似てないし。

2枚目の垂れ幕には、

スティング・ヴェンツェル様は、なんとセクト王国王子様の婚約者!

それも【謎解きは私達にまかせなさい】の筆者スティーン・ヴェールの姪で、庶民的。

確かにまだ婚約はしている。

それに、いつから庶民的になったのよ。今はそうかもしれないけど、勝手な事ばっかり書いて。

3枚目の垂れ幕には、

貴族中の貴族、スティング・ヴェンツェル様と、

今日限りの握手会開催です!!

はあ。

確かに今日限りだけど、ここまで詳しく書く?

「スティング様、申し訳ありませんが、こちらにお願いします」

呆れながら垂れ幕を見ていると、店員が慌てながら私に声をかけてきた。

「あ、はい」

言われるままついて行き、叔父様の横に立った。

「これから【謎解きは私達にまかせなさい】の筆者スティーン・ヴェール様とスティング・ヴェンツェル様によるサイン会、握手会を始めます。皆様、順にお入りください!」

「スティーン、頭下げろ」

「う、うん」

店員さんの説明が終わると、隣にたっている叔父様の指示通り頭を下げた。

そこからサイン会と握手会が始まった。


叔父様は椅子に座り、買った本にサインし、握手。

私は横に立ち、その後に握手、という流れだ。

叔父様の策略通り、ハンカチ付きの新刊が、それもたかがハンカチがついているだけなのに、定価の5倍!

ぼったくりよ。

今回のようにサインが貰えるならともかく、普段の時に買うには高いわよ。

叔父様は昔からお金に細かい。本当なら当主に相応しかったのに、と良くお母様が寂しく愚痴をこぼしていた。

でも、こうやって生き生きとした顔と行動、そして小説を買ってくれる皆を見ていると、これが天性なのだろうな、と思う。

貴族というしがらみの中からは、きっとこの本は生まれなかった。

家を出る時、さして金銭は持たずに出たと聞いている。口では、悠々自適の生活、と言っているけど、本当はここまで来るのに苦労があったのだろう。

まあ、あの性格だから上手く周りに馴染み暮らしたんだろうが、そんな素振りを見せたことはない。

それは、お2人を預けた時も、その後も変わらなかった。

本当に羨ましいわ、叔父様。

次々と握手を求められ、何人かチャリティーに来てましたよね、と嬉しそうに声をかけて下さる方がいて、私も楽しかった。

そうして・・・。

「握手して下さい!」

「・・・何でカレンが並んでるの?」

「本買ったからに決まってるじゃん」

いや、そうじゃない。

「握手して下さい!」

普通に脇に本を抱え、満面の笑顔で両手を出してくる。

いや、だから。

「何で並んでるの?」

「だから、サインして欲しいしからちゃんと買ったんだよ。それも20冊も!本当は全部買い占めたかったんだけど、さすがにそれはやめておけ、とフィーに止められたの」

当たり前でしょ。20冊でも、買いすぎよ。

「握手して欲しいんだってば。ほら早く」

拗ねたように首を傾げるカレンに答えるしか無かった。

「・・・分かったわ」

「ちょっと笑ってよ。さっきの子の時には可愛らしく笑ってたじゃん」

なんでよ?と駄々こねるように言われ、確かにと思った。

相手はカレンに違いはないが、本を買ってくれた大事なお客様だ。

「ありがとうございます。私のイメージピッタリのハンカチなんです。このハンカチを持っていれば、どんな事件を解決しますよ」

にっこり微笑んで握手したら、頬を染め、うわあ、と喜んでくれた。

「はい!私も邪魔せず頑張ります!」

握手した手を見つめながら去っていった。

何だか、モヤッとする。

私も頑張る?邪魔せず?

どういう意味??

「握手して下さい!」

この声。

「・・・何でクルリも並んでいるの?」

また、脇に本を抱え目を真ん丸にし、上から下まで何度も確認している。

「本物のビビだ!その服似合ってますね!」

あなたが作った服を着ているだけですけど。

「・・・」

「握手して下さい!」

カレンと同じように目をキラキラさせ、私を見ている。

なんだかなあ、と思いながらも、笑った。

「勿論です。私の活躍を見逃さないで下さいね」

「はい!いつだって側にいて見ています!」

頬を染め、元気よく答えると去っていった。

また、モヤッとした。

何を見るの?

どういう意味??

「あ、握手しして下さい」

・・・この声。

はあ、とため息がでて、ついでに苦笑いも出た。

「何で、フィーまで並んでるの。その本には興味ないんじゃないの?」

「そうなんだけど、握手出来るなら買うだろ?」

何だか、普通に対応してくれてほっとした。

「握手しなくても、何かと手を繋ぐ事はあるでしょ?ダンスの時とか、その・・・2人の時とか・・・」

言いながら恥ずかしくなって、誤魔化すような手を出した。

「そうだけど、握手、は普通はしないだろ。友達とか、恋人とか、は」

フィーの声がだんだん小さくなる。

恋人。

その言葉に胸がときめいた。

「そう、だね」

ギュッと、手を握ってきた。

「カレンやクルリみたいに俺にも何か言ってくれないか?」

こそばゆいくらいの、はにかんだ顔に、目が離せなくて、握った手に力が入った。

「私は、信じた人は裏切らない。だから、私を裏切る時は覚悟しとくのね」

「勿論だ。恐ろしいからな!」

ん?

フィーのたったその言葉が何だかとても重く、真剣に聞こえ、また

モヤッとした。

どういう意味?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る