第118話帝国へ(叔父様達6)
扉を開ける前から、帝国の護衛が私を周りを護り店内へと入った。背が高いのと、服装も私服を着ているお陰で、私の存在を知られること無く静かに入る事が出来た。
少しして、クルリと1人の女性がやってきた。
確かに、ロール様に姉君だのすぐにわかった。
だって、四角い顔だもの、間違いない。
確か4つ年上のはずだったと思う。何度かパーティーや夜会でお会いした事はあるが社交的な挨拶したくらいで、ロール様と同じでいつも偉そうな態度だったのは覚えている。
それに、いつもお2人とも質のいい服を着ていたのに、今日のバニラ様の出で立ちに、目を疑うものがあった。
軽い化粧と、汚れてはいないが服の所々にしわがより、髪型も、結う事もなく、ただ櫛でといただけ。
まるで召使いを誰もいず、ご自分で準備されたかのようだった。
「ごきげんよう、バニラ・ホッリュウ様」
「ご、ごきげんよう、ヴェンツェル公爵令嬢。それとも、公女様、とお呼びした方が宜しいですか?」
声が震え、必死に絞り出していた。
白い肌が今はとても青く、頭を下げ上げたが、顔を伏せ目を合わせようとしなかった。
「では、公女、とお呼びください。私をお探しなのでしょう」
ビクリと私が驚く程に体を大きく震えさせ、顔を上げ、やっと私を見たが、さらに縮こまるように顔を歪ませ、警戒するように周りを見た。
おかしい。
私の跡を付けて、私の様子やクルリやリュエーナイトの生存確認をし、報告するのなら、ここまで怯える必要は無いだろう。
逆に、得意そうにする筈だ。
それなのに、まるで物乞いでもするかのような縋るような必死な思いが伝わる瞳をしている。
「仰る通りです。その・・・お願いがあり参りました!」
「お願い?」
ますますおかしい。
この状況下で考えらるのは、私の尾行の為わざわざここまでやってきた、という事しかない。
ホッリュウ伯爵様が、こちら側につくといいながら、結局は王妃派を選んだ。それならば私の行動と、クルリとリューナイトが噂通りこちらにいるかを確認したい筈だ。
そうして、どうやって2人を連れ去ったかを知りたいだろう。
それなのに、助け?
何を言っているんだ?私が助けて欲しくらいだ。
「仰っている意味が分かりません。私は、貴女方を邪魔だてする立場にいるのに、何故私に助けを求めるのですか?白旗でも挙げろ、とでも言いたいのですか?」
「違います!お願いします公女様、妹を・・・ロールを助けて下さい!」
追い詰められた必死な顔で私の腕を掴かんできた。
「何を仰っているのか分かりません。ロール様は、そちら側の者であり、私にとっては敵と同じです」
冷たく言い放つと、より、強く掴み、涙を流し出した。
上手い演技だ。
誰かに言われたのだろう。
泣いて懇願すれば落ちる事はなくとも、少しでも懐に入れるだろう、と。
そうか。そういう意味でロール様を取られているのかもしれないわね。バニラ様には何も知らせずに、上手く言えば、演技ではなく、本当になる。
妹を助ける為に、私から何かをひき出せ、か。
よくある話しね。
「お願い・・・致します・・・ロールは、私達は、間違っておりました。甘い言葉に騙されていたのです」
「今更、ですわ。貴女方はお茶会のあと、ドラジェウム侯爵様に助けを求め走ったのでしょう?」
はっ、と顔を上げた。
「そ、それは・・・お父様が、全てお父様がした事です。私達には、拒否などできません・・・。逆らえば支援が切られると、と言われればどうする事もできません・・・」
泣き出すバニラ様に、嫌気してきた。
確かに、当主の言葉に逆らう事は出来ない。
ましてや、また、金。
金が絡めば、そこにお家存亡がかかり、気迫も何大抵では無いだろうが、いかんせん、ホッリュウ伯爵様とロール様の嫌がらせはそんなものではなかった。
本気で、私に嫌がらせをしてたもの。
それは置いておいて、ともかく、クルリを見せたからもう用はない筈だ。
こんな苛つく茶番いつまでも見たくない。
私の気持ちを察したのか、声を出してきた。
「公女様、お願いします。お父様が何をしているのか本当に、分かりません!ですが、ロールを連れて行き、何処に連れて行ったのか教えてくれないのです!お願いします、公女様!ロールを探してください!」
「ホッリュウ伯爵様が何をしているかなど、誰も知らないでしょう。それに、子であるロール様をぞんざい扱う訳ないでしょう」
当たり前の事を言わないで。
自分がやっている悪事をベラベラと喋ったらとっくに捨てられているわ。
掴んでいた腕を引き離さそうとすると、首を振り泣きながら膝をついた。
「お願いします・・・。私、1人でここに来たのです。あの家で頼れる者など・・・いないのです」
その弱々しい声で懇願する言葉に、私の眉が上がった。
「1人で、来た?召使い達は?」
貴族令嬢には絶対有り得ない。
でも、この格好からはしっくりきた。
「い、いません。屋敷をこっそり抜けて、1人で来ました」
「何故!?」
私の問いにバニラ様は、今度は表情が一気にこわばり、掴む腕が緩んだ。
「お父様がいつの頃か、外で誰かと会うようになりました。お母様も私達も、家の誰もがもう、王妃様にも公爵様にも手を出すのを辞めるように言っていましたのに、お父様は、これが上手く行けば金も地位も手に入ると言って聞きませんでした。その上、5日前からロールを連れて出ていき、それっきりなのです!」
身体を震わせながらも、声を出す姿は、心の悲鳴を感じた。
本当にこれは演技なの?
演技ではなく、本当に起こっている事なの?
「ロール様はまだ、帰ってきてないの?」
「お母様がどうにか聞き出たのですが、おかしいのです!」
「おかしい?」
「公女様が帰ってこなければ、返してもらえる。その時、金も地位も貰える、と。そう言ったそうです!」
懇願に満ちた瞳を私にむけ、また、泣き出した。
ぞっとした。
演技では無い。
これは、現実だ。
それも、私が帰ってこなければ、返してもらえる?
それはロール様が誰かの手に渡されていると言う意味だ。
それは、私がこの世に居ないと言う意味だ。
でも、人質してはロール様では役不足だ。正直、ロール様がどうなろうと、いや、捨て駒だったホッリュウ伯爵家がどうなろうと大した事ない筈だ。
それでも、ロールを様を必要とした?
何故?
「お願いします!ロールを、私達を助けて下さい!・・・私、私、見たのです」
「み、た?何を?」
「お父様が・・・夜遅くにこっそりと、会っていた方」
「誰を?」
「あ、あれは間違いなく、テスター様です!」
その名前が、脳裏に稲妻のように突き刺さった。
テスター。
公爵派であり、宰相補佐。
そうして、ゾルディック公爵様の手駒だわ。
一気に霞が広がる清々たる気持ちと、湧き上がる怒りに身体が震える。
「間違いは、ないの?」
「遠く、姿は良く見えませんでしたが、空気の澄んだ夜だった為、よく聞こえました。間違いありません。・・・お願いします、公女様。ロールを、私達をお助け下さい!お母様も私もまるで屋敷に監禁されるかのように外出禁止になりました。私・・・そこをかいくぐり出てきたのです」
泣くバニラ様に、一気に憤り感じた。
「愚かな事をしたわね!その格好のまま、よく一人でここまで来れたのが不思議に思わなかった!?」
なんて事をしてくれたの!
「え?そ、それはどういう意味で?」
私の言い方が急に変わったのに驚いた。
全く分かってないわ!
「貴族令嬢だと分かるその姿で1人でいたら、必ず賊に襲われるのに、それがなかった。つまり、貴方はつけられているのよ!その意味がわかる?貴方の勝手な行動がホッリュウ伯爵様が裏切ったと見なされ、ロール様をより危険に晒したのよ!」
上手く囮にされた、典型的な愚かな行動だわ。
「私と会っているこの今を、報告されるわ!何故、直接来たの!それならばヴェンツェル公爵家に逃げ込まえば良かったわ!」
バカだわ!
「バニラ様が屋敷から居なくなったのは、直ぐに報告される。分かる?ロール様は・・・生きていないかもしれない。あなたが、引き金をひいたかもしれないのよ」
ひっ、と小さな悲鳴と共に、ずるりと私の腕から手が離れ蹲った。
これは誰かに言わされたのでも、指示でもなく、ただ、ただ、妹を心配する思いでの行動だ。
でも、浅はか過ぎる。
後先の事を冷静に考えれば、やっては行けない事なのだ。
「誰か」
「はい」
護衛の1人が前に出た。
「この方を騒ぎに乗じて安全な場所に動かして。外で見張っている誰かを突き止め跡をつけて。それと、もう1人」
「はい」
また、1人前に出た。
「クルリにコリュの風貌を聞いて接触して。直ぐに国に戻りなさい、ゾルディック公爵様が裏切り者だ、と伝えて」
「御意」
「御意」
2人の無表情の答えを真っ直ぐに受け止め、私は叔父様達の元へ戻った。
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