第117話帝国へ(叔父様達5)
「よし、我々の説明は終わりだな!さあ、行くぞ!」
ニヤリと笑いながら立ち上がる叔父様を見て、不安になるのは当然の心理だ。
「説明は終わったけど、これからの事を、ちょっと!何!?何処に連れていく気よ!」
叔父様は立ち上がると私のところにやって来ると腕を掴み、入口へと引っ張った。
「だからさあ、説明は終わり、といっただろ?時間がないんだから早くしような」
「時間が無いわけないでしょ!今はまだ10時だし!!」
わざわざ会う時間を朝の9時にした。
叔父様との話が長引いてもお昼にまではには終わるだろうから、お昼まで皆でゆっくりとこの本屋を堪能し、その後は昼食を兼ねがら、お互い報告しながらこれからを決める、という流れの筈だった。
「何言ってんだ?サイン会と握手会は11時から始まるんだ」
はい?
サイン会?
握手会?
その至極同然とばかりに言う姿に目眩がした。
「わざわざこの格好してきてくれたんだろ?」
「違うわ。クルリとカレンの希望だったからよ。叔父様の為じゃないわ!」
「だが、2人の希望だったんだろ?だったら、カレン様にクルリ!これからスティングの晴れ舞台だ!」
はあ!?
「【謎解きは私達にまかせなさい⠀】の筆者であるこの私」
やっぱり曝露してきた!
やっぱり本屋をやめれば良かった!!
「ちょっと叔父様、やめてよ!!」
「スティーン・ヴェールと」
「その名前やめて、と何度も頼んだわ!だって、私の名前から無理やり作ったと知ってるわ!!」
「え!?そうなの!?」
「そうなんですか、お嬢様!?」
「さあ、ビビのモデルとなった、スティング・ヴェンツェルのサイン会と握手会の始まりだ!」
「聞いてないわよ!」
「言ってない。当たり前だろ?言ったらお前は頷くわけないだろ」
やりました、と言わんばかりの悪戯っぽく笑う顔に、腹がたった。
「ふざけないでよ!何を勝手に」
「ちょっと、スティング、どういう事!?あ、あの小説の筆者が、まさか、まさか!」
「お、お嬢様!?」
「待ってよ、クルリ、カレン!」
驚く2人がとても生き生きとして顔で、私の言葉を思いっきり遮り、食いてきた。
「その通りだ!可愛いスティングの叔父様である、この私が筆者なのだ!さあ、今日発売の新刊に特別に、リオンとビビが使用した、ハンカチがついているんだ。欲しくないか?」
「使用してないでしょ!どうせ儲けるためにつけたんでしょ!!」
「欲しい!リオンとビビか使ったなんて私も使いたい!」
「私もです!!」
「購入した人だけの特典!私のサインを書き、ビビの握手つきだ!」
「だから、私許可してないし、使ってないってば!!なんで握手会するのよ!!」
だから、あの店員の人達が準備とか言っていたんだ。
「買う!」
「私も買います!」
「いや、だから・・・なんでよ!」
「では、行くぞ可愛い姪っ子よ」
「ちょっと、叔父様!?本気なの!?」
「私がこんな冗談を言うか?」
腕を引きながら、ケラケラ楽しそうに言う言葉に言葉が出ず、反論出来なかった。
やる。
この人は、こういう人の驚く事が大好きだし、私を引っ張り回す事が大好きだもの。
だから、お母様によく怒られていたのよ!
部屋を出ると、店員の方が帝国の護衛に怯えながらも、こちらです、と意気揚々と案内してくれる。
腹が立ったのは部屋を出た少しだけだった。直ぐに叔父様に男が何かを伝えにきた。
誰かは分からないが、ラギュア様のソウルバ侯爵家か叔父様のバゼル侯爵家のどちらかの、者だ。
叔父様は楽しそうに笑いながはも、目は鋭かった。
「引っかかったぞ、スティーン」
「その呼び方やめて、叔父様の名前でしょ!」
「やめると思うか?」
もう!その意地悪な顔やめてよ!!私の答えを知ってて、ほらいいやがった、というのが分かるから嫌なのよ!!
「まあまあ、怒んなよ」
「先生、こちらから登場してください。あと15分後でお願いしますね」
案内してくれた店員さんがある扉の前で止まると、そう言った。
「了解。悪ぃけどさ、従業員は少し離れてくれるかな。スティーンを警護してるこいつらがピリピリしてるからさ」
「そう、ですね。スティング様は上級貴族の中の上級貴族、公爵令嬢様ですからね」
崇めるような顔で言ってくるが、複雑だった。
いや、私よりも後ろにいるフィーとカレンの方が私より上級だから。
けど、そんな事言ったら大騒ぎになるし、ラギュア様やカンタラ殿下も見つかってしまう。
「そういう事。10分経ったら入るから心配せず、離れておいてくれよ」
「はい、先生」
気持ちのいい元気な声でその人は去って行くのを確認して、叔父様を見た。
「それで、何が引っかかっの?」
「店内に怪しい若い男と女がいるみたいだ。男の方はオドオドしていて、明らかに場違いの雰囲気のようだ」
ピンと来た。
「若い男は、多分テレリレ子爵家のコリュよ。別行動するように言ってあるけど、そんな直ぐにバレるようじゃあまだまだね」
苦笑いがでた。
何となくコリュの行動が分かるようなきがする。知らない場所で、それも人が沢山いる中なんて、落ち着かない。田舎からでてきたおのぼりさん、というだけでも目立つのに、多分何か掴もうと必死な分だけ、怪しげな行動に見られているのだろうな。
「テレリレ子爵?お前に楯突ついて失敗したせいで、爵位返上するあそこか?」
「よく知ってるね。お母様のに聞いたの?」
「いいや、義兄に聞いた。定期的に文のやり取りはしているからな」
「今は私の手駒として動いてもらってる」
「ふうん。まあ。その話は後で聞くとして、それじゃあ女の方は心当たりはないのか」
「ないわ。若い、か。それならコリュかクルリが見たら分かるでしょうね。クルリ、見てきてくれる?」
「いいですけど、私が生きてこちら側にいること、バレちゃいますよ」
不安そうに見るクルリに、得意げに笑って上げた。
「それでいいわ。2人がこちら側で救出したという噂が本当だった、とその若い女が誰だか知らないけれど報告してくれるわ。悔しがればいいのよ。そうして、黒幕を引きずり出してやる」
「理想通りに戻ったな、スティーン。いやあ、可愛らしい中に腹黒さはあったからな。うんうん。私の、スティーンだ」
「だから、その名前で呼ばないでよ!それに、私はそんな性格じゃないわ!」
「確か戻りました。あのくそ王子の登場で卑屈になられましたが、いい意味で磨きがかかりましたよ」
クルリ、どういう意味よ。
「では、私、見てきますね」
「ちょっと、今の話どういう事?それに、大きな声でくそ殿下とか」
私の言葉に全く聞く耳を持たずクルリは、隣の扉から店内へ意気揚々も入って行った。
「まあまあ、ともかくスティーンが本来のスティーンに戻った、という事さ」
「だから、腹黒でも、性格も悪くないし、その呼び方やめてよ。それよりも、引っかかった、という事はわざわざ私の名前を出して餌にしたわね」
私達の跡を誰かは付けているとは思っているけれど、帝国の宮殿に入ってしまえば、行動を把握するのは難しい。宮殿の周りはかなりの範囲を帝国騎士団と兵士達で護衛されているから、下手に動けば自分の身も、そして黒幕も危なくなる。
「大大的に今回のイベントは載せて、こっちに気を引かせたのね」
「当たり前だろ。こっちにはラギュアとカンタラが居るんだ。ただでさえ、帝国の首都に出ることは控え、田舎暮らしをしている。お前使った方が大きな騒ぎを起こせるし、動きやすいし、向こうもスティーンを探しやすいだろ?」
本当に抜かりないわ。
だから、その得意顔がムカつくのよ。
「それは分かるけど、私を使わないでよ。叔父様の名前だけでも十分でしょ」
「さすがスティングの叔父様!罠を仕掛けてなんて凄いです!やっぱりミステリー作家は色んな事考えるんですね!」
「・・・」
カレンが羨望の眼差しで叔父様を見ながら言った。
ミステリー作家?ふん。本格派と言うにはまだまだよ。
「カレンまた後でゆっくり話をさせてあげるから、少し黙って!」
「あ・・・うん、わかった」
悲しそうな顔になりながら、そんな怖い顔しなくてもいいじゃない、とかぶつぶつ言いながらフィーの所に行ったら行ったで、
フィーが、
今機嫌悪いから余計な事言うなよ。後が怖いだろうが。あの目で睨まれたら俺達生きていけないだろう。
とか言ってるの!
「いい友達できたな」
叔父様がぐちゃと私の頭を撫でてきた。
「友達、か・・・。うん。いい友達だよ」
そう言えば、カレンから友達になろう、と声をかけてくれたんだ。私が殿下と一緒に帰る事を拒否されて落ち込んでいるところを喫茶店に引っ張ってくれた。
それが今こんな事になってしまって、巻き込んで申し訳ないけど、
でも、
友達、いい響きだ。
「世界最強の友達だな」
たまにはいい事言うわね。
「でしょう?でも、内緒なのよ。色々しがらみがある人達だからね」
「そうだろうな」
「それで?説明から行くと、フィーとカレンがここに来る事は言っていないのね。護衛は全て私の為、と言う事にしてるんでしょ?」
「ああ、わざわざスティーンの素性も説明したから、誰も疑わなかった。それも、そのくそ王子とまだ婚約解消してないから、御大層な対応してくれたわ。ここにいるヤツらは しがらみばかりの世界で生きてるヤツらばかりだから、気を遣うよ」
肩を竦める叔父様に笑った。
「よく言うわ。だったら、私にも少しら気を使ってよ」
「そうだなあ、これからお前に気を遣うことが多くなるなあ」
んん?
何か意味深な言い方に、首を傾げた。
「お嬢様、帰りました」
「ありがとう、クルリ。どうだった?」
「男性の方はやはりコリュ様でした。その、何故かメガネまでかけてて変な動きをしていて、確かに怪しい人でした!」
思い浮かべるだけでも頭痛い格好ね。
「・・・放っておいた?」
声掛けたら、犬みたいに走ってきそうだわ。
「勿論です。不安そうでしたから、私の顔みたら、絶対嬉しそうに声掛けてきそうでしたからね。遠くから見守るだけにしときました」
よく出来ました。
「それで女性の方は、ホッリュウ伯爵様のご息女、バニラ様です」
「ロール様の姉君ね。間違いないの?」
「間違いございません。私は2度お会いしたら覚えます。それと、どうもお付きの方もおられないような感じでした。もしおられたとしても近くではなく、離れた場所だと思います。とても不安そうにサイン会の場所近くでウロウロしていました」
「顔は見られた?」
「恐らく大丈夫です」
「分かったわ。叔父様、悪いけど少し遅れるわ」
「わざわざ行くのか?」
「行っても行かなくても、クルリとリューナイトが生きて、こちら側にいる事は直ぐにバレるわ。それよりも、バニラ様から何か零れ落ちるのを拾いたいわ」
「そんな簡単にボロ出すか?」
「さあね。そこは話をしてみないとわかんないわよ。でも、何も話さずに返せば、何一つ拾えないのは確かよ」
「確かにな。だが、その格好で行ったら騒がれるぞ。もう始まる時間だしな」
確かに。
「クルリ、さっき出入りした扉の所まで呼んでこいよ。お前の言うように1人で来ているなら連れてこい。だが、他の奴らがいるなら、1人で来るように頼め。誰かと来ているなら、こっちの護衛のヤツらに跡を付けさせる」
「お嬢様も、それで宜しいのですか?」
私に確認を求めてきた。
クルリにとって、命令は、私であり、ヴェンツェル侯爵家だから、当然だ。
「それでいいわ。店内で話しをするけど、叔父様ラギュア様とカンタラ殿下を見つからないようにしてよ」
「分かった」
「では、お嬢様行ってきます」
「お願いね、クルリ」
「私も行く!」
「俺も!」
「え!?皆行くのか?じゃあ私も!」
「ダメよ!カレンもフイーも、叔父様も大人しく待ってて!!」
私の声で、何故か周りが一気に顔色が悪くなり、1歩私から遠のいた。
「お前、より良くなったわ」
「何で震えながら言うのよ。ちょっと何で下がるのよ叔父様。ともかく私1人で行ってくるから邪魔しないでね」
「しない!」フィー
「しない!」カレン
「私も」叔父様。
よろしい。
では、行ってきます。
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