第111話帝国へ(帝国に到着18)

朝食が終わった後食堂を出て部屋に帰ると、ノワールとノワールの取り巻き部隊と言うべき先日の召使い達が、真っ青な顔で、深々と頭を下げてきた。

宮殿に来た時に、軽々しく従者の事を尋ねてきた時の謝罪だった。

惨状を聞いたのだろう。

でもね、正直今更、と思った。本当に、気配りや相手の言葉を重んじるなら、その日に謝罪があって当然なのに、1週間も経った上に、あのお茶会での私に対する対応は、その時から知っていた、と確信持ってる。

つまり、皇后陛下から何か言われたか、皇后陛下の態度を見て変えてきたのだ。

ノワールだけが頭を上げ、目が合った。

その瞳に現れた緊張感のない緩みに、腹が立った。

何となく、この気持ちは、今言うべきだと思ったら素直に言った。

「私が帝国に来て初日にその話はさせて頂きました。それを、今更、の謝罪でごいますか?帝国は本当に世界の頂きにあるものなのですね。私の時間とは、七日以上も異なる世界を生きておいでですのね。あらどうされました?顔色が優れないようですね。では、お帰り下さい。貴族に会う顔ではありませんし、今のその顔では礼儀もなっていません。しかし謝罪は、受け入れました。貴方は帝国のどこかの貴族でしょうから敵に回すのは得策ではありません」

一気に瞳の色が曇った。

「申し訳ございません。恐れ入りますが、公爵令嬢の神殿に向かう準備をするよう言われております」

頬ががひくりと引き攣り、私から目を背け綺麗とは言えないぎこちなく頭を下げた。

答えが、合っていない。

私の意思や気持ちは必要無く、そちらの意思、都合を優先されるのね。

ふうん。

そういう態度、できますか。

「それはまた、申し訳ございません。私にような小国の令嬢のお相手を、あなたにさせるなど、大変心苦しいですわ。ねえ、ノワール。あなたとても素晴らしい経歴をお持ちでしょうから、私には勿体ないわ。あなた以外の方で十分よ」

やんわりと言いながらノワールを拒絶していることを露わにしてやった。

貴族にある、言葉遊びだ。

泥色の顔色に変わった。

己の流れに掴めなかった、とやっと気づいたようね

あなた以外で十分。

【顔を見たくないから出ていけ】

素晴らしい経歴。

【褒め称えているのはなく、素晴らしい経歴を持っているにも関わらず、無駄な知恵と権力に胡坐をかいているだけ、無用の長物を持っているのですね。その経歴に携わった方も、その程度の方ばかりなのでしょうね】

ノワールは本当に重鎮の立場だろう。

この帝国の宮殿でこれだけ堂々と振る舞い、また立ち振る舞い、気品も、ずば抜けている。

そのノワールが関わっている方々に、皇族が存在するはずだ。

私はそこを突き、馬鹿にした。

あんたの背後にいる人は役立たずよ、とね。

「私が筆頭に、と申しつかっております」

そこまで言われれば、背中は向けれないでしょうね。

その、申し使いを受けた方、は誰なのでしょうね。

「その優れない顔色を見ていると、心配ですわ」

ふん。まともに顔見れないなら、出て行ってよ。

「ご心配には及びません。ご準備をお手伝いいたします」

すっと、顔を上げた。

確かに先ほどの私を見下していた色は消え、醸し出す空気が緊張に変わったが、変わらず顔色は悪い。

「そこまで仰るなら、お願いするわ」

冷笑と共に、威嚇するように見つめた瞬間、

「ありがとうございます」

逃げるようにすぐさま、頭を下げた。

体が震えたのがわかった。

途端に、一気に部屋の空気が変わり宮殿のメイド達が謝罪の言葉と共に、また、頭を下げてきた。

その中で、クルリとリューナイトが目をキラキラさせながらも無表情に立っていながらも、さや何度も私を見てくるところが何だか可愛かった。

心の動揺は、体に伝わる。

ノワールが頭を下げたこの姿から醸し出す雰囲気は、恐れだ。

私がすぐに折れず、言葉遊びをし、やっと折れた。

適当に謝って、たかが神殿へ赴く準備だ、と軽く来ただろうがそうは問屋が卸さないわよ。

頭が上がらない。

ノワール。やっと立場を、理解したわね。

たとえ産まれが大層な貴族だろうが、たとえ宮殿での立場が大層だろうが、あんたは今、私を任された召使の一人なのよ。

小国の貴族令嬢相手を馬鹿にしているのでしょうけど、任された時点で、私よりも格下なのよ。

断りもなく下げた頭を、上げる事は言語道断。

それは、あんたの思う大層な方の命令を否定しているのよ。

「よかったわ。やっと理解して下さったのね」

あえて言ってやった。

呼吸さえ聞こえない。

折り曲げた背中から震撼ともいうべき畏怖が溢れている。

頭をあげた時、もう私の目を合わせる勇気はないだろう。

私の許しが得られる迄、何時までも頭を下げ続けるだろう。

けれど、あの時の気持ちの中での私への言葉は、絶対に許したくない!

「私、どうしても聞きたいことがあるの。お茶会での貴方の行動と私への対応は、全てを知った上での接し方でしたよね。それなのに今更、でございますか?まさか私達が神殿のお告げを聞く前に、自分の懺悔をするおつもりですか?ともかく、私は謝罪を受けいれました。それで宜しいでしょう?これで貴方の体面は繕われて、満足でしょう!」

自分がとても凍えるような声で突き放しているのは分かっているが、容赦する気もなかったから、頭を上げる事を許す事をしなかった。

「申し訳ありません!」ノワール

「申し訳ありません!」メイド達。


とまあ、そんな事がありました。

暫く、ノワール達は頭を下げ、私はそれを睨む、と言う状態が続く中、丁度カレンがやってきた。

今日着ていく服に合う飾りを持ってきたのだけれど、部屋に入りるなり、瞳を大きく見開き、私をガン見すると、

フィー!!

と呼びながら去っていった。

そうして暫くして戻ってきたが、

当然フィーも一緒にいて、

当然ノワール達はまだ頭下げたままで、

それをフィーとカレンは真顔で、私とノワールを何度も見比べ、2人はコソコソと話し妙な納得の顔で笑うと静かに去っていった。

2人の顔をみて何だが、気持ちが落ちつくと、私の気持ちも柔らかくなったので、頭をあげなさい、と言って上げました。

やっとノワール達は頭を上げた。

とまあ、そんな事がありました。


「ねえ、何であんなに2人は喜んだの?」

フィーとカレンは明らかに珍しいものを見た顔で、喜んでいた。

「だってね、あのノワールだよ」

「そうだ。あのノワールが、頭下げてるんだぜ」

「いいもの見たわよ!」

「いいもの見せてもらっぜ!」

声揃えて言うフィーとカレンが、本当に楽しそうで、ザンとターニャは、微妙な顔で下を向いていた。

「ノワールはやっぱり凄い人なの?」

「私達の叔母にあたる方です」

ザンがため息をつきながら言った。

「え!?」

「そうよ。その上、お母様の身の回りをする1番のメイドだったし、前のメイド長だったもの。去年メイド長を降りて、特に役職ではないけど、それでも宮殿での立場は絶大よ」

「やっぱりね。そんな感じだったわ。違うと否定されたけど、周りのノワールに対する態度が全然違ったもの」

「凄い厳しくて、いつも俺達怒られてばっかりだったもんな。ちょっと廊下を走って花瓶を落としたくらいでさ」

「そうそう。たかだか、毎日1個割ったぐらいで大袈裟なんだよ。無表情で、冷静沈着で細かい事を注意されて、最後にさそれでも皇族ですか?と嫌味を言われため息ついてき、本当に性格悪いヤツだったわ!」

「言えるな。母上も言い返せない時があったからな。昔からいるから詳しくて当たり前だろ」

「陰険なのよ。人の粗探しみたいな感じでネチネチと言ってきてさあ。ちょっと、物を投げて窓割った時も、しつこくお説教したしさぁ。ほんとっ!クソババァよ」

確かにしつこそうな感じに見えたな。

「それがさあ、見た!?」カレン

「見た!!」フィー。

息ぴったりで顔を見合せた。

「頭下げてんの!」

「頭下げてたな!」

「それもあれは見たことも無いぐらいに怖がってたわ。あの後お母様に、泣きついてたんだってさ。あのノワールがだよ。傑作よ!」

「聞いた!それもノワールの奴、元々スティングの事馬鹿にしていたらしいんだ!」

「でしょうね。そんな態度だったわ」

「小国の貴族令嬢が、帝国の土を踏むなど立場を理解してません。よくよく言い聞かせねばなりませんね、と母上に釘を指してたらしいが、自分が釘されて清々したよ」

うん。やっぱり言い返して正解だったわね。

「それ、お母様に聞いたわ!あれだけ偉そうに担架切ってたの、泣きそうな顔してやってくるから、お母様も笑いをこらえるのに必死だったんだって」

皇后が?想像つかないけど、楽しそうなら良かったわ。

「ザン、ターニャ、今の悪口ノワールに言ってもいいわよ。でも、私達がお母様よりも、スティングとの架け橋をしてあげれるよの、とも言っておいてね。ふっふふふふふふ、楽しみだわ!今までやられた分きっちり返してあげるわ!!」

いや、カレン。

その、偉そうに言うのも、

その、偉そうに足を組むのも、

さっきの内容を聞くと、怒られても当然だと思うわ。

「俺も乗った!あんのクソババア大人しくしとけばいいんだ」

はああ、とため息をついたのは勿論、ターニャとザンだ。

フィーの珍しく意地悪な顔も素敵だけど、

この2人が宮殿にいると、

怒られる事しかしないような気がするな、

と思い、ノワールの性格の問題だけじゃなんだろうな、と思った。

「ともかく、ノワールの事はもう気にしないわ。私の面倒を見るように言われているようだけど、実際宮殿にいて一緒にいる時間は左程ないでしょ?」

「そうだけど、今度何がある時は先に呼んでね」

「いや、呼びに行けないから」

「俺も!」

「だから、呼びに行ってから、何かするなんてないからね」

「私もですよ!」

「だから、クルリ仲間に入らないの」

「私達も呼んでください!止めに入ります!」

「呼んで下さい!叔母上にから睨まれると面倒なのですからね

「だから、ターニャもザンも本気にしないでよ」

「では、私も」

静かにリューナイトが言った。

「だから!呼びに行くのはおかしいでしょ!リューナイトも仲間に入ってこないの」

「そう?」

「そうか?」

「あ、私呼びに来られなくても側に居ましたね。リューナイト様もいますよ」

「姉上、クルリ殿と御一緒に公女様の側にいて下さい。叔母上の機嫌が悪くなると、我々が皇太子様と皇女様に悪影響を及ぼした結果だとまた愚痴をいまれます」

「了解だ」

頭を抱える2人。

「では、私達がフィー様とカレン様を呼びに行きますね。ね、リューナイト様」

「はい」

「頼んだわ!」

「頼んだ!」

元気よく答えるカレンとフィーにため息しか出なかった。

はあ。

もう好きにして。


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