第110話帝国へ(帝国に到着17)

塔の神殿で挨拶をし軽くお茶をして恥ずかしいから、早々に立ち去ったが、いくら探してもさっきの人は分からなかった。

神官の姿は全て白装束で隠されている、と言っても過言では無いほど、見分けるのは難しい、というのもある。

それでも、あの雰囲気と、身長、声。

側によれば分かると思ったが、存外簡単じゃなかった。

かと言って、探し出す為に神官全員を呼び出す権限もなく、そこまで大袈裟にする必要性の説明も出来る訳もなく、早々に諦めた。

頭のいい神官だわ。誰にも聞かれないように2人きりの時を選んだ。それも、曖昧ではないあの物言いは、あれこそお告げだわ。

馬車に乗ると、光の塔を登っていた時の話をした。

でも、フィーもカレンも、そしてザンもターニャも怪訝な顔をするばかりで、分からない様子だった。

「そんな、はっきりとしたお告げなんて聞いたことが無い。今日みたいに曖昧なんだ」

足を組み静かにフィーは首を振った。

「そうそう。占い師の方がまだはっきり答えてくれるよ。これまでの教皇様も同じように曖昧なお告げしかしない。逆にあえてそうしているかもしれないね」

「恐らくそうでしょうね。教皇様の言葉は皇帝陛下と並ぶ程、権威があります。些細な一言で、帝国を含め世界を揺るがす事になりかりません」

ターニャの言葉に納得した。

言われみればそうだ。これで、貴方の地位が狙われてます、とか、

もうすぐ天災が起きます、とか言われたら、それに対して対処すれば良いと簡単に思うが、人の思惑は色々ある。

地位が狙われている、と言われたら、欺瞞に満ち、それこそ戦争になるかもしれない。

天災が起きます、と言われたら物資の取り合いになにり、それも戦争になるかもしれない。

そう考えると、曖昧に支障のないお告げの方が混乱を起こさない上に、曖昧さはある意味現実的に聞こえる。

皇妃様の言葉が脳裏に、また響く。


貴方の存在は、貴方の思う程に帝国に、小さくはない


そして先程の言葉。


子供に気をつけて下さい。


何を意味するのだろう。

「凄い人ですよねえ、教皇様は私は遠くからしか見えませんでしたけど、世界で選ばれた人なんですよね?でも、その教皇様じゃなくて他の人がそんな事を言うなんて、その人が次期教皇様とか?」

窓の外を見たながら興奮気味にクルリが言った。

「それよ!!」

「ど、どれですか、カレン様!?私が持っているこのお菓子はは渡しませんよ!!これは限定品なんですからね」

今なんて言った!?お菓子!?それも限定品!?

「違うわ!次の教皇候補かもしれないわよ。ねえ、スティング」

「お菓子の事も聞いてよ!!ちょっとクルリ、そのお菓子何処で買ったの!?ガイドブックに載ってた私が欲しいお菓子じゃない!」

「お嬢様達がお祈りをしている間に買いました。余分にもうひとつ買いましたから、差し上げますよ」

「本当に?」

「はい」

「嬉しい」

結局あまり買い物が出来なかった。

「そんなに欲しいなら後で買ってヴェンツェル公爵家に送ってあげるよ」

「いいの!?」

カレンの言葉に食いついた。

「別にいいよ」

「じゃあ他にも欲しいのがあってね」

そう言って私は急いでガイドブックを出して、コレとあれと、〇をつけている品物を言うと呆れ顔になってしまった。

結局覚えきれないから後で書いて渡して、と言われた。

「良かったな、スティング」

「うん」

やった。全部買ってもらおう♪

「さて、さっきの話しだけど次期教皇候補の事は皇族にも流布されない。どうやって決めるかは全て聖職者達の中で決まる。そこから、神官、そうして教皇が決まるんだ」

「お告げ、とは曖昧と言ったけど、実際何処まで本当に分かっているのかも、分からないのよ。本当はかなり予見が出来るのかもしれない。でも、そこを追求するのは禁忌とされている。ううん、暗黙の了解なのよ」

一言一言神妙に言葉を選びながら言うフィーとカレンに、気持ちが落ち着いた。

「そうね。さっきターニャが言ったように軽々しく言うものでは無いわ。私に告げたのは、次期教皇候補の誰かかもしれないわね。それも、私が1人の時にあえて言ったということは、個人的に教えてくれたのかもしれない」

「そうかもな。子供で思い当たるのは何かあるのか?」フィー

「思い当たる、と言うのに当たるのか分からないけど、思い出すのは七夕祭りで会ったアベル達くらいしかないの」

「同感ね。私もそれくらいしか思いつかない。つまり、あの貧民街の子供達に何かある、と言う事なんでしょうね」カレン

「考えたくないけど一番可能性があるでしょうね。私の周りでは既に色々渦巻いているわ。特に、的にとっては今回のヴェンツェル公爵の馬車襲撃失敗は大きな痛手となっている筈よ。クルリとリューナイトを捕まえる筈が逃がした上に、こちら側で助けた、と流した噂通り2人はこちらにいる。口封じ、と言うのが卑劣だけど一番手っ取り早い方法ですもの」

いや、曖昧な予言、と言われれば上級貴族であれば常に陰謀の渦中にいる。

だから、気にする事もないのかもしれない。

「公爵令嬢」

ザンが私を呼び、思い出した。

「ザン、あなたも私の事を公女、と呼んで貰える?ターニャにもそう呼ばせているのだけれど、私から認められていない人、と言う意味を表すわ」

「ほう、それはまたおかしな事をされていますね。帝国騎士団の私にそう呼ばせるのですね」

「そうよ。私にとって、味方は全て公爵派であって、例外は認めない。ある意味、中立派と呼びながら王妃派だった、と言うのと同じよ」

「本当に貴方様は、何もしなくてもいいと言いながら上手く私達を動かしますね」

「ザン、ありがとう褒め言葉ね」

「公女様、これを預かっております」

無表情ながらも、楽しそうにしているのが今では分かるようになった。そのザンが私に文を渡してきた。

「コリュから?」

ちなみにコリュはお留守番です。平民と言う荷物持ちの立場から、当然今日の崇高な儀式についてこれるわけもなく、半泣きで喚きながら居残りしてもらいました。

少し可哀想だったけど、仕方がない。

「違います。公女様ならおわかりになると思います」

文を受け取り、封紋を見た。

「ボルディー王国ね。それも、これは正式な王紋ね。国王が自ら押したなのね」

思い当たる節があるから、ぞんざいに封を空け、読んだ。

「何、何て書いてあるの?」

意地悪な顔で聞いてくるカレン。

「また、求婚か!?」

不安な顔で、聞いてくるフィー。

「何ですか?求婚?いつの間にそんな事になっているのですか?」

ワクワク的な顔で聞いてくるクルリ。

「何故ボルディー王国からですか?」

一触即発かのように、剣呑な顔のリューナイト。

「謝罪でございましょう?」

虎視眈々とした顔で笑う、ターニャ

「公女様にとって、全ての輩が浅はかに見えます」

蔑むような瞳で笑う、ザン。

この人数で言われると賑やかだし、皆の性格がわかるわね。

読み終わり、封筒に戻りした。

「国王自らの謝罪文よ。自分の子供である、スレッガー様が前々から私に想いを寄せていたのを親心から不憫に思いたみたいで、私の弱味を握る機会があれば、とガルマ様に頼んでいた。この度は大変申し訳なく、何かあれば直ぐに国を動かしてでも助けます、と大袈裟に書いてあるだけよ。クルリとリューナイトには後で説明するわ」

ポイ、と隣に座るクルリに渡した。

「それだけ?」

「それだけよ、カレン。想定内の内容でしょ」

「そうだけどさ、もう少し喜んだら。私達でも一国を動かす力なんて持ってないのにさあ」

「喜んでるけど、あまり使いたくないわ。だって、国を動かすほどの状況になるなんて考えたくないわ」

「それはそれで楽しそうですね、お嬢様」

本気で目をキラキラさせて言うクルリに苦笑いしか出なかった。

「でも、ガルマ様がいつもお嬢様の様子を見ていたのはその為だったのですね」

「見てたの?」

「はい。ガルマ様もそうですが、スレッガー様はまるわかり、という行動でしたよ。お嬢様と話したそうにいつもソワソワと周りにウロウロいましたし、話をされる時は顔真っ赤でしたよ」

「そうだったの?全然気づかなかったわ」

「興味ありませんもんね」

「ないわ」

「はいお嬢様。そのバッサリは素敵ですが、怖いですね。でも、自分の国の王子様の為な仕方ないですね。お嬢様は素敵ですからねぇ。でも、あの方は優しすぎますからお嬢様の相手は辛いかもしれませんね」

「何よさっきから、褒めてるの?貶してるの?」

「どっちもです。そうですねぇ、お嬢様の言葉を借りるなら」

私の言葉?

ふふん、と得意そうに鼻を上げながらクルリは笑った。

「あさはかな奴らね。私を本気で手に入れようと思うなら、国1つじゃ足りないわ、ですね」

「おお!!スティングみたいだわ!!」

「まって、カレン、クルリ、私そんな言い方しないから」

そうだなあ。

「その程度の考えで、私を落とせると思うなら浅はかだと教えて上げるわ。たかだか国を動かした位で、私の芯の心が揺さぶれると思っているの?かしらね。だって考えてみなさいよ。国を動かすなんて、軽く口にするという事は、私がその程度と思われているのよ。冗談じゃないわ。人の心、というのは、あら?何で皆顔が引き攣っているの?」

「スティング、その、うん、分かった!スティングは敵に回しちゃ駄目なんだよ。とりあえず、凄いじゃん!国を動かしてくれるんだよ」

「カレン?何でそんなに慌てているの?まだ、私全部言ってないわよ。まだまだこれからよ」

「いや、いい!スティングはあまり、その、いや、笑ってい方がいい。怒った顔は取っておいた方がいい」

「私怒ってないよ、フィー。普通に言ってるだけだど」

「お、お嬢様!ともかく、私達の国よりも大きい国が助けてくれるんですよ?凄いじゃん、ですよ!」

「その通りでございます、お嬢様。今のままで十分でございます。外交問題になる前に、大人しくしてください」

「リューナイト?私、外交問題には結構気を使ってるよ。皆、どうしたの?何でそんなに怖がってるの?」

「えーと、その、話しは変わるけどさ、ノワールが朝、謝罪に来たんでしょ?」

「どうしたの?凄く話変わったよ?ねえ外交問題で言うなら、ボルディー国は」

「来ましたよ!その謝罪をお嬢様は滅多斬りにしていましたよ!いやあ、さすが私のお嬢様!悪女でしたよ!」

私の言葉をあえて遮ると、 楽しそう言うクルリの言葉に、それ以上言うのをやめた。

「だって、ノワールは私の機嫌悪くしたんだよ。仕方ないでしょ」

不貞腐れる私に、何故私が怒ったのか知っているからクルリとリューナイトは嬉しそにしてくれたが、カレン達は頬を引き攣らせ、また、敵に回さなくてよかったね、と意味不明な事を言っていた。

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