第112話帝国へ(叔父様達1)

「やって来ました!帝国一の、いいえ世界一の本屋です!!ほら!!あれですよ、お嬢様!!」

馬車の中、窓に張り付いて背中を向けるクルリが大興奮の声を上げた。

「お嬢様が見せてくれたガイドブック通りです!!」

「そうだね、もうすぐ着くから楽しみだね」

「はい!!!」

元気に答えるクルリは私を一切見ながったが、その様子に私はとっても満足した。

ここに決めてよかった。

だってね、ここに決めたよ、と教えた時からずっと楽しみにして、当日になると朝からソワソワしていて、何度も私に、

今日ですよね、本当に好きなだけ買ってもいいんですよね?

と目をキラキラさせながら聞いてきた。

勿論よ、いくらでも買ってあげるわ、

と言った。

私のために危険と知りながら、身代わりとなり怖い思いをさせてしまったのだから、安いくらいよ。

それに、自分の中で約束したように今日もクルリが作ってくれたビビの服を着てきた。

基本ビビはワンピースを着ているから今日もそうだが、夏のひまわりのような黄色がベースに可愛らしくフリルがあしらわれている。

カレンもリオンが着るような服を作ってもらい着ているが、夏の青空のような色のパンツ姿だ。

ちなみにフィーも分も今回用意してあって、機嫌よく着ていた。

フィーのイメージは、ナディ。

ナディは小説の方では何冊か後で出てくる登場人物で、リオンの親戚だが、全くフィーに似ていない

ナディはとても賑やかな性格で、落ち着きがなく、いつもリオンやビビを困らせ事件をひっかきまわし、邪魔してくるのに、事件の解決に役立つ、というなかなかの良いポジションなのである。

ナディは身体にフイットした細身の服装を着ている。

フィーはゆるめの服を着ているから真逆だが、とても似合っていた。

新緑色のシャツに、クリーム色のパンツ。

ここまでくると、クルリの仕立ては最高だと認めるしかない。

そんなわけで私たちは小説の格好をしているわけで、ある意味お忍びにはちょうどいいかもしれない。

これから会う方はとても高貴な方だから、本屋は失礼なのだが、良い目隠しになると思う。

あの方々の足取りを王妃派が掴んでいるとは思えないが、油断はしない方がいい。

「もちろんリューナイトも選んでよ。武術の基本とか、剣の選び方とか、欲しいと言っていたでしょ。国にないのは全部買っていいわよ。こういう時は遠慮しないで。逆に私がまた何かしたいな、と思っちゃうよ」

「ありがとうございます。今日は遠慮なく選ばせていただきます」

「フィー一緒に選んであげなよ」カレン

「そうだな。俺も久しぶりのグロリア本店に行くし、色々見て見たいしな」

「あ、ありがとうございます、皇太子様」

緊張しながらも嬉しそうに答えるリューナイトの姿に、私は本当に嬉しかった。

良かったね、リューナイト。

そうそう、これから行く本屋がグロリアという会社で、その本店がこの帝国にある。さっきクルリが言っていたように、世界一大きい本屋、それがグロリア本店なのである。

だから、

新刊もここが1番、

希少な本もここが1番、

在庫数もここが1番、

なのである。

「さあて、スティングが誰に会うのか楽しみだわ。私、もう予想がついてるわよ」

カレンが我慢していた言葉をやっと発した。

うんうん、よく我慢していたと思う。だって、帝国に来て1度もその話をしなかったもの。

首を突っ込みたがるカレンが、ここまで良く我慢したわ。

「カレンの推理通りならいいわね」

「それはないな。カレンの頭は単細胞なんだから大したこと考えれないな」

「ふふん、フィー。私を見くびらないで。絶対に私の推理は当たっているわ!」

あら?珍しく自信満々ね。

「楽しみね」

「はい、お嬢様!私もお久しぶりですので楽しみです」

「私もです」

「そうね、クルリにリューナイト」

リューナイトも頷いた。

「え!?クルリもリューナイトも知ってる人!?」

「はい」クルリ

「はい」リューナイト

「お前の推理は既に外れたな」

「待ってよ!今から考えるわ!!」

「はやく考えてよ、ほら、馬車止まったよ」

「ザン!引き伸ばしなさい!!」

「・・・無理でございます」

「諦めな、カレン」

「フィーうるさい!」

「お前がうるさい!馬車の中で喚くな!」

「あんたは冷たすぎるのよ!こういうのは楽しまなきゃいいけないのに!」

「お前は。楽しむんじゃなくて、危ない事しか考えないだろうが!いつも行き当たりばったりのくせして、俺がどれだけ大変かわかってるのか!?」

「当たり前でしょ!あんたしか私の尻拭いする人いないんだから!」

「開き直んな!どれだけ大変なのかわかってるのかよ!?」

「兄なんだから当たり前でしょう!!」

「双子だろうが!!」

また、始まったか。

ガチャリ、と馬車の扉が開いた

「先に産まれたのはフィーよ!それに皇帝になるんだから妹の面倒見るのはあたりまでしょうが!」

「あ、あの・・・到着しました」

従者がおどおどしながらも小さく言った。

「お前の面倒を見れる奴がいるわけないだろうが!!」

「ありがとう。クルリ、リューナイト行くわよ。時間に遅れては失礼だからね」

「何言ってんのよ、スティングだって見れるんだから誰でも見れるわよ!!」

いや、見れてないから。

「ですが・・・皇太子様と皇女様は・・・」

「お二人の邪魔をしてはいけないわ。それにザンとターニャがいるから大丈夫よ。さあ参りましよう」

「ちょ、待ってよ!!」

あら、カレン気付いていた?

「早く降りるわよ。帝国の旗ないけど騎士団が多い分目立ってるのよ。さっさと行かないと私の顔が知れてしまうじゃない。私は静かに行きたかったのに、ついてきたいと言ったのは2人よ。だったら静かに動いてくれなきゃ困るわ」

私はそういうとさっさと馬車から降り、歩き出した。

「静かにしろよ、カレン」

「私!?あんたでしょ!」

「だから、お前がいつもトラブルメーカーなんだろうが!余計な事を考えて、勝手に動くから、いって!!蹴んなよ!!」

「トラブルメーカーじゃないわ!私に喧嘩売ってくるのが、いった!!叩かないでよ!!」

「お前が喧嘩売ってんだ!!」

「はあ!?私は売られた喧嘩し買わないわよ!!」

はぁ、うるさいなぁ。

クルリとリューナイトに目配せし、足早にグロリアよ入口に向かった。

2人は相も変わらず兄妹ゲンカしているが、それが余計目立ってしまっている。

護衛の人達が騎士団の服装ではないが、人数が人数だけに周りから変な目で見られている。

もう!!

早く来なさいよ!!

振り向きざまに腹が立ったから睨んだら、ちょうど2人と目が合い、慌てて静かに走ってきた。

「うん、宜しい。いい、黙って着いてきてよ」

「う、うん」

「も、勿論だ」

しゅん、と小さくなり流石に黙ってくれた。

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