第103話帝国へ(帝国に到着10)

コリュ様の説明は、こうだった。

平民街に仕事が入った。

その内容が、

貴族の馬車を襲い乗っている貴族を拐え。生死は問わな。

当然尋常な仕事ではない。

生死を厭わない、と言葉では簡単だが、その意味からして、その貴族の立場が重いのは、明らかだ。

勿論報酬も破格の値段を提示されたようだ。

でも、平民街の人達も馬鹿じゃない。全て仲間内でやれば、失敗した時、家族にも被害が及んだ上に、雇い主から殺される可能性もある。

そこで貧民街に仕事の依頼としてやって来たようだ。

失敗すれば全て貧民街の人間に擦り付ける、もしくは捨て駒として使えばいい、と言う思惑だろう事は直ぐにわかった。

基本、貧民街の長は危ない仕事は受けないようにしている、と決めているようだ。お金は欲しい、けれど、仲間の方がそれよりも大事だ、と言う素晴らしい考えを持っている、とコリュ様が嬉しそうに言った。

でも、私が前もってコリュ様には王宮での王妃様にガツンとやる事と、その後直ぐに帝国に向かい、囮としてクルリとリューナイトを馬車に乗せる事も教えていた。

だから、この依頼が日曜日の夜に来た事で、ピンと来たらしい。

貴族の馬車、

乗っている貴族を拐う。

そう、

私だ、と。

だから、普段なら絶対に断わるこの依頼を長に受けさせた。

思惑通り、馬車を襲うのは全員で襲うが、馬車に乗る貴族を襲うのは貧民街の人間にさせ、その後を平民街の者は貰おうとしていたらしいが、そのまま貧民街の人達は2人を拐った後、コリュ様と落ち合い、引き渡してくれた。

で、3人で帝国へとやって来た。

と言う事だ。


「あの手紙で分かってくれるでしょ?公女様なんださからさあ」

ポイとまだお菓子を食べている。

その仕草で、

マジでわかんなかった!?

という得意げな感情を見せる驚きの目が、心を穏やかにさせた。

これ夢なのかも、と不安に思ってしまう自分に、コリュ様の天真爛漫の明るい声の説明に、カレンが食い入るように聞き、楽しそうに豪快に笑い、フィーが不機嫌な顔になりにらむ姿に、

夢じゃないのだ、

と、

クルリとリューナイトを何度も見た。

その度にクルリとリューナイトが嬉しそうに微笑んでくれて、また泣きそうになった。

「分かんないわよ、任せとけ、の一言の手紙で何がわかるのよ」

「その通りです!あんな一言に、それも雑な字で、こんな大事をやるなんて考えつきません!!」

ターニャ本当に驚いているわね。まあ、でも気持ちはわかるわ。今、あんまり頭が働いてないから、うんうん、と話を聞いているけど本当はとっても驚愕的な事で、慌てることなんだろうけど、泣きすぎてぼんやりしているのかもしれないけど、深く考えれなくて突っ込めない。

「へえ、公女様でもわかんない事あるんですね」

目を丸くさせ、より、嬉しそうになった。

「私そんなに全部分かっていないわ。だから、2人が死んでしまったんじゃないか、と落ち込んでいたもの」

「いやあ、それなら俺ってば頭いい?公女様なら全部見透かすように分かってて、今回の事も実は、俺がヘマしてほらやっぱり、とか怒られるかと思って結構ヒヤヒヤしてたんだ。だから、上手くやれるように何度も冷静に、と言い聞かせてたんだ」

「うん、コリュ様の方がずっと頭いいと思うわ」

本当に感心するし、ありがとう、と思ってるもの。

「けど全部分かってる思ってましたが、でも、俺って凄いんですよね!?公女様が考えつかないことをしたんですね!」

えっへん、と褒めて褒めて、と言わんばかりに立ち上がるコリュ様にとうとうフィーが頬を引き攣らせながら立ち上がった。

コリュ様は驚き、へたんと座った。

「やめて、フィー。コリュ様は私の手駒よ。私が全てを決めるわ」

「だが!」

「お願い、やめて。私は何とも思ってない。それよりも、こんなに風に仲間のように喋ってくれるコリュ様に、安心している。だって、私を信頼している。理想的な手駒よ」

自分で言って、その通りだと思った。

「そ、そうですよ!それにこの事は全部そこにいるザン様に全て話をしてました!」

寝耳に水、とはこの事だ。

「だから、か!お前、いつもの比べ余裕が見えたものね!!」

「姉上は、よく見ていますね」

ターニャのため息混じりながらも、得心を得た顔にザンが無表情で答えた。

そう、か。

いつの間にかザンも私も手駒として動いてくれていたんだ。

「敵を欺くにはまず味方から、と言いますようにお伝えしなかったのです。その方がより真実味を見せ、相手が動揺する。しかし、姉上からの報告によると、悪女として行動と言葉を示し、また、お2人がこちら側に救出された、と誤報まで打つ始末。どこまで相手を掻き乱すのが上手いのか感服致します」

「ありがとう。ザンに言われると嬉しいわね。その後はどうなってるのコリュ様?」

「とりあえず、2人がこっちら拐った訳だからか、平民街の奴らは失敗した。その後をガンダラ達は探ってくれる手筈になっている。失敗した事を報告する為に、この仕事を持ってきたやつと会う筈だ。けどこの話だれが持ってきたと思います?面白い奴が持ってきたんだ」

ニヤリとコリュ様が笑った

「面白い奴?」

誰だろう?

「クラウス様だよ」

「ええ!!!??」

私の驚きにターニャ以外が同じように驚きの顔になった。

「わざわざクラウス様が来たの?確か謹慎中のはずよ。それも貧民街に?」

あの気位の高い方が貧民街になんて考えられないが、動かなければ行けない理由があったのだろう。

「ああ、もう最悪の顔してました。汚いものを見るような動きと、馬鹿にしたような言い方でした。俺の顔は見られてませんよ。貧民街以外の人間が来たら隠れるようにしてますから。俺ぐらいしかククラウス様を知らないからね。しっかし傑作でしたよ。ここれまで貴族相手しかしてないから、自分に対して誰も敬語も使わないし、お茶も出ない。その上床の上に座らされて、誰もが平気で立ったりするから見下される格好になる。だから、ずっと怒ってました」

「あの方は表立った行事には出ていなかったもの。全部当主であるジナール侯爵様が出ていたから、人との関わり合いが少なかったからでしょうね」

「でも、何故クラウス様が来たのか、説明を聞いててわかりました。ヴェンツェル公爵家の紋章、ヴェンツェル公爵家兵士の服装、そういうのを事細かく説明されてました。そりゃそうでしょ。貴族なら知ってるが、平民や貧民街に住んでいる奴らは全く知らないですからね」

言われて気づいた。

その通りだ。

「近くで見てもあんな複雑な柄わかんねーよ、と皆が騒いでいました」

「つまり、ヴェンツェル公爵家の馬車が襲われた時クラウス様もいたの?」

「いました。ほぼあの方の指示だったようです。そこを俺が2人をかっさらったから、クラウス様の立場はより悪くなったでしょうね」

楽しそうに一気にお茶を飲み、ターニャがおかわりを入れてくれた。

何処までも汚い人達だ。

操り人形だった人間が牙を剥き歯向かえば、切り捨てるだけ。

でも、そうさせているのは、王妃様達だわ。

「クラウス様に跡はつけさせているの?」

「勿論です。今回の事で逆に貴族の奴らが公女様を敵対しているとわかり、より貧民街じゃあ公女様の株が上がりましたよ」

「それは、嬉しいわ。1度ガンダラ様にお会いして見たいと思ってるの」

「いやあ・・・あそこは公女様が来る所じゃないですね」

「構わないわ。それよりも、2人を逃がしてしまった事で、貧民街の皆様は大丈夫なの?」

「そこは大丈夫です。山道は貧民街の人間が詳しいんです。そこで取れる山菜や動物達を捕まえて生活の足しにしてるんで、逆に悪い事ばっかりやっている平民街の奴らはいつもの同じ場所しか通らない。楽して金儲けしか考えてないんで単純なんですよ」

「それなら良かったわ。国に帰ったら、皆様にお礼したいわ。2人の命を救ってくれたのは、貧民街の皆様のお力添えがあったからこそよ。どうにかお話をつけて欲しいわ。お願い致します」

すっと立ち上がり頭を下げた。

「や、やめてくださいよ!分かりました。とりあえず聞いてみますが、期待はしないで下さい。本当にあそこは、外部の人間を入れないんでね」

「ありがとう。十分よ」

顔をあげて微笑む、コリュ様も立ち上がっていたから、目が合い、笑った。

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