第104話帝国へ(帝国に到着11)

「さあてコリュ。あんたの存在をもっとアピールして上げるわよ。ワインを早く出しなさいよ!お父様に特別なやつ持ってきたんでしょ!」

私とコリュ様が座るのを確認した途端、カレンが得意げに声を出した。

ワイン?そんな約束して・・・ないわよね?

コリュ様を見ると一気に顔色悪くして慌てて首を振ったから、カレンの妄想というか、勝手な思い込みというか、希望なのだろう。

フィーも憮然とした表情でカレンを睨んでいる。

カレンが立ち上がりコリュ様に手を差し出したが、当然何も出てくる訳がない。

やめてよ、コリュ様。私に助ける求める顔向けられても、私、どうしようもないわよ。

ほらカレンが、目を輝かせて私を見たじゃない。

「スティングが持ってるのね。さぁすが!抜け目ないわね。もしかしてヴェンツェル公爵様お墨付き、てヤツ?」

「え、えーと、その・・・私、何も持ってないわよ」

ゴメン、コリュ様。

ここで下手に嘘つけない。

案の定カレンがひくり、と頬をを上げ目を吊り上げた。

「コリュ、持ってきてないの!?要領悪いわね!あのバカ王子の腰巾着から、スティングの手駒に大出世したのよ、もう少し考えなよ!さっきあんた自分で頭がいいと言ってた割には、さっぱりだわ!!ここを何処だか分かってるの!?帝国よ。て、い、こ、く!!本来ならあんたなんか絶対に入れない宮殿に入ってるのに手ぶらで来るなんて、勿体ないわ!!自分の事を売れる最大の機会を使わずに何してんのよ!!状況的に持てないとか、そんなくっだらない言い訳なんかいらないわ!!だったら、あんたの価値はその程度よ!!」

冷たく豪快に言い放つ。

「申し訳ありません!!」

コリュ様は必死の形相で土下座したが、この状況は私にとっては理不尽な内容だ。

コリュ様は確かに宮殿に入れる立場では無いが、価値がその程度、ではない。

私にとって大切な2人を助けてくれた、恩人のような存在だ。

こう言ってはなんだが、たかだかワイン。

皇帝に気に入られた所で何なんだ。

後々の流通等を考えれば、皇帝、よりも、ヴェンツェル公爵家の方がずっと手厚い後ろ盾となる。

下手をすれば王妃様と同じ道を辿る事となるだろう。

コリュ様にとって私の価値は最上級の手駒。

それをこんな風に扱うのは、私に対する侮辱と同じだ。

たとえ相手がカレンだとしても、それは許される事ではない。

「カ」

「カレン!!今そんな事今必要ないだろうが!つまんない事を言いやがって!!」

フィーが大声で、爆発した。

「何ですってぇ!?お父様とお母様が2人でワイン飲みたいと楽しみしてたんだよ!!どうしてくれんのよ!!私がわざわざ言ってあげたのに!!」

「お前、勝手にそんな事言ったのか!?この状況でそんなふざけた事考えていたのか!?」

「はあ!?普通持ってくるでしょ!」

「普通持ってこねーよ!2人助けるのに必死なのに、そんなもの持ってたら邪魔だろうが!」

「それを考えるのがこいつでしょうが!」

「お前の頭の方がおかしいだろ!」

「スティングの事の前でその男が馴れ馴れしいからって、私に八つ当たりやめてよ!私は正しいこと言っているわ!おかしいならフィーの方よ!」

「皇太子、皇女、落ち着いてください」

いつもならしばらく2人のケンカを放っておくのに珍しく、ザンが声をかけターニャに目配せした。

ターニャは頷くと、テーブルのお茶お菓子を片付けだし、新しく入れ直してくれた。

お茶を飲み、ほっとし、落ち着いた。

フィーが私の言葉を消してくれて良かった。

あのまま感情のまま言葉を発してしまえば、きっとカレンとの関係がこじれてしまったかもしれない。

コリュ様の存在意義は、私とカレンでは雲泥の差だ

それは仕方がない事だ。

こくり、ともう一口飲む。

フィーが私の言葉を消してくれて、切に良かったと安堵する。

感情に支配されるなんて、私もまだまだ子供ね。もっと落ち着いて考えないといけないわ。

「何よ、ザン」

カレンがむっすう、と不貞腐れた顔でソファの背もたれに深く寄りかかった。

「皇帝陛下より伝達でございます。明日明後日の親睦を深める茶会は、急遽明日だけに変更し、明後日は皇太子と皇女様お2人でヴェンツェル公爵令嬢を帝国を案内せよ、との事です。明後日は皇帝陛下と皇后陛下がお相手をするそうです」

ザンが珍しく優しく言うと、ターニャの驚きの声を上げたが満面の微笑みで私を見てくれた。

「やった!!」私

「本当に!?」カレン

「本当か!?」フィー

「お、俺は!?」コリュ様

「本当でございます。ヴェンツェル公爵令嬢を夏の休暇として誘ったのはこちらだ。満足できるよう案内すべきだ、と申しておりました。勿論、私と姉君は護衛として着いて参りますし、クルリ殿とリューナイト殿は、公女様の護衛として御一緒にとの事です」

「嬉しいです!!帝国で生地を見てもいいですか?」

「それいい考えね、クルリ!」

クルリの意気揚々とした言葉にカレンが大きく頷く。

「はいカレン様!色々デザインか浮かびそうです!お嬢様宜しいですか?」

「構わないわよ、クルリ。ビビの服なら何を作っても私、着てあげるわ」

「やった!!」

ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶクルリの姿に、心から嬉しかった。

「リューナイトは何処か行きたいところある?」

「私は・・・出来ましたら、帝国を騎士団の方と手合わせが出来れば嬉しいです」

おお!!リューナイトらしい答えだわ。

「それな後日剣の試合があるから参加したらいい。男性、女性で分かれるから、ターニャ登録しといてくれ」

「はい、皇太子様」

「ちなみに、ターニャが毎回優勝してるからね」

カレンの言葉にリューナイトが、見た事もないくらい目を輝かせ、ターニャを見た。

私の国では女性の貴族の為に、女性の騎士が護衛に付くことはあっても、剣の試合や演習には参加出来ない。

男性に女性が勝てない、という現実的な壁があるからだ。

だが帝国のように、男女別々に考えればいいのだ。

同じ土俵に立たせる必要は無い。

必要あれば立てばいいだろうが、試合は、実践では無い。

それならば。

「リューナイト、国に帰ったらお父様に頼んでみるわ。ヴェンツェル公爵家で女性の剣士の試合を作るわ」

「ありがとうございます!」

押し殺した気持ちが分かる、冷静な声と綺麗な一礼に、リューナイトの好きな事が1つしれて嬉しかった。

もっと知りたい。

リューナイトだけではなく、クリルの事も。

「その、俺は?」

恐る恐るコリュ様が声をまた、声を出してきた。

「コリュ殿、ですか?そう言えば名が上がっておりませんでした。申し訳ございませんが、当然ではありませんか?クルリ殿とリューナイト殿は公爵令嬢の召使いと警護。しかし貴方様は元々皇太子と皇女様に無礼を働き平民に落とされた、平民でございます」

何時もの無表情で、冷静な言葉が妙に今は鋭く聞こえる。

案の定コリュ様が、ガーン、と真っ白な表情になった。

私の為に頑張ってくれたのは、本当に認めるけど、助けて上げたいのは山々だけど、この状況は私にはどうしようも出来ない。

「そうそう、あんたは平民よ」

追い打ちをかけないであげて、カレン。

コリュ様、遠くを見ないで。帰ってきて。

「その通りだ。スティング、よく考えてみればこいつに様なんかいらないだろ?」

問われて少し考えた。

「そう、言われてみればにそうね。今は平民だものね。手駒だけど同じ歳だし、友達的な感じ、かな?」

「友達じゃない!!」

そ、そうかな?

「えーと、じゃあ国では手駒だけど、ここでは、ここでは、そう、荷物持ちよ!私も色々お土産買いたいし、クルリも買いたいものがあるし、帝国騎士団とか護衛の人に持たせたら目立っちゃうからあなたが持ちなさい」

私の言葉にコリュ様は、まるで枯れた花に水を上げたように、ぐん、と背中を伸ばた。

「はい!やった!」

ガン!

「やった、じゃない!!」

「・・・すみません」

フィーに思いっきり殴られた。

「ふうん、荷物もちねえ。それはなかなか面白いわね。ま、国に帰ったらワインよこしなよ。不味かったら全部終わった時生きていると思わないでね」

「そんなあ」

私に助けを求めるように向いたが、また、フィーに殴られていた。

コリュ様には悪いけど、やっと夏の避暑地らしくなったな。

ふふっ、楽しみ。


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