第93話帝国へ(フィアット家)8
「あと、レインの産まれにおかしな点が見えると、連絡を受けています。文を預かっておりますので、確認下さい。内容は我々は知りません。それと、私からの報告の文も準備しております」
静かに秘めた闘争心の分かる瞳に、すとん、と気持ちが落ち着き、不安は払拭された。
「スティング様、貴方様は何時でも悪役でございましょう」
ニヤリと笑いながら文を渡すテンビ男爵様の言葉に、くっ、と笑いが出た。
「私に対して、その態度は何!単純な男ね。ヴェンツェル公爵家が襲われたのを偶然助けたからと、少しこちらが低姿勢で礼を言ったのに対して、そのような無礼な望みを受け入れるわけが無いでしょう!!」
クルリ、これでいい?
あなたの望む悪役令嬢よ。
「クルリとリューナイトは、私の方でどうにか見つけ、一緒に行動していると言いなさい。捜索は打ち切って」
囁きながら近づいた。
「宜しいのですか!?」
頷く。
「泣いていると思ったら、大間違いよ!騙されたわね!!何をしている、膝をつきなさい。私を誰だと思っている!!」
「お許し下さい!!」
「ヴェンツェル公爵家に、行き、お父様にこの度の事を大袈裟に言い、陛下の側に就くことを望みなさい」
「・・・!?」
「国境を護る、と言いながらこの体たらく!!どうしてくれる!?」
「それは・・・。この身を全てヴェンツェル公爵家に捧げ致します。どうぞお許しを!!」
ああ、と嘆きながら蹲る姿に、驚く程演技が上手くて、
おお!!!
と拍手・・・しようと手を上げたのを、
我慢した。
本当に上手いわ。ヴェンツェル公爵家に捧げる、なんて、手駒として使いやすくなる。
えーと、次は
蹲り許しを乞うこの状況からいくと。
「平民と変わりもしない男爵の癖に、我がヴェンツェル公爵家にその身を捧げ所で召使いの1人にもならないわ!」
十分なっている、と思いながらも、大声を出すことで、とても気持ちが落ち着いてきた。
「テンビ男爵様、お父様に陛下の側にはメンクル男爵様を就けるように頼んでます。御一緒に陛下を御守り下さい。私がそう指示したと言えば、何の問題もなく話は通る筈よ。出来れば見かけが風変わりな人が理想よ」
はっ、と顔を上げたが、すぐに下を向いた。
「・・・何と・・・素晴らしい事を言ってくれるのですか・・・。では、我が娘が適任か、と」
震える声に歓喜を感じ、私はテンビ男爵の行動に少しは恩をかえているかしら、と切に思った。
「この失態、そしてお前の顔二度と忘れないわ!!」
「お許しを!!」
「あなたは、塗料の着いた馬車が何処に行くかではなく、何処で集まっているかを調べて。そこで情報交換している筈よ」
ここまで桃色にこだわるという事は、レインは平民では無い。
「それと公の場では私の事を」
「公爵令嬢、でございましょう?御心配いりません。皆、そこまで馬鹿ではありません」
下を向いたまま、ちらりと顔を上げウインクした。
さすが、私の手駒だわ。
湧き上がる嬉しさを必死に我慢した。
「私は予定通り帝国へと向かいます。・・・ありがとう。期待しています」
「御意!」
微かに震えながらも強い言葉に、私は踵を返した。
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