第24話ガナッシュ殿下の誕生パーティー

「そろそろ・・・お願い致します」

申し訳なさそうに、私を呼びに来た王宮召使いに、私は微笑んだ。

「分かりました。では、直ぐに参ります」

私の笑みを見て安堵したように頷くと部屋を出ていった。

「その程度だ」

フィーの苛立った言葉ながらも、私を愛おしむような顔で手を差し出した。

「行こう、スティング」

「・・・うん」

カレンの冷静な言葉に頷きフィーの手に手を乗せ立ち上がると、ぎゅっとフィーが手を強く握った。

「俺は、俺の本心で動く」

私の耳元で囁く言葉が、とても心を騒がした。

扉が開かれ、私達はホールへと向かった。

今日は殿下の誕生日パーティーだ。あれだけ約束したのに、結局迎えには来なかった。

いつもなら、クルリと私だけが控え室で待つのだが、フィーとカレンが一緒にいる、と頑として譲らず側にいてくれた。

2人とも本当に迎えに来るのか確認したかったのだろうな。

迎えにこなかった殿下に対して、残念な気持ちはあるものの、悲しい気持ちはなかった。

私達がホールへ入ると、水を打ったように静寂になり、私達を驚いた顔で見た。

誰もが、陛下さえも

何故殿下と一緒では無いのか、

何故帝国の2人と入ってきたのか、

そんな顔だった。

ただ1人、王妃派様だけが、高らかな笑いが聞こえそうな高慢な笑いが見え、不思議な感情が私を襲った。

「こちらでございます」

召使いが、奥にいるお父様や他の公爵様達の場所へと案内してくれた。

不思議だった。

美しいはずの伴奏が異様な空気を産むかのように、ホールをたゆみ澱みを濃くしていく。

その中を私は悠然と歩く事に、何の躊躇もなかった。

逆に、何か目覚めるような高揚感があった。

「・・・やはり迎えに来なかったのか」

お父様の愕然とした顔に何も答えず小さく頷いた。

「帝国皇子フィー様と帝国皇女カレン様は、こちらにお越しください」

「ここでいい」

「私も」

2人の即答と、睨みに召使いは困惑しながらも、去っていった。

「いいの?本当なら陛下の側でたつべきじゃない?」

「いいのよ」

「興味無い」

「自由ね、2人とも」

「子供だからね」

「おふさげは必要だろ?」

ぷっと笑ってしまった。

そんな他愛のない話をしていると、ファンファーレがホールに響き渡り、扉が厳かに開いた。

演奏が一層大きくなり、入場してくる2人に大きな歓声と拍手が上がった。

殿下とレインだ。

満面の笑みで歩く度に大きく手を振り、自分達の幸福をお裾分けするかのように、ゆっくりゆっくりと陛下の前に歩いて行く。

ふわふわと揺れるレインの水色のドレスが、殿下の藍色の正装とよく似合っていた。

いつものように、色を合わせて来たわね。

たまに2人は見つめ合い、微笑み合い、また手を振り、優雅に陛下の前で頭を下げた。

遠い世界のように、いや、小説のワンシーンかのように、私には現実味がなかった。

ただ、もう疲れた、と言う言葉が浮かび、気付くと挨拶も終わり、ダンスの曲が流れ出していた。

「スティング」

手を差し出しながら殿下が、私の名を呼んでいる。

一緒に登場のするのは、レイン。

ファーストダンスは、私、か。

なるほど、そう言うふうに決めたのね。

「スティング」

優しく私の名を呼び、手を差し出すフィーに、微笑み手を乗せた。

「スティング!?」

もう、驚きの顔は見飽きたわ、殿下。

約束を破ったのはあなたよ、殿下。

私は、

私の、

思うままに動くわ。

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