第13話一悶着
「ひと悶着あったそうだな」
夕食時、それも、食べ終わる頃になってからセイン兄様がニヤニヤしながら言った。
食後のデザートと一緒に私の話しで盛り上がろうと言う魂胆が見え見えだわ。
セインお兄様か通う大学は、高等部の隣なだけに、公爵派が急いで朝の事件を教えに行ったのだわ。
楽しそうなセインお兄様に、恥ずかしいのか、イラつくのか、分からない感情にモヤモヤした。
「大袈裟な言い方やめてよ」
茹でじゃがいもをフォークで刺し口に入れた。
「何だ、何かあったのか?」
お父様は食事を終え、お茶を待っていた。
「それがさあ」
から、始まったセインお兄様の説明。
これがまた、ムカつくくらいに分かりやすく詳しいの。
どれだけ皆が興味津々で、よく見ていたのか感心したし、お父様やお母様のその話しの食いつきぶりも、居心地悪かった。
「くっくくくくくく、それはまた滑稽だな」
お父様、笑いすぎですよ。
「ふっふふ、うっふふふ」
お母様も、笑いすぎです。
「だろだろ?傑作だろ!?あの偉そうな殿下が顔真っ青で、震えていたのだからな。俺も見たかったわ!!」
だから、皆様笑いすぎ!
ぶっ、と笑いをこらえた声が聞こえ、見ると、執事ロニが顔を真っ赤にして笑いを堪えてるし、クルリも同じように我慢してはいるがヒィヒィ言っていた。
「もう、笑いすぎ!!殿下が可哀想だったんだよ!!」
あんな姿見たことかったから、助けたかったのだが、不思議に少し、少しだけだけよ、スッキリした気持ちもあった。
「ああ、笑ったな。しかし本当に皇子と皇女と近しい仲になったのだな。クルリから報告は、受けていたがまさかそこまでとは思っていなかったな」
「本当ね。今日も訪問されたと聞きましたよ。時間が合わず、ご挨拶が出来なくて残念ですわ」
「俺も、まだ挨拶してないんだよな」
「だが、その何とかと言う本の服を着て、より近しくなったのだろう?是非見て見たいものだ」
え、お父様?何を言うのですのか!?
「では、ご用意しますよ!」
まだ、笑いながらも食器を片付けていくクルリがすぐさま答えた。
「嫌よ!あんな恥ずかしいの!!」
「何だ、お前のそんな事を顔を見たのは久しぶりのような気がするな。そう思わないか、レティーナ」
お父様がとても嬉しそうに私を見ると、お母様に同意を求めた。
「ええそうね、あなた。・・・あまり表情を出さなくなっていたから、とても心配していたのよ。私も嬉しいわ」
お母様の安心した言葉に複雑な気分だった。
それは殿下と私との間の事を心配されていたのだ、と申し訳ない気持ちになった。
「だが、珍しいな。これまでの報告の中ではお2人はあまり人と関わらず過ごして来たと聞いた。各国の過ごされた貴族の方々の中に、年頃の子供があまりいなかった、と言う事も聞いているが、学園内でも異質な空気を放っていた為、誰とも近しい友人はいなかったと聞く」
食器が片付けられお茶が準備されていく中、お父様が神妙な顔つきで言った。
うん。それはよく分かるよ。今朝のあの空気の冷たさと、威圧を前から見なくて良かったと思う。
「仕方ないだろ、父上。帝国のお偉いさんなんだからさ。それに今回偶然気があったという事でしょう。この国に留学するのはもう何年も前から決定していたから、それ程心配する事ではないと思います」
「分かってはいるが、スティング、下手な事は言ってないだろうな」
お父様の静かな声に、皆が私に注目した。
「勿論です」
「それならいい。近しい友人になるのはこちら側としては願ったり叶ったりだが、邪魔されては困る。ましてや帝国にあらぬ事が漏れても困る」
鋭い言葉に誰もが頷いた。
「それと、グリニッジ伯爵家に事業の売上としてまた莫大な資金が入ってきた」
「また、ですか!?ここ数年続いてませんか!?あんな、売上報告書など、デタラメでしょうが!!」
お兄様の吐き捨てる声に、その通りだと思った。
グリニッジ伯爵家は王妃様のご実家だ。
王妃様は、陛下の婚約者候補者に上がることの無いほど、取るに足らない伯爵家のご息女だった。
後々の側室の1人として、名が上がっていた程度だったらしい。
本当ならば、公爵派側のソウルバ侯爵家のご息女が王妃となるはずだったのだ。
ところが陛下が高等部2年の時に、国を大干ばつが襲い酷い有様となった。国は国を救うためにあらゆる手段をこうじたが、国全体の被害に、当然資金は苦しくなってきた。
勿論、公爵派もかなりの資金提供をしたが足りず、窮地に立たされた時、
手を差し伸べたのが、
グリニッジ伯爵家だった。
その額は驚く程で、しかしそのお陰で国は助かったという。
そうしてグリニッジ伯爵家は、その褒美として娘を正妃に、と申し出て、その願いが通ったのだという。
冷静になれば不自然だと気づくはずなのだが、お父様達は既に疲労困憊の状態で、まともな思考がなかった、と後々臍を噛んでいた。
意表を突かれた公爵派は、用意周到に突いてきたグリニッジ伯爵家に、結局何一つ疑わしい証拠を掴めることなく、王妃の座を明け渡した事になる。
ただ、グリニッジ伯爵家はその後特に大きな動きもなく、細々と事業を営み過ごしていた。
ところがここ数年急激に売上があがり、資産が極端に増えている。お父様達が調べたが、どこもおかしいところはなかった。
だが、明らかにおかしかった。
事業で扱っている商品が爆発的に売れたようになっているが、実際は差程出回っていないようだが、売れているのだ。
だが、金は入ってくる。
勿論、王宮から横領などない。
つまり、売れたように数字を上げ何処からか金を調達しているのだ。
「羊の皮を被った狼、だったという事でしょう?」
私の言葉に、お父様は重たいため息をついた。
「その通りだ。これまで上手く身を潜め、機が動いた、という事だ。お前の高等部卒業後の婚約披露に向けて、本気で動き出したのだ」
「そうでしょうね。婚約披露には各国の要人が招待されるわ。その国の権力者が、その方々を接待するもの」
貴族、という地位だけでは、意味が無い。
金、という資金だけでも、意味が無い。
両方揃ってこその権力だ。
グリニッジ伯爵家は、いや、王妃様は本気で手に入れようとしいる。
お父様にとっては腹が立ち、許せないことだろう 。
「ともかく、婚約披露までにはどうにか証拠を探す。それまでは・・・我慢して欲しい」
悲しい顔で笑うのはやめてください。
「いいえ、お父様。私は殿下を信じています」
嘘つき。
「王妃様がどうであれ、私は大丈夫です」
嘘つき。
「そうか・・・。明日は、殿下とのお茶だったな。楽しめたらいいな」
「そんな訳ないだろ!!」
「・・・」
誰も間違ってない。
お父様の言葉も、
お兄様の言葉も、
お母様の無言も、
誰も間違ってない。
私達、公爵派は、いつもこの国の為にこの身を注ぎ行く末を案じている。
憤り、と、悲しみは、よく似ている。
表裏一体の様に、まるで、永遠に彷徨い重なり合うことが無い。
殿下、私はあなたを愛しております。
信じておりますので、どうか国の行く末を同じく考えて下さい。
何故かふと、フィーの顔が浮かんだ。
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