2
ウゥ~~~~~~~ン
リジーは朝早く、聞き慣れないサイレン音で目を覚ました。
「なんなのよ、一体……」
もちろん、ベッドからは出ない。
布団から手を伸ばして、枕元の時計を見たが、まだ5時を過ぎたぐらい。太陽は昇っているが、いつもだったらあと1時間ぐらいは、ベッドの中で睡眠中だ。
(もう少し寝かして……)
そう時計を元に戻して、布団をかぶる。と、今度は部屋のドアを激しくノックされた。
一部屋、一部屋お客をたたき起こしているようだ。
サイレンは鳴りっぱなしだ。
ドアをノックする音も相変わらず続いている。
リジーは寝るのを諦めて、廊下に出る。
そうすると緊迫した顔の従業員と顔を合わせた。
「どうしたっていうのよ。こんな朝っぱらから……」
「お客どんッ、大変じゃ!」
声の主はホテルの従業員だった。慌てているためか、ひどい訛り。
そして、空を見ろと催促する。
「なにがあるって……あッ!」
「こん島も終わりだッ!」
見上げると、黒い影がいくつも浮かんでいる。
(ドラグーンだ……でも、どうして!)
生きているものは初めて見たが、紛れもなく小型のハンマー型ドラグーンが、何匹も周回している。
常識では、ドラグーンにも戦術のようなものがあるという。
群れの一部が先行して、パイル型ドラグーンの護衛のようなことをする。だが、この島にパイル型はいない。
常識が変わったのか?
それはリジーには計り知れないことだ。ともかく、頭の上にドラグーンがいることは変わらない。
そして、先行部隊であるハンマー型ドラグーンがいるというとは、ショベル型を含む本体は近くまで来ているということだ。
「お客様は、荷物をまとめて港まで来てくださいッ!」
別の従業員が飛び込んできた。
外を見れば、住人が着の身着のままで、両手に持てるだけの荷物を持って、一方向に走っていくのが見えた。
どうやら避難が始まっているようだ。
リジーは慌てて荷物をまとめる。
ドラグーンの『採取』のパターンは決まっていて3、4日の猶予はいつもある。だが、今回はどれだけあるのか判らない。
それでも部屋を飛び出したときには、ほかの部屋の客は既にいなくなっていた。
港まで来ると、混乱しているのは十分予想していたが、いざまのあたりにすると不安になる。
この町の人口は2,000人ほど。それに観光客や、何かの工事をしていたのかラジオ局の技術者もそれに加わっている。
埠頭に船が横付けされているのが目に入った。恐らくこの島と本土を結ぶ貨客船だろうか。
誰かが誘導しているようだが、秩序はとれていない。
それよりも貨客船の申し訳程度の大きさを見て愕然とした。100トンあるかないかで、とてもではないが全員乗れるとは思えない。それ以外にも漁船も導入されているようだが、やはり数が足りない。小さな手こぎボートも浮いて……あッ、今、衝突して沈んでいったので、浮いていた。
怒鳴り声があっちこっちから聞こえてくる。
「足らんぞ! 近くの航行中の船舶に招集をかけてもらえッ!」
「押さないでくれ! 子供がいるんだぞッ!」
「ホーネットたちに迎撃してもらったらッ!」
(そうだッ! ドラグーンの退治だったらホーネットたちに……)
桟橋屋がひとつあったはずだ。と、記憶を元にリジーは海岸沿いに目を向ける。
確かに桟橋屋があり、飛行機が何機も……いない。
まあシーズンオフということもあるだろう。こんなところでのんびり休日を過ごす、何ていうホーネットは……逆立ちしても片手しかいなかった。
ドラグーンは遥かに多い。だが、それでも反撃に向けて飛び立っていった。
「皆さんッ! この島に停泊中の海軍艦艇がくるそうです」
誰かが叫んだ。
目線の先、岬の反対側に確か小さいが海軍基地があったはずだ。そこに停泊している艦艇がくるという。
ちょうど今、岬の先端に灰色の艦首が見え始めた。
おおー……ッと、歓声が上がった。拍手まであがっている。
駆逐艦だろうか。それも2隻。これなら無理矢理乗り込めば何とかなる、かもしれない。
しかし、すぐに落胆に変わった。
ハンマー型ドラグーンが、襲いかかり始めたのだ。
大きな船体が目立ちすぎたのか、数匹のドラグーンが奥の駆逐艦に一斉に攻撃した。
何発もの火球弾が上甲板に直撃。駆逐艦の装甲なんて、普通の船舶に毛が生えた程度。艦首から艦尾にかけて一斉に火があがった。
手前の艦の方は、岬と炎上する味方艦に挟まれて身動きがとれない。
それでも反撃を試みようと、火器が動き出したのが見えた。だが、それまで……。僚艦と同じ運命をたどる。
残ったのは炎上する2隻の駆逐艦。それが港の入り口を狭めてしまった。
避難民は駆逐艦から脱出した人のために、増えてしまった。
「おい、飛行機ば操縦でぎる奴はいるがッ!」
振り返ると、南国らしいカラフルなシャツに短パン姿の男が叫んでいる。耳が尖っており、赤みかかった日焼けをしているのを見ると、ホワイト・エリオン族の男性だ。
こちらもかなり訛りがひどい。
もう仕事から引退していそうな年齢――多分、引退してこの島にいたのだろう――で、かなりしわくちゃの顔にサングラスをかけている。
周りの大人たちは、それぞれ顔を見合わせるだけで、名乗り出るものがいない。
「操縦でぎねでもい。航法、できる奴でもかまわね」
訛りがひどいが、いっていることは大体判る。
この御仁は飛行機の操縦できる。若しくは航法でサポートできる人を探しているらしい。しかし、早々いるわけがないが……
「はいッ!」
リジーが手を上げた。手を上げて、その御仁のところに近づいていく。
「航法、できる奴はいねが」
確実に彼女を見た……一瞬。だが、すぐに無かったことにしようと、ほかを当たり始める。
「アタシ、できます。オォーイ、無視するなッ!」
彼女の方は御仁の前でジャンプして、強引にでも視界に入ろうとする。
「お嬢ぢゃん。背伸びすたい年頃なのは分がるが、こぃは遊びでねぞ」
ヤレヤレと、リジーを扱い始めた。その小さい体では飛行機の操縦はできないだろう、と思っているようだ。
「飛行機の操縦はできませんが、航法の仕方は教わっています」
「どごで?」
明らかに信用されていない。
いつものことだが、リジーはムカついてくる。
「飛行機クラブに入っていました。高校の部活動で……」
「高校生だど! そのぢんちぐりんでが!?」
その御仁はサングラスを取って彼女を見た。
目を丸くしている……この人だけではない。周りの大人たちが一斉に彼女に注目を集めた。
「ちんちくりんは余計だッ!」
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