第11話 感謝の想い

 白いトラの姿が森の中に消えてしまうと、マサミツは空を見上げた。


 目を凝らしてしばらく見ていたけれどもう鳥の姿はなかった。

 雲ひとつない快晴。

 さっきまでの出来事が嘘のようだ。



 植物採集に熱中して頭上を全く警戒していなかったことにため息をついた。


「油断してたよ。似ていても地球と違うってことを気に留めないとだめだ」


 誰に話すともなく呟いて反省したマサミツは木の盾とバックパックを回収し、白いトラと分け合った肉と羽根の塊をバックパックに詰め込む。


「ちょっと休憩しよう」


 独り言が多いなと思うけれど、今は話し相手がいないからこうやって宣言するのがよさそうだ。


 近くの大きな樹の根本に木の盾を置いてその上に腰を下ろし、マサミツは水筒の水を飲んだ。

 気が付かなかったけれどずいぶん喉がかわいていたみたいだ。ごくごくと飲んだところでようやく一息つけた気分になった。


 ふと、先ほどオオタカの攻撃から守ってくれた魔法の鎧のことが気になった。



 ちりーん♪


 スキル「保護保全」が発動しています

 状態  リアクティブ・アーマー展開中



 これは襲われたときに見たのと同じ内容。


「リアクティブ・アーマー」というのに注目してみたけれど何も表示されなかった。

 代わりにスキル「保護保全」に意識を移してみる。


 青いウィンドウが開いた。


 ◆スキル「保護保全」詳細

 スキル保持者自身を保護し現状を維持する。

 物理要因からの防御手段「リアクティブ・アーマー」、超自然的要因からの防御手段「リフレクション・シールド」、状態維持手段「サステイナー・ホールド」が、それぞれ機微に反応して随意展開する。

 ギフト「健常健全」により常時発動。



 読み終わってギフト「健常健全」ってなんだろう思ったら、青いウィンドウがもう一枚並んで現れた。


 ◆ギフト「健常健全」詳細

 クリスファウから林田優光に贈られたギフト。

 肉体と精神の健康状態が最良となるように、保持スキル全般が常時最適化されて発動する。必要に応じて思考能力を高める。



 マサミツは ふぅ と息を吐いた。


「なんだか申し訳ないほどすごいなあ」


 クリスファウというのは「祝福」を使うときに思い浮かべる名前だ。

 この大層な力や知識と記憶を与えてくれた神様みたいな人のことだと思う。


「せっかくだから」


 今のうちに自分のことをもう少しわかっておこうと思う。



 ちりりーん♪


 開いていたウィンドウが全部消えて、以前一度見た大き目の青いウィンドウが開いた。


 名前  林田 優光  性別 男

 種族  人類

 職業  無職  (前職:公務員 課長代理)

 年齢  34歳

 LVL 34

 生命  1000   精神  1000

 体力  100    気力  100

 筋力  42     敏捷  37

 器用  53     知識  596

 魅力  38     魔力  122  

 スキル 一般常識 保護保全 慈愛平等 質実剛健  

 ギフト 健常健全 



「見ていないスキルは……と、これか」



 ◆スキル「一般常識」詳細

 未知の常識・知識を短時間で学び取れるようになる。

 周囲の状況への観察眼、推理・推察能力が少し高まる。

 ギフト「健常健全」により常時発動。


 ◆スキル「慈愛平等」詳細

 スキル保持者と任意の相手が、互いの身分、年齢、財産、能力、地位などに囚われないで理解しやすくなる。

 ギフト「健常健全」により常時発動。


 ◆スキル「質実剛健」詳細

 スキル保持者自身の身体能力・精神力が高まり疲れにくくなる。

 ギフト「健常健全」により常時発動。



 並んでいる青い小さなウィンドウを三つ眺める。


 最初に見たときは海ちゃんと比べて地味で微妙と思ったけれど、今のマサミツはとてもありがたい力だと思った。


 この世界で生きていくのに必要な力だ。。


 何か特別なことをしなくても身を守ることはできるように与えてもらった力。

 安全な日本にいた頃と同じようにとはいかないけれど、常に気を張り続け命の心配をしなくてもいいように。



 マサミツはもう一杯水を飲み、スキルの内容を確認してから立ち上がった。

 意識の中心から外れるとスッとウィンドウが消える。


「とりあえず怪我で動けなくなるようなことはないみたいだけど、怖い目にあうのは避けられないみたいだ。覚悟だけしてもう少しこの辺りを調べてからアパートに戻ろう」



 森の中の小さな沼地を見つけ、あるいは藪をかき分けながら、見つけた動植物を観察して食料になりそうなものを集めていった。


 途中でワニそっくりな生き物や、蜂や蝶のような昆虫も見かけた。

 どれも地球のものよりかなり大きい。ほとんどが「危険種」と表示された。


 マサミツは遠くに姿を見たら、近づかずにすぐ引き返した。


 あちこち歩き回ているうちに地形も大雑把にわかってきた。


 ほぼ平地だけど深い森。

 見通しはまずまずあるけれど場所によっては歩き進むのも困難なほど密生した植物に阻まれる。


 ところどころ開けた場所もあってそういうところでは思いがけない食材があったりする。


「あ、イモだ。これは助かる」


 名称  トラン

 状態  健康

 説明  地球のヤマイモ。


 主食になりそうな大きなイモを見つけて嬉しくなった。


 しかしバックパックが満杯になっていた。

 携帯用の小さな袋にイモを目いっぱい詰め込む。


 とても全部は持てないので、大きな目印をつけて後でまた訪れるようにしておく。


 マサミツは顔を上げた。

 気が付けば陽がだいぶ傾いてきている。


「そろそろ戻ろう」


 ぱんぱんに膨れたバックパック。

 ヤマイモを目一杯詰め込んだ手提げ袋。

 それが重いとは思わなかった。

 質実剛健のおかげだろうか、疲労もあまり感じていない。

 心中で感謝した。



 暗くなる前に帰りたいマサミツは足を速めてアパートに向かう。

 目印の白いペンキを辿り、ときどき空を見上げて怪しい鳥類がいないかも確認。


 そんなことを繰り返して、マサミツは夕陽に染まる嬉野コーポにようやく帰り着いた。


 出迎えてくれた海ちゃんとひとしきりスキンシップを堪能してから、荷物を解いてアパートの中に運び込んだ。


 それから海ちゃんと食事を済ませて、風呂に入り今日の汚れを落とす。

 マサミツはベッドに横になったとたん眠気に襲われた。


「そういえばあの白いトラは何だったのかな?」


 つらつらと今日の出来事を思い出しているうちにマサミツは寝入ってしまった。


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