第10話 採集三昧
「これは食べられるのかな?」
マサミツは見かけた植物が食べられないか片っ端から調べては採集していた。
動物だけかと思ったら植物もなかなか大きい。花や実も五割増しの大きさといったところだ。
地球ではホームレスのお爺さんたちを訪ねて話を聞いているうちに食用の雑草なんかについて教えてもらったことがある。少しはわかるつもりだ。
とはいっても
きちんと確認しておきたかった。
「これはタンポポだね。あ、こっちはクローバーだ。これは……エンドウかな?」
名称 バブルム
状態 健康
説明 地球のタンポポ。可食。根は飲料にもなる。
名称 ヴァルセイ
状態 健康
説明 地球のクローバー 別名:ウマゴヤシ。可食。栄養豊富。
名称 ファリア
状態 健康
説明 地球のエンドウマメ。花・新芽・サヤも可食。
名前は違うけれど見た目と同じようだ。
「ムギみたいなのもある。海は食べるかな?」
名称 タロエ
状態 健康
説明 地球のカラスムギ。可食。若芽は猫草としても有名。
せっせと鎌で刈ったり持ってきたスコップで根から掘り出す。
こういう作業はついつい夢中になる。
「これはクレソン?」
名称 ヴェレノ
状態 毒
説明 地球のドクゼリ。猛毒。
「おっとあぶない。ちゃんと確かめてよかった。あ、これは…ユキノシタ!?」
名称 リラ
状態 健康
説明 地球のユキノシタ。薬効あり。
「もしかしたら薬を作れるかもしれないな。採っておこう」
迷わないようにプレハブ小屋にあったスプレー缶で白いペンキの目印をつけながら少しずつ移動していく。
そうやって次々と採取できるのが面白くなって熱が入っている最中のことだった。
不意に手元が薄暗くなった。
ヒュウ
風切り音がしたと思った途端。
ガン!
しゃがんでいたマサミツの両肩に強い衝撃が走った。
地面に頭から突っ込んで倒れた。驚いて見上げると、大きな翼を畳んで反転する何かが見えた。
種族 デト・サクル(ハビト)
説明 地球のオオタカ。肉食。危険種。
すごい大きさの鷹だった。
「あんなのがいるのか! なんて大きさだよ!」
マサミツはよろよろと起き上がって木の陰に身を寄せた。
お手製の木の盾もバックパックも放り出したままだった。
草狩鎌だけしっかり握りしめていたけれど、とても役に立ちそうもない。
衝撃を受けた肩に手を当てて怪我を確かめる。
あの爪で掴まれたらかなりひどい怪我になっているはずだ。
両腕は少し痺れている。
が、傷一つなかった。それどころか痛みすらない。
「え? どうして?」
そういえば衝撃で倒れる直前に、何か固いものにぶつかった音がした。
上から体当たりされながら肩を掴まれるような感じを思い出す。
「あの爪で掴まれるのを何かが阻んだ?」
ちりーん♪
スキル「保護保全」が発動しています
状態 リアクティブ・アーマー展開中
視界に現れた小さなウィンドウ。
マサミツが素早く読むとスッと消えた。
「リアクティブ・アーマー? 魔法の鎧みたいなものが守ってくれている?」
少しだけ顔を出して枝葉の隙間から見上げると、悠々と旋回している
やがて失速したように突然急降下をはじめるのが見えた。
まっすぐマサミツに向かって落下してくる。
「うわ、ここにいるのがわかってるのか」
その場を離れようと走り出したマサミツだったが、狩り慣れている
風切り音を聞いたマサミツは思わず丸まって地面に身を投げ出した。
と、マサミツのすぐ真上を大きな影が飛び越えていった。
翼を広げて減速していた捕食者は、突然現れた大きな影を避けられなかった。
そして
ビエェェェェ!
マサミツが半身を起こすと、巨体の白いトラのような獣が
種族 デト・ティグラ(アスファル)
説明 地球のベンガルトラ。白変種はホワイトタイガーとも呼ばれる。
肉食。危険種。
鋭い牙に頸部を噛まれながらも
グルルル……
唸りながら白い巨大なトラは獲物をしっかりと咥えている。
恐ろしい光景だった。
さすがのマサミツも野生の荒々しい生命のやりとりに震えて動けない。
白いトラは
ゴリッ と嫌な音がした。首の骨が折れたのだろう。
そして獲物を咥えたままマサミツに少し近づいた。
ほんの数歩だったが、その間にマサミツの震えは止まっていた。
体高だけでもマサミツを優に超える巨大なトラだった。特有の黒い縞模様を全身に纏っている。輝くような白毛とのコントラストに目を奪われそうになるほど、美しくて堂々たる姿だった。
動かなくなった大きなタカの死体をぽとりと落として
「え?」
マサミツの小さな声に、巨大な白いトラが耳を伏せた。
そして にゃうん と鳴いた。
「えええ?」
ホワイトタイガーが申し訳なさそうに身を小さくしているように思えた。
混乱しているマサミツをしばらくうなだれて見つめていた。
しばらくするとくるりと反対を向いて走り去ろうとする。
「ちょっとまって!」
走りかけたトラを、マサミツは思わず呼び止めた。
驚いたように
――
光の粒が消えた後に、大きな肉塊が数個と羽根の小さな山が並んでいた。
「きみが助けてくれたんだ。きみのものだよ、もっていって」
肉の塊と羽根の山を指さして、こんどはマサミツが後ずさりをした。
そして片膝をついてじっと待つ。
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