各話ごと

エピローグ

 夫くんの浮気が発覚したのは、とある日のこと。


 夫くんがお風呂に入っている間に、夕飯の準備を済ませようと、お皿をテーブルに並べている時だった。


 割れた保護フィルムから除く、マッチングアプリの通知画面。


 普段、インターネットにまつわるすべての物、事を遠ざけている私でも、マッチングアプリに見覚えがあった。


「Aさんからメッセージが届いています!」と一瞬ひかり、すぐに暗くなる。


 その数秒で、私の頭には「不倫」の二文字がよぎった。


 マッチングアプリをする目的など、知れている。


 頭の中でめぐる痴戯の一つ一つが、夫くんへの疑心に変わる。


 体中をめぐる血が、一瞬でどす黒い「何か」へと変貌する感覚。


 一瞬でも「何か」に身を任せると、「赤く握りしめた灰皿と、流れる鮮血」が出来上がってしまう。


 いつも通りを演じれたかは分からない。


 その日、夫が会社に行くまでの時間を、これほど長いと感じる事はなかった。

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