場に集いて、思いを伝えよ

 爆発音が何度も繰り返される。私が息を切らせて辿りついた時、リヴィオがこちらを見て、安堵の表情を浮かべた。その前方には二人の少年が本気モードで戦っていた。いつも余力を残している感じだったが、それが消え失せているアサヒとヨイチは強かった。


 文字を空中に書いてゆく。文字がどんどん炎や氷、風の刃となり、変換されていく。ルノール民の始祖が苦々しい顔をし、少年二人を追いかける。追いつかれないように軽やかに空を飛ぶ。文字が空中に埋め尽くされていく。


 猛スピードで、懐かしい日本語の文字がどんどん書かれている。力が具現化する。


「すごい……」


「あの二人は白銀の狼の力をすべてといっていいほど受けついでいるからな。セイラ、怪我は?」


 リヴィオがこれ以上はないほど疲れた顔をしている。よほど心配したのだろう。


「ないわ。リヴィオ、ルノールの始祖は……」


 本当は悪い人ではないのかもしれないと私が言う前に、リヴィオの後ろからキサが出てきた。彼はわかってると言わんばかりに、優しい目をしていた。


「キサに、なにか考えがあるのね?」


「ある。ここは任せてくれないか?」


 死ぬなよ。そうリヴィオが彼に言うと大丈夫だよと笑った。


「アサヒ、ヨイチ!退け!」


 リヴィオの言葉にクルリと身軽に一回転し、二人は降り立ち、私と子どもたちの姿を確認すると無邪気な笑顔になった。


「よかった!無事だったんだね」


「僕たち、まだこの世界に産まれたばかりなのに、死にたくないなぁ」


 ヨイチとアサヒは子どもたちの心配をしていたらしい。確かに、生まれてきたのに、転生してすぐに死ぬのを目の当たりにはしたくないだろう。自分たちの分身みたいなものなのだから……。


「ルノールの民の始祖!話がある!」


「金の鳥の守護者か。おまえは最後だ。一番苦しめてやりたい。甘言を吹き込みルノールの長に、この地を放棄させた!」


 睨みつけるミラの表情を見るが、キサは冷静に返事をする。


「冷静に考えて、もう限界だっただろう?」


「うるさい!そして再び会ったのに、この娘を裏切るような真似をするんだろう!」


「裏切ることなどしない!」


 二人の言い争う声が響く。キサが一歩ずつ近寄っていく。


「ちゃんと向き合う。ここに来たことが、その証拠にならないか?ミラ、始祖に負けるなよ!意識を取り戻せ!帰ってきてくれ!」


「もう遅い!この娘の意識は深く眠りについている。疲れきっている」


 ……疲れているのは。私は思わず、口を開いた。


「あなたも疲れているんでしょう?心が少しでも癒えていてくれればいいんだけど……どうだった?」


 温泉は?そう聞きたかったが、二人の秘密にしておくことが良いのかなと思った。言ってほしくなさそうにこちらをチラリと視線だけ送ってきたからだった。このルノールの始祖はずっと一人で戦ってきている。その疲れた心が表情となって浮かぶ。どこか泣きたそうな表情にも見えた。


 私の方を向いた瞬間だった。その一瞬で、キサが思わぬ行動をとったのだった。ルノールの民の始祖の腕を取る。ひっぱって自分に寄せると顔を近づけて……。


「えええええ!?」


「おいおいおいおい!」


「今!?」


「うわーーー!」

 

 私、リヴィオ、ヨイチ、アサヒの声がそれぞれハモった。


 あろうことに、キサはミラの体であるけれど。キスをしたのだった。一瞬のような長いようなキスを。


 その場を静寂が支配した。

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