私にできること

 私はノーチェとラビを柔らかな草に置いて、安全を確認してから、巨大な石を魔法で熱する。


「何をする?」


 パチンと手を叩いて、石の塊や岩壁を生み出していく。湧き水の流れを流れてくるようにし、貯めていく。簡易なものだけど、これで塞げただろう。


「まぁ、見てて!」


 赤くなるまで熱した石を水の中へドボンッと入れる。ジュワッと音がする。水温を確認し、流れてきている水をせき止める。ちょっとぬるめだけど、良いことにしよう。


「できたわ!簡易温泉!」


「温泉だと?」


「そうよ。近い空を仰ぎ、美しい空中庭園のような景色を眺めて入るお風呂は最高じゃない!?どうぞ」


「な、なにを考えている!こんな時に風呂になどど……」


 動揺しなかった顔が突然、崩れた。ありえないと言わんばかりに眉をひそめている。


「いいの?入らないの?それなら私とノーチェとラビが入るわよ?」


「入れるわけがなかろう!」


「もったいないわね。じゃあ、遠慮なく」


 私が服を脱ぎだすと、待て!と止められた。


「入ってみる?」


「あっちへいっておれ!」


 あ、入るのね。そして見てほしくないのね。わかったわよと苦笑してノーチェとラビも連れて、私は見えない場所へ行く。


「その赤い実でも食べておれ。栄養価が高く、体に良いものだ」


「え!?いいの?ありがとう」


 私が去る前に岩陰から声をかけられる。お礼を言ったが、それ以上返事はなかった。


 しばらく、私は赤い実をとって食べた。実は見た時から気になっていた。口に入れると実は柔らかく、甘酸っぱくておいしい。何粒でもいけそうな気がする。喉も乾いていたので、ちょうどいい瑞々しさだった。


「ノーチェとラビも欲しいの?」


 あうあうと言いながら手を伸ばす二人。いや、でも乳飲み子にあげるものじゃないだろうと思うんだけど。そう思いつつ、汁だけ絞って口に入れてあげると喜ぶ二人。


 この双子、なんだか赤ちゃんの割にしっかりとした意思を感じるんだけど?気のせいかしら?ヨイチとアサヒの記憶がすでにあるとかじゃないわよねぇ?転生者であることは知っているけど、記憶があるには早すぎるものね。気のせいよね。


 私がそろそろいいかしら?と思って温泉の場所へ行ってみると、すでにいなかった。温泉を楽しんでくれたかしら?お湯は冷めていた。


 その時だった。ドンッと音がして、天空の地の一部分が爆発した。来た!助けに来てくれた!そう思って、駆けだす。


 だけど……ふと私は足を止めて、温泉を振り返る。


 過酷な運命を歩いてきたルノールの民を見守り続けた始祖は本当は優しい人だったんじゃないかしら?と。皆が生きていくために、この地の柱となり守り続けてきていた。それが不要となり、一人になった時の気持ちは……。


 この世界で一人になること。私はなんとなく幼い頃の自分を見ているような気持ちになった。


 誰にも必要とされず、誰にも愛されることもなく生きていく。そこにあるのは怒りだけなのだろうか?


 ルノールの始祖は赤い実を食べてみたらどうかと勧めてくれた。その私の手には赤い血のように実の汁が滲んでいた。


 私はノーチェとラビと共に再び、駆けだす。皆が集う場所へと。

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