【フォスター家の次期当主は苦悩する】

 パタパタとトトとテテが玄関を走って入ってきた。


「ドミニク兄様が今日来るって連絡が来たのだー!」


「兄様!兄様!なのだー!」


 二人はとても嬉しそうだった。珍しい……フォスター家の関係者で二人がこんなに喜ぶなんて見たことがなかった。  


「百合の間にいるわよ。良かったわね」


 まあ、双子ちゃんがいることで、スタッフたちも冷静になれるだろう。私はニコニコしつつ、部屋を教えた。


 わーい!とトトとテテが駆けてゆく。夕食はトトとテテの分もいるわねと微笑ましく見守った。


 夕食は3人で食べたいと部屋食になった。私が顔を出すと、トトとテテがあっ!セイラー!と気づく。真ん中にドミニクが座っている。


『セイラ、ありがとうなのだ!』

 

 飲み物を渡すとお礼を言うご機嫌な双子ちゃんだった。


「兄様はなんだか、微妙に元気がないのだ」


「なにか悩みが合ってきたのだ?」


 トトとテテは鋭いねぇと言うドミニク。私がそっと去ろうとすると、聞いていても大丈夫ですと言われる。


「むしろセイラさんにも相談にのって頂きたい」


「お役に立てるなら良いのですが……」


 聞いてもらえるだけでと笑うドミニク。


「実は……幼い頃よりフォスター伯爵家の次期当主として育てられてきたのですが、相応しくないのではないかと思っているのです」


『兄様!?』


 双子ちゃんが驚く。


「人の良いところ見つけるのは得意なんですが、人を注意したり厳しく接することができないんです。その点……イーノならうまくやれる気がするんです」


『絶対むかないと思う』


 私たち三人の声が一斉に揃った。ドミニクがえ?なんでです!?とうろたえる。ゼイン殿下とフォスター家の次男イーノは仲は良い。悪友という言葉がぴったりで、どう考えても器じゃない。


「やってみなきゃわからないんじゃないかしら?」


 私はそう言うと、トトとテテも深く頷く。はぁと重い溜息を吐くドミニク。かなり悩んでいそう……。


「歴代の当主達のようにフォスター家を背負う覚悟がなくて、どうしても気弱になってしまうんです」


 トトがうーんと可愛らしく顎に指をあてた。


「兄様、発明も作っている間はうまくいくかどうかなんてわからないのだ」


 テテがニコッと明るい笑顔を見せる。


「どんな発明も完成して使ってみるまでは成功か失敗かわからないのだ!」


 二人が言いたいことが私にもわかった。


「兄様が良い当主だったかどうかはやってみた後にわかるのだ」


「やるまえから落ち込むのはなんか違うのだ」


 常に前向きな二人はそう告げる。ドミニクが柔らかな笑顔になった。


「二人ともありがとう……そうだね。少しだけ心が晴れてきたよ」


「だいたい母様も当主として素晴らしいかと言われたら疑問なのだ」


「ほぼほぼ家にいないのだ」


 深紅の魔女と呼ばれるフォスター家の現女当主はほぼ王都ですごしているし、性格もなかなか激しい。


「気にしないでやってみるべきね。ダメならダメでその時考えても遅くはないんじゃないかしら」


 私も前向きなトトとテテの意見に大賛成だった。そして人たらしの彼なら当主は合っている気がするのだった。周りからの助けを得てうまくやっていくと思う。


 自分で悩んで深刻に考えているよりも意外と問題はあっさりと解決することは多い。後になって、あの時は……という笑い話にできるもなのだ。


 私に例えると、苦手だった恋愛で、リヴィオに好きだと言われて右往左往していたのが懐かしくて、あの時の自分の可笑しさは今、思いだすとクスッと笑える。でもその瞬間は真剣だったのだ。


 トトとテテにもそんな経験があるのだろう。双子ちゃんは悩める兄に言った。


「一人で大変だったり問題が起きたら『フォスター工房』へ相談するのだ」


「トトとテテが解決してあげるのだ!兄様!まずはやってみるのだ!」


「二人に会うと元気がもらえるとわかっていて連絡したんだよ。ありがとう。勇気をもらえるよ」


 ドミニクは次の日、キラキラした笑顔3割増しと褒め殺しで、スタッフたちの心を掴んで帰っていった。『また来ないでしょうか?』『次はいついらしてくれるのかしら?』そんな声がしばらく続いた『海鳴亭』だった。

  

 きっと人望はフォスター家で一番あるだろう……と思う。

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