魔道具の使用
たまたま私、リヴィオ、ジーニーが揃っている時にキサがやってきた。
「あれからミラに会ったか?」
リヴィオの問いに首を横に振るキサ。若き王はどこか疲れた顔をしている。お茶を差し出すとありがとうと小さく彼はお礼を言い、言葉を続ける。
「天空の地に居ると思う」
……それは体も心も乗っ取られたままなのよね?私はゾッとした。他人の意思に支配されていることは牢獄の中にいるようだと感じる。
しばらく無言でお茶を飲んだ後、意外にもジーニーが最初に話しだした。
「そのルノールの民を捕らえるための道具はないのか?」
キサの頬がピクリとしたのをジーニーは見逃さず、続ける。
「知識の塔の賢者達の話では強大な魔力を持つルノールの民を捕えるための魔道具があるのではないか?と聞いた」
返事をためらうキサの様子からそれは真実だとわかる。目の奥が揺らぐ。
「……それは使いたくない。ミラのことはオレがなんとかする。姿を現したときは呼んでくれ」
「何か手があるのか?」
リヴィオが尋ねる。
「1つだけある」
やけにきっぱりと言う彼に私とリヴィオは顔を見合わせる。
「無理をしないで……」
私はなんだか嫌な予感がして、そうキサに言った。彼はニコッと笑い、何も言わなかった。
その雰囲気にジーニーは眉をひそめた。
「あまりミラと関わりがないから言える僕なのかもしれないけれど、使える魔道具があるならば使ったほうがいいと思う。その方が被害を抑えられる」
ジーニーの言いたいことは痛いほどわかる。力の差は歴然なのだ。しかもあちらは躊躇うことなく攻撃してくるだろう。攻撃よりも防御することははるかに難しいものだ。
「一度だけ試させてほしい。その時に無理であれば……ルノールの民用の魔道具を使用する」
「わかった」
リヴィオはやけにアッサリと頷いた。ジーニーは納得していない。
「一度だけと言うが、その一度だけのチャンス、こちらに犠牲を出さずに終えれるだろうか?」
「そのリスクはわかってる。だけど……」
現実的なジーニーの意見にキサは視線を下に落とす。
「狙われるのはオレだろう。過去のこともあり、一番憎悪を抱かれているはずだ。だから頼む。一度だけチャンスがほしい」
「それって自分を犠牲にするってことなの?」
私はキサの意思を確認しておきたかった。いくらなんでも一人で戦わせるような状況は避けたい。だって……彼は……。
「言われてほしくはないかもしれないけれど、キサがいなくなったら、あなたの国の民がきっと困るわ」
「誰か違う人が王をするだけだ」
淡々とそう返される。
「そんな事は無いだろ?オレはトーラディム王国の事情は知っている。もしキサになにかあれば、王位争いが起きるだろう。そうなれば国はどうなる?他にも悲しむ者がいることを忘れてはだめだ……だが、好きなやつを助けたい気持ちはわかる。だから、オレも一緒に戦おう」
先程、アッサリと頷いていたはずのリヴィオは実は深く考えていたらしい。
「自分一人が犠牲になってでも……という考え方はやめろ。それならミラが現れても呼ばないからな!」
リヴィオ……と呟くキサ。私とジーニーも思わず彼を見た。静まる室内。
「……わかった。約束する」
キサは時間がかかったが、頷いた。
魔道具を使用しないで救う。そう彼は青い目を強く光らせたのだった。
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