消えたアサヒを探せ!

「アサヒ、こっちに来てない?」


 ヨイチが、突然訪ねてきて、開口一番にそう言った。


「どうした?いないのか?おまえらが互いの行き場所知らないって珍しいな」


 リヴィオが仕事中の手を止める。


「来てないなら良いんだ」

 

 淡々とそう言って、踵を返すヨイチ。普段冷静なヨイチが珍しく焦ってるようにも感じる。


「ヨイチ、待って!アサヒと喧嘩でもしたの?」


 雰囲気がおかしい……。


「なにもない。だから気になったんだ」


 一緒に探すわよと私は立ち上がる。リヴィオがコートや手袋してけよ!?転ぶなよ!?と口うるさい母親のようなことを言う……。わかってるわよと言いたくなったのを我慢する。


 部屋を出てから、私はブツブツ言う。


「まったく……心配性にも程があるわー」


「セイラさん、ごめんね」


 ヨイチが謝る。どことなくいつもより元気のないヨイチ。普段はアサヒよりヨイチのほうがしっかりしているようにみえるけれど、本当はアサヒが引っ張っていってるのかもしれないと思った。


「良いのよ。今日は時間があるの」


 屋敷の使用人達、旅館のスタッフに聞いても知らないと言う。やはりナシュレには来ていないのだろうか?


 私とヨイチはサクサクと雪道を歩いていく。


「雪……」


 空から降る雪を掌を広げて受け止める。真夏の国のヨイチがフッと笑う。


「フェンディム王国では雪が降らない。だから見ると、日本を思い出すんだ。なんだかここにくると、すごく懐かしくなる」


「時々、帰りたくなる……?」


「どうかなぁ……わからない……」


 前は帰りたくないと言っていた。少し迷う気持ちが出てきただろうか?


「セイラさん!危ない!」


 ナシュレの街にきて、雪遊びの丘を越えてアラン先生のところへ行こうとすると、突然眼の前に氷の龍が現れた。


 口を開けると鋭い氷の歯が視えた。私が素早く魔法の炎を作り出そうとすると、それより早く、ヨイチが袖から筆を出して、文字を高速で描く。


『炎龍』


 文字がオレンジや赤の光を帯びて、巨大な炎の龍が出現した。氷の龍は炎に飲み込まれ、溶けて相殺されていく。キラキラと空中に氷の雫が落ちてきた。


「相変わらずお見事ね。それにしても、なんでこんなところに?」


 私の足元にピョンッと跳ねるものがあった。な、なに!?


『雪兎!?』


 無数の雪兎がピョンピョンと丘を跳ねている。赤い目と緑の葉の可愛らしい雪兎たちを子どもたちがキャッキャ!と笑い声をあげて追いかけていた。


「これはなんだ!?」


 ヨイチが叫ぶ。私が一匹捕まえてみると、ピョンと手から逃げていく。すごく可愛い!


「おーい!ヨイチ!……カッコイイ龍をなんで破壊すんだよー」


 聞き慣れたヨイチと似た声がした。


「アサヒ!?何してんだよ!?朝からいないから探したよ」


 あー?寂しかったかー?とケラケラ笑うアサヒ。服が雪まみれである。何をしていたか、もうわかった。ヨイチがひゅっと筆を出した。


「あ、ストップ!ごめん!怒んなよ!セイラさんにスイカを届けようと思って来たんだけどさ。すぐ帰ってくるつもりだったんだ!」


「スイカ?」


 私が聞き返すと、そうだよーとアサヒは寒さで鼻の頭を赤くして言う。


「食欲ないけど、フルーツなら食べやすいって前に言ってたから、スイカならいいかと思ったんだよ。ちょうどデッカイのとれたしさー」


「アサヒ、ありがとう……私のことを心配してくれてたのね」


 ……今はもう普通に食べてるということは伏せておく。


「それでもっ!行き先くらい言ってけよ!」


「悪い悪いって……雪をみたら、遊びたくなっちゃってさー。雪遊びなんて日本で過ごしていた時以来だからさ……雪をみたら懐かしくならないか?」


 ヨイチはそういうアサヒをジッと見つめる。その横を雪兎たちが跳ねてる。


「知らないよ」

  

 そしてプイッと拗ねて、スタスタと一人で帰っていくヨイチ。その後ろから悪かったってー待てよーと言いながら追いかけるアサヒ。


 異世界にやってきた二人の少年の双子は雪の中に消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る