賢者VS天才発明家

 転移装置の組み立てが始まった。


「さすが天才発明家と自称するだけある」


「フォスター家の双子、恐るべし」


 知識の塔の人達が細かい部品を見て、感心している。この部品を現地に持っていってはめ込むらしい……と、私も構造がよくわからないけど、そう聞いた。


「待て!そのアレンジはなんだねっ!?」


 赤、青、黄色……信号の色?という派手な配色の服を着た賢者ブリジットがトトとテテを止める。


「アレンジとか言わないでほしいのだー」


「こっちのほうが座標地点を正確に計測できるのだ」


 ぷるぷると震える賢者ブリジット。


「なっ、なにを改造しているーっ!?先祖代々、伝わってきた由緒正しき図面なのに!?」


 はぁ?と双子ちゃんが、両手を広げてみせる。


「古きものに固執するのは良き時と悪き時があるのだ」


「賢者ブリジット、老いたのだー」

 

 なんだとーっ!と怒り出す。見ておれ!と部品の組み立てを素早くしていく。おおーっ!と拍手する周囲の人達にブリジットはフフンと笑う。


 トトとテテも負けてはいない。クルクルクルと工具を回して、ビシッとブリジットに宣戦布告。細かい部品をキチッと負けじと素早く嵌め込んだ。おおおーっ!と周囲がまた拍手。


「トトさんとテテさんも知識の塔にくればいいのに……」


 そうスタッフの1人が言うと、他の人もそうだそうだと頷く。


「一緒に切磋琢磨しましょうよ!」


「お二人なら、賢者ブリジットの相手もお手の物って感じがしますしね」


「我々の良い刺激にもなる!」


 トトとテテがニヤッとした。


「賢者ブリジットの座を我らがとってしまうのだ」


「このっ!たわけ!そんなことができるとおもうのかいっ!」


「ためしてみるのだ?」


 賢者ブリジットが双子ちゃんの自信を見て、ぷるぷる震えた。


「ほぅ?本気で賢者を怒らせたな!」


 私ははぁ……と溜息をついた。


「賢者ブリジット、大人げないわ。エスマブル学園の出身者なら、誰もが憧れる知識の塔。私も憧れていたわ。その塔を取り仕切る賢者、落ち着いて……」


 私にそう言われて、賢者ブリジットがハッ!とした。


「つ、つい……この双子のペースに巻き込まれてしまう……」


「トトとテテは工房をたたむ気がないから、からかっているのよ」


「……このことは、ミラ様には内緒にしといておくれよ?」


 ルノールの民にとって長は絶対的な存在らしい。わかってるわと私は苦笑した。


 トトとテテは私と賢者が話してる間も部品の組み立てをしていた。魔石をはめ込む。その手早さと正確さはすごい。彼女らはやはり天才にふさわしい。だから賢者ブリジットもムキになり、本気になってしまうのだろう。


「賢者ブリジット、協力を感謝するわ」


 私が心からそういうと、フッと真面目な顔になる。ブリジット。


「こちらこそミラ様のことをお願いしている立場である。………ルノールの民を代表し頭を下げる」


 賢者ブリジットが頭を下げたーーー!?とざわつくスタッフ達。


「我が一族は長が現れた時は全力で力になるようにと言われ続けていた」


 私は……ん?と首を傾げた。


「ちょっと、聞きたいけど、それなら、あんな迷路とか必要なかったでしょ?」


 あれは趣味だ!迷路を試したい好奇心だ!と笑う賢者ブリジットもまたなかなかの人なのであった。最初から協力する気だったのに研究の材料に私達をしたのねと苦笑するしかなかった。


『完成なのだ!』


 二人が声を揃える。ブリジットが、出来栄えを確認。


「まあ、これで発動するであろう。……天空の地へ無事に行けることを願っている」


 ありがとうと私とブリジットは握手をかわした。この世界は謎に満ちている。だからこそ考えることは楽しい。知識を得ることは楽しい。没頭し夢中になることは楽しい。


 双子ちゃんと賢者ブリジットを見ていると、そう思うのだった。

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