輝く石の光と温泉

「ここが鉱石の採れるところ?こんな深い谷なのね!太陽が遠くに感じるわ」


 私がなんとなくワクワクしていると、隣から非難の声があがった。


「なんでセイラもいるんだよ!?」

 

 リヴィオが家にいろよ!と言っていたが、ついてきてしまった。ミラがそんな危険なところじゃないわよと言ったので、一緒に来てみたんだけど……気晴らしよ!気晴らし!と軽く言ってみたが、苦い顔をリヴィオはする。


 スタンウェル鉱山と違っているのは、谷間にあり、周りの石がすべて淡く輝いて魔力を帯びている。魔石の宝庫だ。


「ミラ様。ようこそ。師匠はお元気ですかね?」


 ドワーフなような小柄であるがどっしりとした人が現れた。小さな老人だ。


「アズワルトさん!師匠はいつもどおりです。相変わらず、仕事をさぼることに力を注いでます」


「それはそれは元気な証拠ですな。相変わらずぶれない方ですな」


 大神官長……言われ放題である。


「頼まれていた魔石。純魔石と呼ばれるもので、めったに採掘されず……我が採掘場でもなかなか採れません」


 アズワルトさんは採掘場の中を案内してくれる。深い谷間の底にある、採掘場はスタンウェル鉱山よりも遥かに広大だった。


 太陽の光も谷間には届きにくく、ここの採掘場の村は常に薄暗い。


「それで、あるの?」


「あります。この谷で採れないものはありませんよ」


 ミラの問いかけに、誇らしげに言うアズワルトさん。


「すごいのね……こうやって見ると、多種多様な石がまるでここに埋められたかのようにあるけど、なぜなの?」


 普通、鉱石はその地に合ったものしかないはずだが、ここの採掘場には無数に石が散りばめ、狙って埋められたかのように凝縮されている。


 ミラがその通り!と笑う。


「ここは特別なのよ。その昔、ルノールの民の保持していた石をここに埋めていて、保管庫となっていたわけ。そこに村を作って、採掘してくれてるのが、アズワルトさんの一族よ。だからこの採掘場はルノールの民にしか鉱石を基本的には売らない」


 壮大な民ね……こんなにたくさんの石を……この地上にある石を集めたかのような場所はルノールの民の最盛期の栄華を感じさせる。


 普段は谷間で質素に暮らしているんですよとアズワルトさんが言う。


「しかし例外はトーラディム王です。トーラディム王にルノールの民は恩があります。あの世界大戦の中でルノールの民を保護できたのはトーラディム王国だけでしょう。我々はトーラディム王の命とあれば石を探します」


 こっちの大陸は複雑だなぁとリヴィオが言う。ウィンディム王国は島のようなものだから領土の規模が違うためだろう。また黒龍が徹底的に守っていた。


 純魔石と呼ばれる大きな石が置いてある所へ来た。研磨され、透明度が高いが、中を覗き込むとキラキラと花火の様に光が弾けているのが見える。


「さすがね。トーラディム王が言い値で買うと言ってたわ」


 アズワルトさんが肩をすくめる。別に陛下の望みとあれば、お金はいらないんですがと言う。石の管理者として存在する一族なんですよと私とリヴィオに説明する。


「こんな谷間に住んでいると、お金をもらっても使い道があまりないんです」


 私はしばらく考えて、そうだわ!とニッコリとした。リヴィオがまさか!と叫ぶ。


 吹き出すお湯。


 パラパラと落ちてくる温かなお湯に谷の子どもたちが『すげー!!』と声をあげている。


「まさかのお礼に温泉とか……セイラ、おまえなぁ」


「ここにいる人たちには娯楽が必要よ。働いて、夜、眠る前に心地よくお布団に入る……そんな幸せを感じられるじゃない」


 そうだけどと、言いつつ、リヴィオは土の魔法を使って、お湯が溜まるようにする。石ならふんだんにありますよー!と貴重な石を並べて浴槽にする谷の人たち。


「あれ、一個の石の価値……わかってんのかな?」


 リヴィオが呆れている。豪華すぎるお風呂ね……と私も思ったが、色とりどりの石が光るお風呂は美しく、ここでしか入れ無い温泉だろう。


「いやぁ!これはおもしろい!」


「谷の綺麗な水とお湯で、温度の調節して……」


「こっちにもお湯をひいてきて4つ浴槽作るぞ〜」


 谷の人達は夢中になっている。


「素敵なお礼をありがとうございました!」


 アズワルトさんがニコニコしている。


「セイラの野望がまた一歩進んだわね……」


「温泉で世界征服しそう?」


「うん……この谷に温泉できたってきいたら、師匠もびっくりよ!……ううん。ルノールの民たちだって、まさかこんなところに!?って思うわ」


 そう言って、アハハと笑うミラ。セイラらしいよなぁとリヴィオまで言う。


 私達は無事に魔石を手にして、戻った。


 ふと……温泉が欲しい人はまだまだ世の中にいるのかもしれないと思った私だった。

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