王は玉座に居ながら悩む
大神官長がやってきて、ミラ達の話をする。
「私が、銀の護符を作るために懇意にしている鉱山があり、そこへ行ってみるようですよ。ミラも昔、行ったことありますし、あの鉱山ならば手に入ると思います」
「そうか……順調に進んでいるんだな」
ぷぷっと笑い声。大神官長が可笑しそうに笑ってる。
「なんか拗ねてませんか?」
大神官長にはバレている。
「オレだって王じゃなければ、行きたいよ!」
「仕方ありません。それが役目を得た者の宿命なんですよ。ほら、わたしだって……」
「こないだ、副神官長がどこいった!?って探し回っていたけど?王都の銭湯から出てきたって愚痴をこぼしてたよ」
思わず、半眼になってしまった。大神官長はそんなことありましたっけー?と、とぼけてる。先週のことだから、絶対覚えてると思うが……。
「ご機嫌ななめなのはそのせいじゃないでしょう?あまり感情を出しすぎると、王の業務に支障をきたしますよ」
「…………」
大神官長の言葉に思わず無言になってしまった。顔や態度にでてしまってたのかと反省する。隠してるつもりだった。
大神官長は温泉にでも入って、イライラをおさめてきたらどうです?と進める。
そうしよう……。
白い湯気のたつ温泉に入って、手足を伸ばす。その温かさにほっとする。お湯の落ちる音に眠気が起こる。王様とはなんて不自由でしがらみの多いものだろう……。水滴のついた天井を見上げる。そして目を閉じた。
冬のこの1年で最も寒い時期に、考え事をする時は温泉が一番だと思う。これを作り、教えてくれたウィンディム王国の黒龍の守護者達に感謝したいと思った。
……おかげでイライラして、臣下に怒鳴りつけなくて済む。感情をただぶつければ若い王だと侮られる。
ミラをルノールの民として幽閉、または王家に忠誠を誓わせること。もはや力のない彼女は大神官長にはなれない。ただ、城で飼われるだけの幽閉されるだけの身になるだろう。たとえ力が無いと言ったところで、誰がいまさら信じるだろうか?
……大きな力を持つことは、その代償も大きい。ルノールの民である大神官長もそれゆえトーラディム王国から離れることを特別な任務以外は許されない。
……かと言って……ミラに王妃になってくれと以前に言ったけど断られたし……そもそも、あの子どもの姿では無理だろうし……はぁ……と溜息がでる。
彼女を傷つけてしまう日が来るかもしれないのに王座に座り、光の鳥は眠っていて、何もできない自分にイライラする。
温泉でリラックスした効果があったのか、頭がスッキリし、落ち着いてきた。そして別の思考が入っていくる。
光の鳥も黒き龍も今、静かに眠っている。また再び動けるようになる日まで眠っている。
ふと本来の力無き、今、なにか起これば……そんな考えが沸き起こる。いや、魔物の装置は破壊した。それ以上に力を使うことなんてないはずだ。トーラディム王国に戦をしかける国などないし……あったとしても強大な兵力、国力で、負ける要素は今のところない。
だけど、ルノールの民を助けた時……天空の地にあったもの。あれは今もあるのか?
あれ?あれってなんだっただろうか?思い出せない。だけど重大なものであったはずだ。以前の記憶の鍵はすべて開いたわけではないようで、ぼんやりとしたモヤがかかっている。気になる存在がそこにある。
しかし今は考えても思い出すことはできなかった。
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