小さき村に隠されし道

 シア村。それはトーラディム王国内のひっそりとした森の中に存在した。村長は若い娘だった。


 小さな村にやってくるには多い人数の私達に驚くことがない。まるで前からわかっていたように受け入れてくれた。


「亡くなったおじいちゃんが、言ってたの。いつか王様や偉い人たちが来るかもしれないよ……って。それは代々言われ続けていたことだったの」


「ありがとう。守り、残しておいてくれたことに感謝するよ」

 

 キサがそう言うと待っていて良かった!と現在村長になった娘は笑顔で言う。


「王都にどんどん人が働きに出て行くから、村人も少なくなっちゃった……わたしの父さんと母さんも王都にいるの。でもおじいちゃんの後を継いで、誰かが守らなきゃと思ったの」


 こっちよ。と案内してくれる。小さな洞窟があった。その暗闇に足を踏み入れようとした時、ミラの足が動けなくなったようになっていることにキサが気づく。


「……嫌だよな。わかるよ。でもルノールの長が判断したことは間違いではないと思う。大丈夫だ。その責任は共に背負うと前に言ったはずだ」


「かなり大昔のことを持ち出してくるわね。大丈夫よ。行くわ」


 微かに笑って、ミラは歩き出す。小さな子どもの彼女は精一杯の……私はそっとミラと手を繋ぐ。


「セイラ……?」


「私も一緒にいるわ。こうしてると、ちょっと気持ち的に楽にならないかなとか?力になれないかな?って思ったの」


 ありがとうと潤むミラの目。クスッと私は笑ってから、キサにハイッとミラの手を譲った。


「私より適任はいるわね」


 ちょっと!?というミラの言葉は無視して、キサはその小さな手と繋ぐ。ありがとうと小さく顔を赤らめて私に言う若き王。


 リヴィオが新鮮な反応だなぁと呟いた。余計なことを言わないのよ!と私は睨む。後ろから退屈そうな双子ちゃんがやってきた。


「なにしてるのだ!?」


「さっさと行くのだ!」


 感動的な場面を壊しがちな3人である。


「ここです」


 装置は球体の物が3つ、その中に魔法陣のようなものが書かれていて、機械はボロボロになっている。


 トトとテテが駆け寄った。

 

「すごいのだーっ!」


「ここの構造どうなってるのだー!?」


 まるで新しい玩具を手に入れたかのようなテンションで、カバンから道具を出し、楽しそうに調べだす。スケッチブックに装置の構造をすごいスピードでペンを走らせ模写していく。


 その双子ちゃんの様子をポカンとして、思わず見守ってしまう。


「天才っていうのは、あながち誇張でもなかったんだな。自称だと思ってた」


「リヴィオ!聞こえてるのだ!」


 双子ちゃんは色々、やりすぎてしまうから、リヴィオの言いたいことも昔なじみゆえにわからなくもない。


「どう?直せそう?」


 私が聞くと、トトとテテが一旦、手を止める。


「構造はほぼ残っているのだ。だからできないことはないとは思うのだ」


「しかし時間はかかるのだ」


 ミラがその返事に目を丸くした。


「すごいわね……この技術は高度な物なのにわかるの?」


『天才発明家に不可能はないのだっ!』


「えーと……普通に現在の技術じゃ無理って感じの代物なのよ?ホントに……直せたら天才かも」


 ミラの言葉にニヤリと不敵に笑う双子ちゃんたち。しばらくシア村に滞在すると言って、もうルノールの民が作った装置に夢中なトトとテテだった。


「キサ、もう手を離していいのよ?」


 若き王は洞窟から出ても手を繋いでいて、そう言われる。スッと手を握り、跪いて、ミラの視線に合わせる。


「過去の記憶があろうとも、今を生きている。それを忘れないでいてほしい。ルノールの長やトーラディム王としてではなく、ただのキサとミラとして新しい未来を築いていけると思うんだ」


 キサは天空の地へ行く前に、ミラに伝えたかったのだろう。自分たちは自分たちだと。きっと天空の地へ行けばミラの記憶はより濃いものになり、ルノールの長の記憶に負けてしまうかもしれないと……そう彼は心配している。


 ミラは素直にうんと頷いて、優しき王に一粒だけ涙を見せたのだった。

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