私は私に自信がない
最近、体調が悪い。リヴィオが疲れかな?と心配そうに顔を覗き込む。……思わず目をそらしてしまった。リヴィオがそんな私を見て、不調そうだなとつぶやいて、今日の段取りを始めた。
「こんな日のセイラはゆっくり休んだほうがいい」
今日は仕事へ行くなと言う。自分でもわかっている。こんな日は良い仕事ができない。
「温かいお風呂にゆっくり入って、横になってろ。食べやすい物をコック長に頼んでおく」
じゃあ、行ってくる……とリヴィオが仕事に行こうとした。
「………は?……えっ?……ほんとに……どうした?なんだ?」
私は思わず無意識にリヴィオの服の裾をギュッと握っていた。ハッとして、手を離した。ごめんなさいと謝る。リヴィオがじっと私の顔を見て、無言になる。そして執事のアルバートを呼んだ。
「今日の予定は?明日以降に回せるものばかりか?」
アルバートが大丈夫です。調整いたしますと言った後に私を見て目を見開く。
「……奥様の顔色……悪いですね。大丈夫ですか?医者を呼びますね」
そうしてくれとリヴィオが言って、外出用の白い手袋を脱ぐと、ヒョイッと私を持ち上げた。え!?そこまでしてくれなくても……と思ったが、放してくれない。
「リヴィオ、ごめんなさい」
「なんで謝ってるんだ?そういうときは、傍にいてほしいと口に出すだけで良いんだ。体調悪いときは心細くなるものだからな。それに普段、あまりセイラは甘えない。もっと自分の思いを出しても良いんだ。オレは甘えられるのは嫌じゃない」
抱きかかえたまま寝室へ連れてってくれる。
「大丈夫か?目眩する感じか?水はいるか?……食欲もないしな」
私は首を横に振った。何も要らないから、傍にいてほしいと、そっと手を握った。
ナシュレのお医者様アランがやってきて、診察後リヴィオの心配そうな顔を見てほほ笑む。
「病気ではありませんよ。セイラ様は気づいてるみたいですけどね。おめでとうございます」
「は?」
リヴィオはまだ気づかない。
「えーと、懐妊されております」
「……………マジで?マジか!?」
何度も聞き返している。そんな反応なの!?そこはもう少しなんか……こう……感動的な言葉を……。
「なんで言わねーんだよっ!?」
「言わないわよっ!だってっ!違ってたら嫌じゃない!」
リヴィオが私の怒ったような口調にピタッと言葉をとめて、ちょっとアランに席を外せと言う。
「怒ってる……とはちょっと違うな?なんだ?なに不安になってる?オレにできることはなんだ?」
ギクッとした。リヴィオは金色の目でなにもかも見透かすような……そんな視線を私に送る。グッと私は拳を作る。
「こ、こんなこと……言いたくないんだけど……私のこと情けない頼りないって思うかも……」
「思わねー。なんでも言え。ちなみにオレは……今すぐ画家を呼んで家族の肖像画を書かせたいくらいに心の中じゃ喜んでる!浮かれてる!」
「な、なにそれ!?まだ無理でしょーっ!?」
前にそういえば……画家に絵を描いてもらったときに、リヴィオは家族の絵を増やしていこうと言っていたっけ。いや、でも何がなんでも気が早すぎるわ。
「私……良い母親になんてなれない。自信がないの」
「そりゃそうだろ?オレだって良い父親になれる自信はない……けど、そんなもんじゃねーの?セイラは最初からうまくやろうと完璧にしようとしすぎる。大丈夫だ。オレだけじゃなくて他にも皆がついてるだろ」
カムパネルラ家だろ?トトとテテだろ?ジーニーには無理だなっとアハハと笑う前向きなリヴィオに私は知らないうちに涙が出ていた。……私、ずいぶん泣き虫になった気がするわ。リヴィオが手でそっと涙を拭ってくれる。
私は物心ついたときから、母は病弱で抱きしめてもらった記憶は無い。父や義母には嫌われていたし……。カホの記憶は遠すぎるし、高校生だし……。
「私、ちゃんと愛情を持てるかな」
そんな愛を知らない私が愛情かけて育てる自信なんてない。……ただ、不安で怖かった。リヴィオはなるべく明るい声音で私を励ましている。そっと私の背中に触れる。
「セイラは絶対に大丈夫だ。ちゃんと愛を知っているし、持っている」
「そう……かな?」
「そうだ!それは言い切る自信がある。セイラはオレにちゃんと愛をくれてるし、オレは受け取ってる」
「そうなの?」
そうなんだ!と笑うリヴィオはご機嫌だった。……なんか始終ニコニコとしていて、喜んでる彼の姿を見たら、私は少し元気が出てきた。
「リヴィオは大人になったわね」
「いつも大人になりたいと思ってるよ。大事なものを守るために」
黒猫が!リヴィオが!変だーー!としばらくの間、変に機嫌が良く、ヘラヘラと顔が緩みっぱなしという貴重な彼を見た人たちは不気味がっていたのだった。
それは悩んでる私がバカバカしくなるくらいで……しかも子煩悩になりそうな予感がした。リヴィオの性格的には意外だったけど、兄妹が多く、家族の絆の深いカムパネルラ公爵家の彼なら納得かもしれないわと思った。
私が家族の愛を知らなくても彼が十分知ってる。教えてくれる。きっと大丈夫よとリヴィオを見て思ったのだった。
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