時は過ぎるのは早い。だから今を楽しむ。

「はー、ここの温泉も最高だよー」


 ポカポカとした顔をし、キサが温泉からでてきた。これが王様なんて絶対に他のお客様は気づかないだろう。『海鳴亭』の一部屋を借りて、ミラ、リヴィオ、私はいた。


「絶景ね!私も後から絶対お風呂に入るわ!海が見える温泉とか最高!」


 普段『花葉亭』の方にいるミラも興奮している。海水浴に来ていたのに、ここはノーマークだったわ!なんてことを言っている。面白い人である。


「会談場所をここにしたのって……もしや?」


「キサが温泉に入りたいっていうから」


 私が言うとリヴィオがやっぱりなと呟く。話をしようと言いつつ、ちゃっかり湯治に来ているようだ。


「こないだ大神官長が帰ってきた時に『海が見えるお風呂、ほんとに最高でした!身も心も癒されましたよ』なんて、モヤモヤして悩んでいた俺にそういうから、次は絶対に行こう!と思っていたんだ」


 ミラが温泉のことを考えていたのねと半眼になるが、彼は君の次くらいにねとにっこり天使のような容貌で、微笑んだことで、ミラは静かになった。やや頬を赤らめている。人を惹きつけることのできる破壊力のある笑顔である。


「それで、本題だけど、ミラは装置のある場所を知らないのか?」


「記憶にある程度はあるわ……天空の地を去ろうと決めた時のことは辛いことだったから、あまり思い出したくないけど、トーラディム王国の東にある小さい森の中にシアという小さい村があって、そこにあるはずなのよ。でも最後の一人が通った時、もう誰も二度と足を踏み入れることができないように破壊しちゃったの」


『破壊したーーーーっ!?』


 ミラ以外の声が重なった。言われた彼女は肩をすくめる。


「だって、また行くことになるなんて思わないでしょう?悪用されても嫌だし……」


 確かにそうだ。


「直せるだろうか?そっちに魔道具の作れる者はいないのか?」


 リヴィオがキサに尋ねる。


「技術はある。直せるかはわからない。だけど、天空へ行く装置を直すなんて、あまり他の者には知られない方がいいな」


「装置の仕組みを知られ、悪用される可能性もあるしね」


「人の心を疑いたくはないけれど、そういうことだね」

 

 キサが技術者かと呟いている。ミラがポンッと手を叩く。


「別にトーラディム王国じゃなくてもいいんじゃないの?」


 私はそこでハッと気づいた。リヴィオも気づいた。


「トトとテテね?」


「あいつらか。まぁ、信頼はできるけどなぁ」


 リヴィオは難色を示している。


「腕利きの者がいるのか?」


 キサが濡れてる髪をタオルで拭きつつ、聞くと、ミラがドライヤーを手渡す。


「こういう便利な者を作った子達よ!」


 髪を乾かしつつ、キサがこれを作った者なら、できるかもしれないと笑った。


 とりあえず、あの双子ちゃんに話をしてみようということになったのだった。ミラは話が終わると一階のサニーサンデーへ行き、キサに『期間限定秋のお芋ソフトクリーム』を渡すのだった。


「ここに来て、これを食べないと損だと思って!」


「いや、おいしいけど……ミラ、休暇を満喫してるなあ。俺、けっこう心配していたんだけど?」


 トーラディム王はそう言うと、ミラは胸を張って言う。


「人生楽しんだ者勝ちよっ!」


 私とリヴィオは思わずプッと噴き出して笑ってしまう。キサも笑う。そうかもしれない。悩み事も不安も尽きない人生だけど、楽しむ時は楽しんだ方がお得よねと思う。


 だって時が過ぎるのは早いから、今を楽しむ方が絶対に良いわ。小さな体の彼女が一番悩んでるはずなのに、なぜか前向きになれる力をもらったのだった。

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