お姉様とお呼び!

 シンヤ君と私はナシュレへ行くことを許してもらった。リヴィオの父である宰相のハリーが陛下に頼み込んだらしい。


 但し、セイラに会うためには、リヴィオが同行している時にしてほしいとのことだった。連れてきてくれと暗い顔で頼まれたのだった。


「たぶん、すごい落ち込んでいる」


 シンヤ君がそうポツリと言う。


「そう……そうよね……」


 私もそう思うわと頷いた。ナシュレに着き、シンヤ君の顔を見たクロウやトーマス、使用人達が騒然とした。


「は!?まさか!?」


「そんな!?生きておられたんですか?」


 ザワザワと集まってくる。中には泣いてる人もいる。いや、なんかごめんとシンヤ君が謝っている。


「説明は後だ。リヴィオに会いに来た。いるか?」


 クロウが戸惑いながらも、ハイと返事をし、こちらですと案内しようとした瞬間だった。


 私達の入ってきた玄関のドアがバンッと開いた。


「使用人達に聞いたわ!いい気味ね!」


 この声は?私は振り返る。うわ!と驚く。あのソフィアがいた。しかし記憶の中の昔のソフィアよりずいぶんと色褪せた金髪で服も質素な物となっていた。


「オホホホホ!セイラが死んだんですってぇ!?」


 高笑いが響く。後ろからニヤニヤしてるのはサンドラだろうか。


「お帰りくださいと!あれほど申しました!」


 もう一人の執事らしき人が止めている。


「あーら?財産をわけてもらうまでは帰らなくてよ!もともとはバシュレ家のものよ!」


「死んでないわよ?」


 私は腕組をしてソフィアとサンドラを睨みつけた。残念ながら、小柄な私は身長で負けていて、誰?こいつ?と見下される。


「やらねーよ。まだバシュレ家にハイエナみたいに居るのかよ」


 シンヤ君が冷たい声で言い放つ。サンドラが……え!?と目を見開く。


「シン=バシュレ!?」


「ずいぶん、図々しい母娘だな」


 ヒッ!とサンドラが小さく悲鳴を上げた。


「あーヤダヤダ。厳しくて、セイラだけ甘やかしていたお祖父様なんて、キラーイ」


 ソフィアは怖さを知らないらしく、両手を広げて、嘲る。シンヤ君はイライラして、目を細める。


「とにかく!セイラがいなくなって、せいせいしたわ!いい気味よ。あの性悪女は散々な目に合わせてくれたのよ!」


 むっ!?なんか違うでしょ!?聞き捨てならないことを言い出すソフィア。


「ちょっと待ちなさいよ?散々な目に合わせたのはあなたでしょう?セイラが許しても私は許さないわよっ!」


 ビシッと指をさして、喧嘩を買い出した私に、おい!?カホ!?とシンヤ君が止めようとする。


「シンヤ君はちょっと黙ってて!!」


 お、おう……とシンヤ君がピシャリと言われて黙る。私の威圧感に静まる玄関ホール。よく響くからちょうど良いわ!


「あんた、な、何者よ?」


 ソフィアかタジタジになっている。私は腰に手を当てる。


「女子高生よ!女子高生をなめるんじゃないわよっ!」


「ジョシコーセー!?」


「よーーーく聞きなさい!ソフィア、その腐ったミカンのような根性は直らないけど、まず、セイラのことはちゃんとお姉様と呼びなさいっ!そして、いつまでも付き纏い、セイラの前に現れるなら、容赦しないわよ!塩よっ!塩を持ってきて!」


 慌ててメイドの一人が塩を持ってきて、私に渡す。


「な、何するつもり!?」


 サンドラもソフィアも私は怖くないわよっ!ドンッと床を踏み鳴らす。ビクッとなる二人。


「二度と現れないで!セイラが許しても、この私が許さないわっ!」 


 バシイイイイッと塩を投げつけた!キャアアア!と叫びながら背中を見せて、逃げていく二人。


「ふっ……やりきったわ」


「おい?なに達成感味わってんだ?魔法とかじゃなくて、塩で撃退してしまったか……カホがこの世界で、一番最強な気がしてきた」


「なんであんなやつらに負けなきゃいけないわけ!?もうっ!セイラは優しすぎでしょ!」


「ツッコミどころが色々あるが、まあ、いいかって気持ちになるな」


 フンッと鼻息荒く、腰に手を当てる私。シンヤ君は色々言ったものの、清々しい顔になっていた。屋敷の使用人からも、パチパチパチパチと拍手が沸き起こった。


 その騒ぎにリヴィオがなんだ?と出てきた。


「うわ!リヴィオだわ!実物は3割増しにかっこいいーっ!」


「なんか、もう一人のオレだとしても、ムカつくな。確かにあいつのほうが……外人的で見た目は良い!でも性格はオレの方が断然良いと思う!」


「私、一度、見てみたかったんだもの。性格はよくわからないわね」


 私が肩をすくめると、はあああ!?と聞き返される。なんでリヴィオに対抗してるのかシンヤ君はよくわからない。


「誰だよ……って、なんでいるんだよ!?」


 どこか虚ろだった瞳が見開かれた。近寄ろうとしたが、シンヤ君が手で制す。


「とりあえず、オレには触れるなよ?カホだけ、この世界に残していくのは、色んな意味で、ものすごーーく不安だ」


「もう一人の私を助けにきたわ!リヴィオ、セイラのところへ行きましょう」


 なにが起こっているのか……わからないとリヴィオが言う。大丈夫。私にもよくわからないわと笑う。でももう一人の私のことはわかる。


 セイラは早く帰りたいと願っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る